056 暗躍する者達
「まずお伝えしなくてはいけないこと。それは、このダンジョン発生が1年以上前にわかっていたということです。そして、その情報をもとに法整備や資源利用開発などが進められていました。この国の……違いますね、この世界のトップを司る者たちは、すべて把握しているはずです。」
あまりのスケールのでかさに、俺は既にパニックに陥ってしまった。
何を言われているのか、訳が分からない。
ダンジョンが出来る前にわかっていたって。
国がそれを隠していたと……
もっと前に国民に知らせて、危険を回避できたんじゃないのか?
「そして、ダンジョンが出来た後、一気にその政策を進めました。それが今の現状です。」
うん、だめだ。
意味が分からな過ぎて頭に入ってこない。
「混乱されるのはわかります。私もそうでしたから。そしてこれが一番の問題です。ダンジョンを管理する者……【ダンジョンマスター】は、主要15か国の首脳です。」
はぁ~~~~~~~~~~~~!?
じゃあ、完全にマッチポンプじゃないか!?
自分で仕掛けたダンジョンに、自国民を投入するって。
しかも、それを資源として活用するって。
「そして、ダンジョンマスターとは【魔王】の称号持ちで、世界の理から外れた者達です。こういえばわかりますよね?倒せるのが【神の権能】持ちでないといけない理由。そう、我々も世界の理から外れてしまっているのです。」
次々と告げられる事実に、俺は思考を停止させいた。
どう考えて、どう受け止めればいいのか、全くわからないのだ。
ただ言えるのは、くそ自称神がいらないことをしてくれたってことくらいだ。
「でも、どうしてダンジョンマスターである魔王を倒さないといけないんですか?資源を摂れるなら放置でいいじゃないですか?」
普通に考えたら、倒すより共存の方が得だと思える。
確かに、依存していざダンジョンから資源を摂れなくなったらって思う。
だがどちらにしても、早急の討伐とはならないと思う。
「ですので意見が割れているのです。正直私はこの世界を健全だとは思っておりません。この世界はダンジョンマスタ―であり魔王によって、実質支配されるのです。彼らが結託し、資源をコントロールし始めたら……地球は奴隷の星となるかもしれません。」
「いやいやいやいや、さすがに飛躍しすぎでしょう?それに世界と戦うために資源の研究を進めているのでしょう?だったらなおさら魔王は俺たちを使いつぶす気にはならないでしょう?」
だんだん、一ノ瀬さんの考えが見えてはきた。
しかし、そこまで一ノ瀬さんがこだわる理由が見えてこない。
俺なら現状維持を選ぶんだけどな。
「では、中村さんこちらを。」
手渡されたのは数十枚に及ぶ資料だった。
そこにはいくつもの付箋が張られており、かなり読み込まれているのがわかる。
「それは、私の部下が命がけで手に入れた資料です。そしてその中身はダンジョンマスターの研究が書かれています。」
俺は受け取った資料をざっと読んでみた。
そこにはとてもじゃないけど、信じられないことが記載されていた。
魔王同士で戦いあった場合、勝利者にその権限が委譲される。
つまりは、戦争だ。
この世界の支配者たちは、戦争をしようとしているのだ。
さらに読み進めると、一ノ瀬さんの思惑が分かった。
魔王を魔王以外の者が倒した場合、その領域は不干渉地帯として開放される。
つまり、どの魔王からも支配されない場所になるというものだ。
戦争したい派閥からしたら、許しがたい状況となってしまう。
ならば、魔王以外の者からの攻撃を防ぎ、別の国の魔王を倒す。
そして全ての魔王を倒し、世界の覇者となる。
きっとそう思って動いている奴らもいるということだ。
「これで私が協力してほしいといった意味が分かってもらえたでしょうか?」
「一ノ瀬さん……。この情報が本当ならば、きっと一ノ瀬さんの考えが正しいと思います。しかし、本当にこの情報に間違いはないのですか?」
俺の質問に一ノ瀬さんは言葉を詰まらせた。
きっと一ノ瀬さんも不安なんだろう。
命がけで部下が手に入れた情報。
それが偽物かもしれない……
だからこそ、信じての決断なんだろうな。
「一ノ瀬さん、申し訳ないが、この資料を鵜呑みにすることはできないです。それに今現在魔王同士の戦闘は見受けられません。ならば無理をする必要はあるのでしょうか?」
これが俺の素直な意見だ。
無理に引っ掻き回して問題発生なんて言ったら、目の当てられない状況にあるからね。
「わかりました。今回はこれで引き下がります。無理強いをするつもりは毛頭ありませんから。ですが、もし気が変わったらおっしゃってください。いつでも歓迎します。」
「はい。その時は。」
車は自宅に到着し、俺は一ノ瀬さんに礼を伝え下車した。
別れ際、一ノ瀬さんが窓を開けて声をかけてきた。
「ついでですのでもう一つ。中村さんの【レベルドレイン】はおそらく〝すべての生物〟に有効でしょう。ですので、近くの虫から確認して、ダンジョンのモンスターに通用するか確認するのが一番いいかと考えます。きっとそれがあなたのレベル上げで、一番効率がいい方法なのだと思います。では!!」
そう言うと、一ノ瀬さんを乗せた高機動車は走り去っていった。
それにしても濃い一日だったな。
家族に言えない秘密がかなり増えてしまった。
ダンジョンの事。
ダンジョンマスターの事。
魔王の事。
この世界の事。
色々ありすぎて、整理しきれない。
ただ言えることは自称神が一番の元凶であるということだ。
「ただいま。」
「おかえり。」
玄関を開けると、そこにはいつも通りの母さんが居た。
俺の帰る場所を懸命に守ってくれる、世界一の母さんだ。
この世界がどう変わろうとも、これはきっと変わらないんだと思う。
「そうそうケント。昼に谷浦君がきたわよ?なんでも話が有るって。」
「そっか。わかった。連絡してみるよ。」
俺は自室に戻り、谷浦に連絡をしてみた。
プルルルル。
プルルルル。
『はい、谷浦です。』
「中村です。」
『あ、先輩!!心配したんすよ?!いきなり自衛隊の車でどっか行ったって。カイリちゃんとかがめっちゃ心配してましたからね?っと、そうじゃなかった。えっと、ちょっと話さなきゃいけないことがあるんです。今朝先輩が自衛隊と出かけた後なんですが、いきなり警察官が俺の家に来て、『中村剣斗について話を聞かせろ!!』って。で、俺もなな姉ちゃんもただのパティーメンバーだってだけ伝えて帰ってもらおうとしたんですが、全然引いてくれなくて。で、警察官に所属の警察署と部署と識別番号を教えてくれって言ったら、『また来る!!』っていって帰ったんですよ。あれきっと警察じゃないですよ?いったい何したんですか?』
いつもながらマシンガントークだ。
どこで途切れてるかもわからんくらいだ。
「そっか。迷惑かけたみたいだな。谷浦、明日時間あるか?話さなきゃならない事がある。おそらく谷浦にも深く関わってくる事だから。」
『じゃあ、明日の朝に先輩の家に行きますね。』
「いや、それよりもこの前の喫茶店の方がいいかもしれないな。出来れば虹花さんも連れて来てくれ。その方が怪しまれなくて済む。おそらくお前はマークされてるからな。」
『何それ怖い!!』
「まずは明日。じゃぁ。」
『わかりました。朝一に喫茶店へ向かいますね。』
電話を終えた俺は考えていた。
いったい誰が谷浦の家に……
ただ、一ノ瀬さんの攻略推進派ではないことは確かだ。
そして、自衛隊の共存派でもないだろう。
そんなことしたら俺から協力は得られなくなるのは確実だ。
つまりはそのほかにもまだ勢力が存在しているってことか……
さすがに疲れた。
明日考えよう。
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