017 強くなるために
團姉弟たちと別れた僕は、一人ダンジョン受付へ向かっていた。
「ランクアップか……」
つい口から出た言葉に、自分自身で驚いてしまった。
朝にランクアップよりも、攻略を優先しようと決めたはずだった。
でも、團姉弟たちのランクアップの話を聞くと悔しいと思う自分がいた。
僕だって……と、そう思ってしまったのだ。
しかし、今の自分に上のランクのダンジョンを攻略できるのだろうか……
まず間違いなく命を落とすのが目に見えている。
うん、焦らず行こう。
僕は僕の道を歩けばいいんだから。
僕は確かな足取りで受付を目指した。
その一歩を踏み出したとき、また不思議な感覚を感じた。
なんだか、嫌な……。
そう、自称神が現れた時のような。
周りを見ても誰も気にした様子は見られなかった。
きっと気のせいだったのだろうか?
気を取り直して歩き始めた。
「中村さん、おはようございます。その後の調子はどうです?」
僕が受付を済ませると、待っていたかのように一ノ瀬さんが話しかけてきた。
一ノ瀬さんには僕のスキルについてあらかた相談をしていた。
特殊すぎるスキルの為、今後の指針について迷いがあったからだ。
一ノ瀬さんは親身になって考えてくれた。
ただ、最後の決断は僕自身でしなくてはならないとも告げられていた。
「はい、あと10日前後でこのダンジョン最下層を目指そうかと考えています。ただ、探索者ランクをアップさせると考えるとレベル不足が懸念されますね。」
「今レベルはいくつですか?」
「2まで戻ってます。今日中に7~8に上げたいですね。とりあえず、基礎ステータスの底上げはポイントで何とかなってるので、無理をしない限りは問題ないと思います。」
「わかりました。Fランクへ上がるには最低レベル10が必要ですので、その辺りも考えて行動してください。では私は仕事がありますのでこれで。」
一ノ瀬さんと別れた僕は、トランスゲートを潜りダンジョンへと足を踏み入れた。
第一層では大して苦労するはずもなく、いつもの作業のようにスライムを倒していった。
2匹目を倒したところで、ここでもいつものようにレベルが上がった。
どうやっても作業感は否めなかった。
そして手に入れたポイントは死なないようにするために、体力に振ることにした。
少しは生存率が上がるといいんだけど。
周囲を探すと、スライムのドロップアイテムは魔石(極小)が1個だけだった。
ほかは特に落ちていなかったので、改めて探索を開始した。
第二層へ向かって移動していると、前方の少し離れた場所にゴブリンの姿が見えた。
向こうはまだこっちの姿に気が付いていないようだった。
ものは試しと、僕は全力を出して飛び掛かってみた。
以前試した時よりも速度が出てしまい、そのままゴブリンを通り過ぎてしまった。
うん、ポイントを振った後は必ず慣らし運転をしないとだめだね。
とうのゴブリンは何があったかわからない顔で、辺りをきょろきょろと見回していた。
どうやら完全に僕の姿を見失っているようだった。
そんなゴブリンに、僕は背後から接近し……
その首を刎ねた。
ころころと転がるゴブリンの頭。
身体はゆっくりと傾き、最後には地面へと倒れ込んだ。
そして地面に残されたのは、こん棒と腰布だった。
それから第二層の階段を見つけるまでに、モンスターと会うことは無かった。
さすがに狩られすぎて、なかなか出会わないのも考え物だね。
第二層に降りても、現状あまり変わらなかった。
諦めて第三層を目指していると、前方にフヨフヨと動く物体を発見。
スライム、数は4。
うん、訓練には丁度良いので一気に倒しにかかった。
スライムたちはあっけなく切り裂かれ、ダンジョンへと消えていった。
そして恒例のレベルアップ。
これでレベル4になった。目標の半分だ。
残ったのは魔石(極小)が2個とスライムゼリー(青)が1個。
少しでもお金になるので地味にうれしいな。
第二層はあまり芳しくなかった。
ここも訓練場所に指定されているので、自衛隊による間引きが行われているのだろうか。
それからしばらくすると、第三層の階段を発見した。
第三層から足早に上がってくる探索者と挨拶をかわし、第三層へと足を踏み入れた。
くそ!!油断した!!
降りた瞬間に、ハンティングウルフの群れと遭遇してしまった。
さっきの探索者パーティーが、若干焦った表情をしていたのはこれが原因か!!
全く戦闘準備をしていなかったので、すべてが出遅れてしまった。
すでに囲まれており、数は6匹……
今までで一番多い群れだ。
さすがにこれはきついかな……
僕の背中には嫌な汗が流れていった。
準備が遅れた僕とは違い、ハンティングウルフの行動は、とても統率が取れていた。
隙あらばリーダーを倒そうと狙っているけど、その隙が見当たらない。
むしろ、群れを活かしてこちらの行動を制限してくる。
波状攻撃ともとれる連携で、こちらは防戦一方にならざる得なかった。
うまく捌いて攻撃に移ろうとすると、サッと後退しこちらの間合いから遠ざかるのだ。
魔法が使えたらと何度考えたことか。
ソロであることが悔やまれる。
徐々にハンティングウルフの攻撃速度が上昇していく。
僕の体力もかなりぎりぎりになってきた。
どうする!!くそ!!
なんかないか!!
周囲を見回すと、第二層への階段が見えた。
丁度、いい具合にルートが確保できている。
どうする……
額に汗が流れる……
仕方ない、戦略的撤退!!
僕は全力で後退した。
ハンティングウルフも突然のことに反応が遅れたみたいで、こちらを追いきれなかった。
何とか階段に飛び込んだ僕は、大きなため息とともに安堵した。
噂通りモンスターは階層を跨ぐことはできなかった。
悔しい……
逃げるしかできなかった自分が恥ずかしい……
何が「皆さん死なないでくださいね。」だ……
畜生……。
あまりの悔しさに涙があふれ出る。
とめどなく流れる涙は拭いても拭いても収まらなかった。
「中村さんじゃないですか。どうしました?」
ふとかけられた声の方を見ると、一ノ瀬さんが部下を引き連れて降りてきた。
僕は涙を拭いて事情を説明した。
すると、中村さんは頭を下げてきた。
「申し訳ありません。おそらく、現在第三層入り口に陣取っているのは『イレギュラー』と呼ばれる特殊個体です。我々が哨戒と討伐を行っておりましたが、どうやら漏れてしまったらしく、ほかの探索者にも被害が出てしまったようです。これより討伐いたしますので、今しばらくここでお待ちください。」
イレギュラー……徘徊型ボスモンスターだ……。
まさか第三層に出るとは思ってもいなかった。
本当に油断しすぎていた。
そして思い出す。
あの自称神の言葉を……
『この世界はこの瞬間からデスゲームへと変わります。』
そう、これはデスゲーム……
生きるか死ぬかの戦いだった……
スキルという名の未知なる力のおかげで、僕は勘違いしていたんだ。
ここはゲームの世界ではない……現実なんだ。
パン!パン!パン!
ダダダダダッ!!
銃火器による戦闘音が、ここまで聞こえてくる。
自衛隊としての戦闘を見たことが無いので、気になってしまった。
しばらくすると、一ノ瀬さんたちが第三層から戻ってきた。
どうやら無事討伐は完了したようだ。
一ノ瀬さんから、「命があってよかったですね」と声をかけられたが、本当にその通りだと思う。
あの時撤退できていなかったら……
僕はすでに殺されていたのだから。
HP: 53/103
自然回復したおかげで半分までは回復できた。
改めて第三層へ降りた僕は、周囲を警戒しつつ探索を続けた。
しばらくすると、前方にハンティングウルフが4匹徘徊していた。
僕の手は汗で湿っていた。
ゆっくりとハンティングウルフに近づいていく。
ばれないように慎重に……
僕は拾った石をハンティングウルフの奥側へと投げた。
カコーン
ダンジョン内に響く音。
ハンティングウルフたちは釣られたようにそちらを一斉に見た。
今だ!!
僕は全速で駆けだした。
初めて潜った時とは全く違っていた。
1匹が僕の足音に気が付いたらしく、こちらを振り返った。
「遅い!!」
下から救い上げるように剣を振りぬく。
面白いように吸い込まれていく剣は、ハンティングウルフを二つに切り裂いた。
そして流れるように、今だ動きが無いもう一匹に振り下ろした。
「ウゥ~~~~!!」
唸り声をあげて威嚇する2匹。
仲間がやられたんだから、当然のように警戒心を露わにしていた。
「ガウワ!!」
痺れを切らした2匹は連携を取るように攻撃を仕掛けてきた。
だがその動きもきちんと見える。
スキルやステータスのおかげかな?
ふう……
結果として戦闘は、何とか苦労せずに終わった。
楽勝だったと言えればいいんだけど、どっからどう見ても辛勝だ。
そしてここでまたレベルアップした。
これでレベル5。
ポイントは……また体力に振り分けだね。
よし。これで体力はかなり上がったはず。
体力:93(+5)
トータル98か……あと1レベルで3桁。
これなら何とかなるはずだ。
少し休んだら、またハンティングウルフを倒そう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます