くるみと天沢
月都七綺
第1話
「どうやら、
美術の時間。二人一組で向かい合って、互いの輪郭を描く。ポロリと落としそうになった鉛筆をキャッチして、思考停止した。
告白された。今、意中の人物である
一度深呼吸をして、待て待てと心を落ち着かせる。
「なによ、その予想助動詞は」
変に取り乱すことなく、いつも通りに。
鉛筆の芯を滑らせながら、キャンバス越しにチラリと顔を盗み見る。
ああ、今日も美しい。なんて見惚れていたら、メガネの奥に見える
「一年の
ポツリと落とされた名前。少しフリーズして、頭の中を探してみるけど見つからない。
「……え、だれ?」
あぶない。早とちりで、恥をかくところだった。
というか、先に言いなさいよ。期待はしていなかったけど、紛らわしい伝え方をしないでほしい。
「
「なにその意味不明な部」
「好きなものに愛を注ぎ、それが人ならば愛の告白をしまくる、という部らしい」
「ただのヤバい集団じゃん」
こわっ、と私は両腕をさする。
天沢が言うには、同好会最後の思い出に、その正木という人が私に付き合ってほしいのだとか。
いやいや、おかしいよ。絶対におかしい。
髪を黒く塗り潰して、木枠へ鉛筆を置いた。
「どれからツッコんでいいか分かんないけど、そもそもなんで天沢に頼むのよ」
「正木曰く、恥ずかしい。だそうだ」
淡々と答えながら、手を動かしている。人の気持ちも知らないで。
「……天沢は、それでいいの? 私が、男子と二人で会っても」
「なにか俺に害でもあるのか?」
意味深な含みを持たせたつもりだった。
止めてほしいとは言わない。ただ、少しくらいヤキモチ妬いてくれたっていいじゃない。
「聞いた私がバカだった。……いいよ、行ってやる! その人とデートしてくるから。ほんとにしちゃうからね!」
勢いよく立ち上がったら、キャンバスがパタンと倒れた。それでも顔色ひとつ変えない天沢に、心が折れそうだ。
「で、どれが正木くんなの?」
一年の教室の前をさりげなく歩き、行き交う人を目で追う。貴重な昼休みを支出しているのだから、なにかしら情報を得たい。
「あの後ろにたむろしている真ん中の奴だ」
茶色の髪をした背の高い子。黒いジャージをすらっと着こなし、キラキラした笑顔が一際目立っている。
見るからに、モテるオーラがプンプン漂っていた。
「めっちゃ女子に囲まれてる。チャラ男確定じゃん。たしかに顔はいいけど」
まあ、天沢の次にね。心の中でつぶやきながら、たらりと冷や汗が流れてくる。
あんなイケメンが、私を好きだなんて裏があるとしか思えない。彼は、なにを企んでいるのか。
「……椎名は、ああゆうのが好みなんじゃないのか?」
ゴクリと喉を鳴らした直後、追い討ちをかけるようなセリフを吐き捨てる。これぞ、空気の読めない秀才イケメン・天沢薫だ。
ずっと、片想いをしてきた。相手にされていないと分かっていても、アピールはしてきたつもり。
騒がしい陽キャグループの私と、学級委員をやるような天沢ではタイプが正反対だけど。
あきらめず視界に入っていたら、いつかは伝わるって、思っていた。
「天沢って、ほんと勉強以外はポンコツだよね」
「なんだと?」
下がってきた眼鏡を上げて、天沢が難しい顔をする。鈍感なのは今に始まったことじゃないから、気にしても仕方ないけど。
「あれー? 天沢先輩と、椎名先輩⁉︎」
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