第7話 初めての異世界戦闘
「え……!?」
叢の方を見てみると、驚いた。
そこには、小さな緑色の鬼みたいな生き物がいたのだ。その奇妙な緑鬼は手作りであろう、粗末な石の斧も持っている。
その生き物を、俺は知っていた。いや、実際に見るのは初めてだが、異世界転生アニメで見たことがある。
「まさか……ゴブリンか!」
ようやく異世界に転生した実感が持ててきた。
これまでただ物質を粉に変えたり、見慣れない植物や動物がいるだけだったからそこまで異世界転生の実感がなかったのだが、これではっきりした。
本当に異世界だ。
「ギギギギィッ! ギィィィィーッ」
ゴブリンは気持ちの悪い奇妙な声を上げる。
すると、後ろからぞろぞろと仲間が十匹くらい現れた。
仲間を呼んだようだ。
ゴブリン達は石斧を構えて、臨戦態勢に入った。
俺を殺す気らしい。
「面白ぇ……! 今の俺に喧嘩売るとは、いい度胸してやがんぜ!」
俺は洞窟から持参した腰からナイフを引き抜くと、脚に力を込めて、一瞬でゴブリンとの距離を詰めた。そして、ナイフを頭上から一閃。
すると、驚いた。豆腐みたいにすぱっと切れて、ゴブリンが真っ二つなったのだ。
骨ごと切っているはずなのに、全然腕にその感触がない。自分が思っている以上に、腕力が上がっているようだ。
続いて、後ろのゴブリンが俺に向かって石斧を振り上げたので、返す刀で振り向き様に裏拳を放ってやった。
狙いは違わず、裏拳はゴブリンの頬にヒット──したと思ったら、首ごと吹っ飛んでいった。
「うええ……俺、強っ」
自分でびっくりした。何だか、ドラゴ●ボールのキャラになったような気分だった。
俺が強いというよりはきっとこのドーピングパウダーの効果なのだろうが、それにしてもあまりに強すぎる。
もしかすると、摂取量が多すぎたのかもしれない。ハッピーパウダーと同じ感覚で吸ってしまったが、多分三分の一でも十分すぎるくらいの効果だ。
そこでゴブリンも喧嘩を売った相手がやばかったと理解したのだろう。
一目散に逃げていったが、もちろん喧嘩を売られてそのまま逃がすわけには行かない。
「全員ぶっ殺してやんぜー!!」
逃げようとするゴブリン達を追い掛けて、それぞれ悲惨な姿にしていく。
うん、完全に過剰防衛だな。きっと日本だったら動物虐待だとかで色々騒がれそうだ。
でも、ここは異世界であるし、向こうがこっちを殺す気で襲い掛かってきた。正当防衛ということにしても問題ないだろう。
というか、法律とか警察とかあるのかもわからないし、人に危害を加えるモンスター殺したんだから、むしろ感謝されてもおかしくない。
そうしてゴブリンの戦闘を終えたのだが、その数十分後──
「
ドーピングパウダーの副作用で、全身筋肉痛に襲われることとなった。
過剰に摂取しすぎたというのと、俺の筋肉量を遥かに超えた負担を掛けたせいだろう。
腕も脚も腰もとにかく全部が痛くて動けなくなってしまったので、その日はそこで休まざるを得なかった。
「あー痛ってぇ……ドーピングパウダー、使い方考えなきゃな」
何とか洞穴っぽいところまで移動して横になり、ただ痛みが消えるのを待つ。
ハッピーパウダーは何の副作用も感じなかったが、ドーピングパウダーはしっかりと副作用がある。
他の麻薬も同じように副作用があるのかもしれない。使う時には注意が必要だ。
「まずは少量で試すのが吉、だな。あ、てか麻薬の重ね掛けとかもできんのかな?」
もしモルヒネみたいに痛みを消すような効果がある粉や、疲労を治すような粉があれば、ドーピングパウダーと重ねて使えば、この副作用も防げるはずだ。
或いは、ドーピングパウダーと痛みを消す効果がある粉、或いは治療効果がある粉を調合して、ダブルで効果がある麻薬を生み出してみるのもいいかもしれない。
「つーか……筋肉を強化するタイプの麻薬なら、継続的に使って運動していく方がいいのか?」
実際、俺がいた世界のスポーツではドーピングが禁止されていた。
一度でもドーピングの使用が確認されれば、スポーツマンとしては信用を失う。ずっとやり続けているのではないか、と疑われるのだ。
だが、それだけが理由ではない。
一度ドーピングで鍛えた筋肉は、身体に蓄積されるのである。
たとえば、一度ドーピングで筋肉を鍛えて、その後ドーピングを辞めたとしても、筋トレさえずっと続けていれば、その筋肉が増えることはなくても減ることはない。
ドーピングでスタートダッシュ的に筋肉を鍛えて、あとはずっと筋トレを継続する。その基礎となる筋肉ができるまで、継続的に少量ドーピングパウダーを摂取し続けるのはアリだ。
「完全に薬漬け一直線だけど、まあ宿主がハッピーパウダー漬けだった身体だしなぁ。とりあえず、明日はドーピングパウダー調合しまくるか」
ここは異世界。俺が住んでいた日本とは勝手が異なる。
色々な可能性を考えて、準備をしておいた方がいいだろう。
俺はそのまま目を瞑って、眠りについたのだった。
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