008 モンスターとは

 講習二日目の朝


 訓練施設の自室で朝目覚めた僕は、少しぼーっとしながらベットに座っていた。

 昨日を思い返し、考え込んでいた。

 どうして探索者になろうと思ったのか、やはりわからなかった。

 美鈴が探索者になると言ったからなのか、時代の流れからなのか。

 今思うと、無理になる必要など、どこにもないはずなのに。

 誰かに呼ばれた気がする。

 誰かに導かれた気がする。

 そんなことを思ってしまった。


 ふと時計を見ると、朝の6時を過ぎたところだった。

 今日の講習は午前9時からだそうなので、それまでは自由時間らしい。

 その間に朝食やら、身支度やらを済ませて大会議場に集合とのことだ。

 食堂は午前7時から開くそうで、それまでの間に僕は身支度を済ませることにした。

 身支度を終えた僕は、時計を確認して食堂へと向かったのだった。




 食堂はまだガラガラで、みんな起きて来ていないようだった。

 昨日同様、食券機で食券を発行した。

 今日は焼き鮭定食にした。

 もちろん昨日確認済みの小盛りの食券ボタンを押して。

 さすがに朝から肉を食べる気にはなれなかった。

 食券をおば様に渡すと……変わらず大盛りだった。

 おかしいな、小盛りの食券だったはずなんだけどな……

 さすがに多すぎると、ご飯を半分ほどに減らしてもらい空いている席に着いた。


「いただきます。」


 焼き鮭定食の中身は、焼き鮭に納豆、ご飯に味噌汁、漬物数種類と味付け海苔。

 うん、和食っていいよね。


 僕がゆっくり食べていると、だんだん人が増えてきた。

 ほとんどの人が誰かと入ってくる。

 一人って僕だけ……?

 き、気にしたら負けだ。


「おばちゃん!!さすがに多いって!!え?若いから食べなさいって、限度あるから?!ちょ、さらに増やさないでよ?!まってって!!」


 僕がちょうど食べ終わったころ、遠くの方から聞き覚えのある声が聞こえる。

 おそらく、谷浦だろう。朝から元気いっぱいだね。

 一緒にいるのが昨日話していた友達かな?

 男性2人に女性4人の計6人パーティー……

 うらやましくなんかないんだからねっ!!


 とりあえず……リア充爆ぜろ!!


 僕は少し沈んだ気持ちのまま、食堂を後にした。




 午前9時になり、講義が開始の為、大会議場にみんなが集まり始めた。

 やはり寝坊してしまった人もいたみたいで、ぎりぎりに入ってきた人もいた。

 参加者全員が時間内に集まったところで、講習会二日目がスタートした。

 二日目も座学で、モンスターについての説明からだった。


「皆さん、おはようございます。よく眠れましたか?今日の予定は午前中にモンスターについての座学。午後に戦闘訓練とします。ではさっそく午前の座学から始めましょう。お手元に青い小冊子を準備してください。」


 昨日もらった内の青い小冊子には、イラスト付きでモンスターの事が細かく書かれていた。

 それは第3層までの内容で、第4層以降はまだ作成中とのこと。

 きっとこの情報は、事前に探索を開始した自衛隊や警察官による、地道な調査によるものなんだろうな。


 第1層は、比較的弱い不定形状怪異「スライム」と人型怪異「ゴブリン」。

 第2層は、第1層の怪異が群れを成しているそうだ。

 第3層は、第1層に加え、狼型怪異「ハンティングウルフ」と呼ばれる狼がメインになるらしい。


 スライムは粘体で打撃系が効きづらく、斬撃または刺突が有効。

 ゴブリンは特に耐性はないが、こん棒等の武器を使ってくるそうだ。

 そして、とても臭い。

 ハンティングウルフは3~5匹の群れで行動している。

 耐久値は低いが、連携の高さと速度によってケガを負う自衛官が多数いたとのこと。

 ただし、リーダー格のハンティングウルフを倒すと、途端に連帯が崩れて倒しやすくなるみたいだ。


 最後に、モンスターを倒すと魔石とドロップアイテムを落とすらしい。

 落とすといっても必ずではなく、確率的にといった感じだ。

 魔石については今後の新エネルギーとして活用が期待されており、現在は魔石からエネルギーを効率よく回収する方法を研究中でだそうだ。

 今後のエネルギーの根本を変える可能性があるそうだ。

 ドロップアイテムはいろいろな種類があり、その怪異にちなんだ素材だったり、道具や回復薬まで出るそうだ。

 ただし、買取価格については市場バランスで価値が変動するみたいだ。

 どちらも売買は任意で、自分で使用してもよいとのこと。

 個人売買の場合は所得税が、所持の場合は資産として計上しないといけないらしい。

 また、ギルドへの売却の場合は無課税だそうだ。

 この辺は政府として、素材やアイテムを回収したい意図が透けて見える。


「ここまでで何か質問はありますか?」


 一ノ瀬さんが周りを見渡しながら、質問を受け付けた。

 すると、おそらく18歳くらいの男の子が、おそるおそる手を挙げて質問をした。


「すみません、僕は武器というものを持ったことがありません。そんな僕でもモンスターを倒せるのでしょうか?」


 確かにその通りなのだ。

 僕も浮かれてここに来たわけだけど、よく考えると「戦う」ということを生まれてこの方したことがなかった。

 武道を習ったことのない僕が、本当に倒せるのか……

 その質問に一ノ瀬さんは答えてくれた。


「確かにその通りなんですよね。私も自衛隊に入る前には誰かを倒すとか、誰かを守るだとか考えたことがありませんでした。そして、〝生物を殺す〟ということの、訓練としては行っていました。いざそれを実践するとなると、一瞬ですが躊躇が生まれました。つまり、私みたいに常に訓練受けている人間ですら、戸惑うのです。ですから皆さんが戸惑って当然だと思います。ですので、簡単に言ってしまうと〝倒せるか〟ではなく〝殺せるか〟です。そして、それについてはこの後の実技訓練と、明日のダンジョン体験で詳しくお話します。今言えることは、〝何とかなる〟ということだけですね。不安にさせてしまったら申し訳ない。」


 一ノ瀬さんは一通り答えると、少年に向けて頭を下げた。

 たぶん、答えた内容がショッキングだったのか、少年の顔がすぐれなかったのだ。

 しかし、一ノ瀬さんの誠意あるその答えに、男の子は頑張って受け入れようとしていた。

 その質問を皮切りに、他にもいろいろ質問が上がった。


 倒した後のモンスターはどうなるのか?

 ステータスの詳しい内容を知りたい。

 スキルとは何なのか。

 などなど。

 一ノ瀬さんも答えられるものについては詳しく教えてくれた。


1.モンスターは倒されると、魔石とドロップアイテムを落として消える。その際黒い靄のようなモノが発生するが、今のところ人体への健康被害は報告されていない。

2.ステータスの詳しい内容は研究中。なお、暫定版でよければ訓練施設入り口の受付窓口で配布している。

3.スキルとは、〝その人の経験の積み重ね〟ではないのかとの仮説がある。または才能。詳しくはこちらも研究中。詳細が分かり次第、政府HPに情報をあげる。

4.その他、多岐にわたって研究中の為、追って政府から話が有るはずだから、HP等を確認してほしい。


「ほかに質問がある方はいらっしゃいますか?では、これで午前の講習を修了とします。午後の部は13時から訓練施設奥にあります、訓練場で戦闘訓練を行います。特に難しいことはありません。皆さんに【武器】について慣れてもらう時間です。いきなりモンスターと戦えとかはありませんので安心してください。それと、かなり動くことになりますので、昼食の摂り過ぎには注意してくださいね。前に食べ過ぎて、訓練中にダウンした方がいらっしゃいましたので。では解散とします。」


 一ノ瀬さんの号令とともに、午前の部が終了となった。

 食べ過ぎるなと言われたけど……

 だったら食堂のおばちゃんをどうにかしてくれ!!

 さすがに量がやばすぎるからね?


 俺はそんなことを思いながら、一人食堂へ向かったのだった……

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