087 暗殺者多田野!!

「そうだ。魔石は良いとして、アイテムの確認をしましょうよ。」


 タケシ君は一度魔石をインベントリに仕舞い、ドロップアイテムを取り出した。


 1つはネックレス。

 もう一つは靴のようだった。


「とりあえず鑑定してみてから考えるか。」


 俺はすぐにスキル【鑑定】を発動させた。


——————


軽減のネックレス:SPの消費量が半分に軽減される。


アサシンレッグ:装備者の足音を完全に消し去る。使い慣れると壁や天井などに張り付くことも可能。


——————


「この二つは当たりだね。」


 俺はそういうと何の説明もせずに、二つともタケシ君に投げ渡した。

 タケシ君は慌てて受け取ると、受け取りそこない態勢を崩しそうになってしまった。


「あ、あぶなかった~。」


 それでも、うまく受け取て見せるのがタケシ君だ。

 おそらくさっきの戦闘で、ジェネラル以外の経験値は等分されたはず。

 そのおかげでステータスは上がったと思うんだよね。

 額に流れてもいない汗をぬぐうしぐさが、余裕をうかがわせた。


「それはタケシ君が使って。今のままだとSPとかかなりやばいでしょ?」


 タケシ君も自覚している通り、その戦闘スタイルはとても燃費が悪かった。

 いくらスキルでSPの消費を軽減しても、いずれ限界はくる。

 しかも、同時にあれだけのミサイルの弾幕を張ったんだから、切れても不思議ではない。

 

 俺は、タケシ君にネックレスの効果を説明しつけてもらった。

 これで少しはましになってくれるはず。

 そして本命のアサシンレッグ……


 これにはタケシ君が、一瞬抵抗を見せた。

 今現在、タケシ君はシャドーマントを装備している。

 ただでさえガンカタに黒いマント……中二病と言われても問題ない状況だ。

 しかしそこにまたしても黒いブーツ。

 性能は折り紙付きで、断る理由がない。

 ただしタケシ君の精神状況を考慮しなければ……との注釈が付くが。


 追加の説明を聞いて、タケシ君はもだえるように数分の葛藤をしていた。

 そしてようやく観念したように、アサシンレッグを装着した。

 ものの見事にバランスの取れた、中二病スタイルである。

 これでダンジョンが狙って配置したのなら、違う意味での悪意を感じてしまうな。


 …………ぷっ!!

 

 だ、だめだ!!

 はらいてぇ~!!


 俺は笑いを堪える様に、後ろを向いてしまっていた。

 本当は大声で笑いたかったんだけど、これ以上タケシ君の精神を削るのは得策とは思えない……んだけど……もう勘弁して……


ギギギギギ


 しばらく俺が笑いを我慢していると、後方からボス部屋の開く音が聞こえて来た。


「おっと、先越されたか……」


 入り口からは探索者パーティーの6名が姿を現していた。

 ボス部屋のリポップはおおよそ1日。

 つまりこれから24時間近くは無人の安全地帯となるのだ。


「悪いけど、ここで休ませてもらってもいいかい?」

「構わないよ。俺たちはあっちの端を使うから。」


 リーダーらしき人物が、丁寧に伺いを立てて来た。

 うん、常識はありそうだな。

 これで我が物顔でいたら、さすがに俺も黙っては居られないからね。

 

 俺たちは入り口から見て左右に分かれ、各々の野営の準備を始めた。

 

「ケントさん、どうしたんですか?」


 タケシ君は何かを感じたのか、俺に話しかけてきた。

 その顔は少しだけ不安を感じさせた。

 互いのテントは既に設営を終えており、食事の準備に取り掛かっていた時の事だ。


「いや、気のせいだと良いんだけど……。あのリーダーあまり良い空気を纏っていないなって……。なんて言ったら良いか……そう、ブラック企業の上司みたいな?」

「すみません、俺自衛隊しか知らないんで分からないです。」

「だよね。」


 思わず互いに苦笑いを浮かべてしまった。

 しばらく食事の準備をしながらゆっくりしていると、向こうから誰かがやってくるのが見えた。


「どうしました?」


 まだ距離的には20m近く離れた位置で、警戒しながら誰何を行った。

 その人物は女性で、おそらく30代……まで行かないくらいの細身と言えば良いのか、やつれていると言えば良いのか、そんな感じの人物が姿を現した。


「すみません。出来ればでいいので食料を分けてもらえませんか?」


 突然の依頼に面食らった俺は、何と答えて良いか分からなかった。

 ここに潜ってくるということは、それなりに準備をしてきているはずだ。

 それなのに食料の無心に来るとは、意味が分からなかったのだ。


「申し訳ない、こちらも自分たちの分で手いっぱいでね……」


 もちろん嘘だ。

 俺のインベントリには10人くらいなら1週間は野営出来る量の食料は備蓄してある。

 これもスタンピート時の教訓として普段からそうしている。

 食料が切れることが一番問題になるからね。


 そして断りの言葉を発しようとした時、さらに驚きの光景を目にしてしまった。

 徐々に女性が近づくと、その身に纏っていた上半身の衣服をはだけ始めたのだ。

 俺は慌てては立ち上がり、女性に毛布を掛けた。

 すると女性は突如大声を上げたのだ。


「キャ~~~~~!!助けて!!」


 この女はいったい何がしたんだ……


 すると、反対側に居た残りの5人はニヤニヤしながらこちらに近付いてくる。

 全身武装の状態で。

 なるほどね、こいつら美人局って言うか追いはぎだな。

 よくもまぁ、俺たちに絡んできたもんだ。


「おい!!よくもうちのメンバーを慰み者にしてくれたな!!」


 リーダーらしき男は、演技がかった口調で怒鳴り出した。

 俺は既に冷めきっていた。

 俺は一応紳士的に笑顔で接しようと頑張った。

 ただ、目は恐らく笑っていなかったんだろうね。

 俺の目を直に見た女性が震えていた。

 そこまで怯えなくてもいいじゃないか。

 地味に傷ついてしまった。


 しかしリーダーらしき人物は、なおも恫喝を続けていく。

 残りの4人もすでに武器を手にしており、俺たちを害する事だけに気を向けているようだった。


 それにしてもこいつらは探索者としても二流もいいところだな。

 全く気が付いていないんだから。

 一人姿を消した人物がいることを。

 そして、その人物がすでに5人をロックオンしていることを。


「お前たちに宣告しておこう。今すぐ武器をしまって元の場所に戻れ。そうすれば見なかったことにしておく。5を数えるだけ待ってやるから、決断は迅速に。」


 俺はそれから意識をそらすために、わざと右手を前に出すと、数を指折り数え始める。


「5……」


 だが男5人は、何を思ったか大笑いしていた。

 しかも、俺を嘲るように。

 しかし、先ほどまでそばにいた女性は違った。

 地を這うようにその場を這いずって離れようとしていた。

 どうやら腰が抜けてしまい、まともに歩けないようだったけど。


「4……」

「おいてめぇ~!!なめてんじゃねぇぞ!!」


 そんな男たちを無視して俺はカウントをつづけた。

 リーダーらしき男は、むしゃくしゃした感情をあらわにして剣を構える。

 ここまで来るだけの事はあって、それなりに質の良い装備をしていた。

 しかし手入れが行き届いているかと言われれば、明らかに手抜きだ。


「3……」


 なおも止めないカウントダウン。

 リーダーらしき男以外の男たちも苛立ち始めた。


 俺は、数を数えながら男たちの無能さを考えていた。

 さっさと斬り付けるなりすればいいものをと……

 そしたら面倒なことはなかったのにさ。


「2……」


 どうやら女性は、何とか安全圏と思っている場所まで這いずって移動していた。

 まあ、そこも安全圏じゃないんだけどさ。

 女性は何かに気が付き驚きを隠せない様子だった。

 男たちの後ろを指さして口をパクパクさせていた。


 男たちの後ろには気配を殺したタケシ君が姿を現したのだ。

 

「1……」


 男たちは一斉に俺に向かって攻撃を仕掛けて来た。

 だめだなこいつら……

 

 男たちの攻撃は俺に届くことはなかった。


「0……」


カチャリ


 俺がゼロを口にした瞬間に何かが音を立てた。

 そして男たちの額には銃口が突きつけられていたのだ。

 むろん女性の額にも。

 その瞬間、男たちの動きが止まった。

 額に感じるヒンヤリとした金属らしき感触……

 そしてようやく6人は理解したみたいだ。

 自分たちはいったい〝何〟に手を出したのかと。


パシュン!!


 6門の銃口から一斉に容赦なく弾丸が射出された。

 この辺はタケシ君だからと言う事だろうか。

 まったくもって躊躇いは見られなかった。


 一拍置いてドサリと地面に崩れ落ちる6人。

 その死体に向けたタケシ君の目は、何も感じていないように思えるほど無機質なものだった。


「さすがだね。」


 ボス部屋には俺の賞賛の声だけが響き渡っていた。

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