第27話 接触


 ノブハラと分かれた私は、念のため駅のトイレで簡単に化粧直しをし、身だしなみを整えて、先程みなみが歩いていた場所へ向かいました。



 もう帰っちゃったかなぁ・・・・・。



 ただ何もせずにフラフラしている筈が無いので、きっとみなみはこの駅に何らかの仕事をしに来ているのでしょう。



 どうやって接触しよう・・・あのタイプ・・・いくら私が見た目を良くしても、それに釣られて乗っかってくる人間では無い事はわかっています。



 私は掲示板を確認しました。この掲示板には駅に隣接しているトイトイブラザーズという施設の求人情報が貼りだされていました。



ハク(求人・・・・そっかぁ仕事・・・・ほとぼりが冷めたら仕事しないと生活できないもんねぇ・・・。)




 トイトイブラザーズの求人と一緒に掲載されていたポスターも確認しました。






ハク(おーらす・・・・オーラス・・・興業・・・・。)




 下部の方に担当者の名前が書いてありました。











 担当者・・・みなみ・・・・













「・・・もしかして、お仕事お探しですか?」



ハク「え?」



 私は振り向くと、そこには・・・・。



 先程遠くから見た、茶色いスーツに身を包んだみなみが立っていました。



 みなみだ・・・・



 さっき歩いてた人・・・・・。



 意外と簡単に接触出来ました。



みなみ「ん?・・・さっき求人ポスター見てたでしょ?」


ハク「えっ?うん、まぁそんな感じ・・・・。」


みなみ「それならうちの派遣会社で登録して働いた方がいいぜ。なんたって、1つの仕事にとらわれず、毎日違う仕事が楽しめるよ。飽きがこないしそこで得意な仕事を探したらいいよ。正社員登用もあるし、本当にいいことだらけ。」



ハク「・・毎日違う仕事?!それ面白そうね!そっちの方が楽しそう!」



みなみ「・・・ちなみに失礼だけど、中卒?」



ハク「ちっ違うよ!高校は卒業してる!あんたは卒業してるの?!」



みなみ「・・・・・・」



ハク「え?どうかしたの?」



みなみ「ふーん・・・・」



ハク「・・・なんか学歴とか聞かれると面接みたいで嫌だなぁ!・・・でもま、いっかー!ここで会ったのもなんかの縁だしあなたの派遣会社?に登録するよ。このポスターの・・オーラス興業っていう会社かな??」



みなみ「まぁここじゃなんだからさ・・・タバコ吸う人?」



ハク「・・・えーっと、普段吸わないけど、あなたがくれるなら吸うよ!!」


みなみ「そっか、じゃあ行くかぁ。」



 タバコは吸いませんが、みなみに誘われるのであればとりあえず行くしかありません。



 みなみと一緒に駅裏の少し離れた喫煙所に向かいました。



 この人・・・何考えてるかわからない・・・。きっと彼なりのコミュニケーションなんでしょうけど・・・・。まぁついて行ってみるか・・・。



ハク「喫煙所誰も居ないね!!」




みなみ「禁煙ブームだからね。はい、どうぞ。」



 みなみは手持ちのパーラメントをハクに渡し、自分用のタバコに火をつけました。



ハク「あっ・・・このタバコ見た事ある・・・・身近な人が吸ってたやつかも!!」



 ふぅ~~・・・・・・・



みなみ「そうなんだ。」



ハク「ねぇ・・・思ったんだけどスーツ暑くない?!脱いだら?!」


みなみ「慣れだよ。まぁこれも商売道具だからな。」



ハク「そうなんだ・・・・・・よく見たら高そうだね!」



ふぅ~・・・・



みなみ「何やってた人?」



 みなみは煙草を吹かしながら周りを見ています。


ハク「えっ?いや、ふつーに事務員してたよ。」






みなみ「・・・・・・・・・・・」


ふぅ~・・・・・・









みなみ「ふふっ・・・・何言ってるんだ・・・・




    あんたさ、・・・ヤクザだろ?・・・・」





 は?!・・・・・ヤク・・・ザ?・・・・



 その場が凍り付きました・・・・。



みなみ「反社だろ。そういう会社に居たんだろ。」



 瞬き1つせず、真っすぐに私の方を見ます・・・。このみなみという男・・・・初対面の私に向かっていきなり何を言い出すのでしょうか・・・。



ハク「なに?・・・いきなり何なの?私女だけど!!・・・あなたの方がよっぽどそれっぽい感じがするんですけど?!」



みなみ「言っとくが、今の時代それに性別は関係ない。分かるんだよ、他の人間は騙せても、俺や俺の会社の人間の目は騙せ無い。・・・俺はあんたと全く同じ目をした人間を知ってる。1人・・・・いや2人ほど全く同じ目をした人間を知ってる。物凄く似ている、非常に特徴的な恐ろしい目だ。遺伝なのか?・・・・あんたの場合普段はなんてことないが、少し気が高ぶって凄んだ時に出るその男性的な目。女性から一気に男性的に切り替わる。」



 一体・・・なんのことだか・・・



ハク「何言ってるの?・・・・あっ分かった!!あなたメンタリストか占い師さんかなんかでしょ?!」



みなみ「またとぼけてる。とぼけるなよ、仕事が要るんだろ。」



ハク「そんな事・・・人様に迷惑をかけるような事なんて・・・私は絶対にしてない!!・・・・。」



 心当たりがありました・・・。売り上げがどうしても落ち込んだ時、やってはいけない事をやっていたというのが正しいのでしょうか。会社を大きくする為にみんなやってきた仕事なのです。父もペンちゃんも黙認でした。



みなみ「迷惑?そりゃあかけてないでしょう。俺達とは生きる世界が違うんだから。交わったらいけない者同士、そりゃあきっと迷惑の種類も違うんだろうな。まぁ、どっちにしても俺には分かんねぇ世界だ。」



ハク「あんた、何が言いたいの?私の何を知ってるの?!」



 みなみは鋭く私を睨みつけます。



 ビクッ・・・・



ハク「なっ・・・何よ!」



みなみ「・・・・こっちの世界に来るって言うんなら、用意してやってもいい、席を・・・・。」



ハク「世界?・・同じ日本人じゃない!」



みなみ「詮索はしない。俺は区別をしない、そして男女差別をしない。・・・覚悟があるなら来い、俺があんたの道を作ってやる。」



 それからでした、私が自分の表情に気を付けるようになったのはみなみがきっかけでした。



 感情の起伏に気をつける事にしました。



 この人は、やはり何か知ってる・・・・・。たった5分間、たった5分で私の知らない癖を見抜いてきました。



 恐ろしい人間・・・。父やノブハラとは違うタイプの人間・・・・。今まで出会った事のない恐ろしい人間・・・。



 こうやって私は社会に出ました。この不可思議なみなみという人間に連れられ、広い社会に飛び出しました。



ハク「あーみなみごめん、私やっぱタバコ要らないわ!」



みなみ「吸わんのんかい!じゃあ返せや!」

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