054 明かされる事実と欲望の先

「これはいったいどういうことなんでしょうか?」


 俺は精いっぱい睨みを効かせて、吉村を見つめる。

 それすらも意に介していないようで、その表情は崩れることはなかった。


「すまんな。君にはある種の催眠を施させてもらっている。そこの後ろに控える一ノ瀬がそうだ。」


 ?!?!⁉

 どういうことだ⁉

 どうして一ノ瀬さんがそんなことを⁉

 一ノ瀬さんはずっと俺の事を……?!


 それにしても、どうして俺はこんなに一ノ瀬さんを信用しているんだ!?

 初めて出会ったのだって、探索者講習会の時だったはず。

 それにきちんと話をしたのだって、さほど多いわけじゃない。

 なのにどうして?!


「すみません中村さん……あなたをずっと監視していました。あなたの保有スキルが、我々が探しているスキルだったものですので。監視対象とさせていただいていました。」


 意味が分からない。

 探していたスキルってどういうことだ?

 【スキルクリエイター】の事か?

 くそ⁉俺はこれからどうなるんだ!?


「そんなに怯えなくてもいい。まあ、ネタバラシではないが少し話をしよう。まずは君に精神支配をかけたことを詫びよう。これには明確な理由がある。」


 吉村がそう言うと、一ノ瀬さんが話を引き継いだ。


「中村さん、改めて謝罪をさせてください。申し訳ない。私はあなたのスキルを確認してからずっと監視していました。」


 一ノ瀬さんはとても申し訳なさそうにして、俺に頭を下げた。


「それと、訓練施設の受付にはステータスを確認できる人材を配置しています。そこで中村さんのスキルを確認したところ、【クリエイト系】スキルを保有していると確認ができたのです。」


 なるほど、訓練施設はそういった意味合いもあったのか。

 あそこは探索者になるためには必ず行かなければならない施設だ。

 他にも各県ごと訓練施設がもうけられているはずだから、監視網はしっかりと構築されているんだろうな。

 これなら、探索者を目指す人のスキルは把握しやすくなるというわけだ。


「そして私のスキルは【支配系】スキル。スキル【精神支配】です。これにより、中村さんの精神に干渉して、私を信じやすくなるように仕向けていました。」


 それで俺は、一ノ瀬さんを常に頼るようになっていたのか。

 確かにこれまでも、何かと一ノ瀬さんに相談に行っていたな。


「【神の権能】と呼ばれるスキルが存在します。それが【クリエイト系】【支配系】【七つの大罪系】【7つの美徳系】です。中村さんもおそらくお気付きでしょう。神の権能のスキルホルダーであることを。」

「……はい。」


 俺は頷くことしかできなかった。

 まさしくそうなのだから。


「それともう一つ謝ります。私もシン君の事を忘れてはいません。これは神の権能のスキルホルダーが、世界の理から外れている示唆に他なりません。」


 やっぱりか、話の流れからしてそうじゃないのかと考えていた。

 俺にバレないようにするために、あえて演技をしていたのだろうな。

 さすがとしか言いようがなかった。


「あなたを監視していたことによって、あなたの事を助けることが出来たというわけです。」


 なるほどね。

 だから不自然なまでに、一ノ瀬さんは俺の前に現れたのか。

 何か問題があるたびに、一ノ瀬さんが助けに入ってくれた。

 今考えると、おかしい話なのだ……

 あれ?じゃあ、今きちんと考えられているってことは。


「お察しの通り、支配は解除しています。体もきちんと動くはずです。」


 そう言われて俺は、自分の体を動かしてみた。

 先程まであった、強い力で抑えられる感じは全くしなかった。

 つまり、精神支配によって、肉体も連動して支配されていたというわけか……


「では本題に入ろうか。」


 一ノ瀬さんの話がひと段落すると、吉村は改めて話を引き継いだ。

 一ノ瀬さんは終始申し訳なさそうだったが、こいつは全く悪びれる様子すらなかった。


「まず、我々自衛隊は【神の権能】のスキルホルダーを探している。今我々の手元にいるのは4名。【精神支配】、【マジッククリエイター】、【寛容】、そして君の【スキルクリエイター】だ。」


 指折り数えながら話す吉村に、何とも言えない違和感を感じた。

 そもそも協力するとはまだ言っていないのにもかかわらず、すでに自分の手駒のような話しぶりだ。

 正直こいつを信用してはいけないと思えた。


「そして最終的には、すべてのスキルホルダーを集めるつもりだ。それはなぜかわかるか?スキルホルダーでなければ、ダンジョンを完全攻略出来ないのだ。つまり、その戦力を多く手に入れた国は、この世界の最強になれるということだ。」


 始まったよ……ドンだけなんだ。

 絶対現れるよな、こういうやつって。


 そして、吉村から語られる話は夢無双の物語だった。

 今まで虐げられてきた日本が、世界を牛耳る。

 世界の覇者となると……

 むしろ俺はこいつに絶対力を貸したくない。

 こいつに世界を任せてはいけないと思った。


「おっとすまないね……。ここ数日暴走気味で仕方ない。」


 暴走……?

 これ……どこかで見たような……

 まさか!?


「誰か!!こいつを鑑定してくれ!!早く!!」


 俺が慌て吉村を鑑定するように頼んだ。


「誰か!!幕僚長に【生物鑑定】を!!」


 一ノ瀬さんは俺の慌てた様子を察して、部下に鑑定を指示した。

 指示された部下は、すぐにスキルを発動させた。

 そして、その内容を見て慌てふためいていた。


——————


 氏名  :吉村よしむら 良秀よしひで

 年齢  :56歳

 職業  :陸上自衛隊 陸上幕僚長

 称号  :欲深き暴君


スキル


 共通  :世界共通言語 レベル無し

      インベントリ レベル2

 

 ユニーク:強欲


——————


 やっぱりか!!

 こいつも【強欲】に精神干渉を受けているんだ!!


「一ノ瀬さん!!こいつはスキルから精神干渉を受けています!!一ノ瀬さんなら止められるんじゃないですか!?」

「やってみよう!!」


 一ノ瀬さんは慌てて精神支配を発動させる。

 すると、すぐに効果が出始めた。

 吉村の体から、何か靄のようなモノが抜けていくのが見えた。

 次第に吉村の表情が柔らかくなっていく。


「ここは……、いったいなぜ私がここにいるのだ?なぜ皆私に銃を向けているのだ⁉」


 吉村は周囲の様子に困惑しているようだった。

 それはそうだろう、突然暴走していく上司を見ていたら誰だって疑心暗鬼になる。

 俺だって警戒を解除していない。


「覚えていらっしゃらないのですか⁉」


 吉村と一緒に入ってきた男性も驚きを隠せないでいた。


「中村さんありがとうございます。助かりました。」

「いえ、シンとの闘いがここに生きてくるとは思いませんでしたけどね。」


 そうとしか言いようがない。

 シンもまたスキルからの精神干渉で暴走してしまい、最後はスキルに飲み込まれてしまったのだから。

 吉村は運が良いと言っていいのかもしれない。


「幕僚長。あなたに【強欲】が発現しています。おそらくそれの影響で暴走されたと思われます。」

「それは本当か?!私は何ということを……何か被害は出たのかね?!」


 さっきまでとは違う感じのおじさんに、大変身してしまった。

 これじゃあ、怒るに怒れないな……


 一ノ瀬さんから大体の経緯を聞いた吉村は、ここにいた人間に頭を下げた。

 まさか隊のトップが頭を下げるとは思わず、面食らってしまった。


「それにしても問題だな。この強欲は強力過ぎる。一ノ瀬助かった。」

「いえ、礼は私にではなく中村さんに。いち早く異変に気が付き、そのおかげで対応が迅速に行えました。」

「そうだったか。中村君、ありがとう。」


 もう一度深々と吉村が頭を下げるのだった。

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