第4話 初めての異世界人

 俺は先程の白い花のところに戻ってきた。やっぱり、ぼんやりと光っている。

 この光の正体はわからないが、これがハッピーパウダーの元であることには変わりない。


「ハッピーパウダーのもとだから……よし、この白い花をハッピーフラワーと命名しよう」


 正式名称があるのかわからないけれど、俺だけがわかればいいのだから、ハッピーフラワーで問題ない。

 早速ハッピーフラワーに触れてみると、やはり俺の固有スキルなのか、粉末になった。

 念のため吸ってみると、ハッピーパウダーに違いなかった。

 この花が俺の新たな資金源になることは間違いない。


「この場所は人に知られないよーにしねーと……って、そもそもこの世界、人いんのか?」


 手持ちの小瓶全てにハッピーパウダーを詰められるだけ詰め込んで、ふと思う。

 もしこのハッピーパウダーが流通していなくて、人里があったのなら、これで商売ができそうだ。

 もし流通していれば、まあこの粉を吸って暫く好きに生きればいい。

 とりあえず、この粉さえあれば幸福感は満たせるし、空腹感も満たせる。気分も上がるし、色々上手く運べそうな気がするので、その間に何か手を考えればいい。


「まあ、一応俺も人間なわけだし、この世界に人間がいねーってことはないだろ。とりあえず探すべ」


 ハッピーパウダーの御蔭か、妙に楽観的になっている俺は、そのまま川を下っていく。

 川を下って三〇分程歩いていくと、一軒のボロ小屋が視界に入った。


「おっ……あったあった。どうやら俺以外にも人間はいそうだな」


 ようやく人が住んでそうな建物を見つけて、安堵の息を吐く。

 いくらハッピーパウダーがあるからといって、ずっと森の中で孤独に暮らすとなると、病んでしまいそうだ。

 いや、病んだら粉吸えばいいのか? でも、あまり吸い過ぎると副作用もあるかもだしな。

 とりあえず、吸い過ぎないに越したことはない。


「こんちゃーっす。誰かいますかー?」


 俺は軽いノリでドアをノックしてみた。

 というか、俺、こんなキャラだっけか。こんな頭悪そうな言葉遣いのおっさんいたらやばいだろうに。

 あっ、もしかして宿主が若いから、そっちに影響されてんのかな? まあ、それはそれでいいか。こいつ、銀髪イケメンだし。現世の俺より間違いなくイケメンだ。

 女の子とかいたらちょっとひっかけてみようか。


「こんちゃーっす。留守っすかー?」


 返事がないので、もう一回確認してみる。

 おんぼろな家だが、一応生活感はあるので住人はいそうなものだが……もし人がいなければ、俺の住処にさせてもらおう。

 そんな悪巧みをしていたのだが、扉はすぐに開いた。

 顔を見せたのは、農民っぽい爺さんだった。

 ただ、やはりファンタジーの世界観なのか、爺さんは爺さんでも欧米人っぽい爺さんだ。


「なんじゃい、こんな朝っぱらに……って、お前さんか。どうした、こんな人里まで降りてくるなんて珍しいの」

「え、俺のこと知ってんの?」

「当たり前じゃろ。森ん中で粉食ってる変人といや、お前さんくらいしかおらんわ」


 うげ。俺、変人扱いされてたのか。

 やっぱりこの服装から鑑みる限り、ろくな生き方をしていないらしい。

 あと、普通に話してるけど、とりあえず言語も通じているようだ。よかった。

 ただ、その粉食って生きてる変人野郎として接されると、結構面倒臭い。実際にその記憶が俺にはないわけだし、ちょっくら認識そのものを変えておいた方が良さそうだ。


「いやー、爺さん。あのさ、俺、さっき谷底に落ちて頭打っちまってさ。記憶全部すッ飛んでるんスよね」

「なんと……! それは不憫な。どうりで言葉遣いも乱暴になったわけじゃ」


 あれ、こいつの言葉遣いじゃないのか。あ、俺の性格と宿主の性格がミックスされてるとか?

 まあいいや。

 とりあえず、今は現状把握をしよう。この宿主のガキが何者なのかさえ俺にはわからないのだから。


「何も覚えとらんのか? 自分の名前も?」

「ああ。全く覚えてねー」

「それは不便だの……どうやって呼べないいかの」

「あー、名前か。名前は……そうだな、俺のことは、〝クレハ〟って呼んでくれ」


 名前だけはややこしいので、元の俺の名前を使わせてもらおう。

 今更別人の名前で呼ばれても面倒だ。


「クレハ? 前に名乗っていた名前と違うが」

「そいつの記憶は飛んだ。で、今俺は自分がクレハだって認識してんの。それで納得してくれ」


 口先三寸で適当に誤魔化す。

 まあ、完全に嘘というわけでもないのだけれど。


「そうか……それなら、クレハと呼ばせてもらおうかな」

「ああ。それで頼むよ。で、爺さん。俺ってどうやって生きてたの?」

「それも覚えておらんのか。大変じゃのお」


 爺さんは憐憫に満ちた目で俺を見て言った。

 まあ色々俺が憐れなのは間違いないのだけれど、こんな辺鄙な場所に住んでいる爺さんに憐れまれるのも割と辛いものがある。


「まあ、いい。もてなしてはやれんが、安い茶でよければ出してやろう。入りなさい」


 爺さんは言って、俺を家の中へと案内してくれた。

 この爺さんが好々爺なのは間違いなさそうだが……それ以上に孤独を感じている、というのもありそうだ。

 それに、俺のこともよく知っているっぽい。

 色々な話が聞けそうだ。

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