目指せ上層

 上層部を目指すとして必要な物は3食分の食糧である。


 皆各自ミスリル製の剣、ナタ、槍、斧を持ち、持ちきれない分は背中に背負い、一部の人達は針金草(針金みたいな蔓)で作った籠を背負って、中にバロメッツの綿とピンクバナナやゴーレムと機械人形の宝石を入れて運んでいく。


 全員体内のスライムを新しく入れ替える。


 トイレの時間を短縮するためである。


 全員レベリングを済ませ40レベルまでは上げ、飛行のスキルは獲得済み。


 敵との戦闘を限りなく少なくするために俺とオタクが先頭、中園と野村が後方で真ん中に他の人達を挟んでマッピングを活用しながら最短距離を飛行で突っ切る。


 飛行のスキルの方が走るよりも早く移動することができるし、熟練度が上がり、出力を出せば80キロくらいで飛ぶことができる。


 熟練度が上がれば更に速度が出せるようになるだろうが、飛行機並みに速くなったからどうなるという話である。


 もしかしたら飛行するモンスターとドッグファイトする可能性もあるが、プテラノドン擬きくらいしか今のところ空を飛ぶモンスターも居ないしなぁ……あいつなら現状の速度で殴り落とせるし。


 そんなこんなで準備を終えた俺達は持てる物を持って最下層を後にするのであった。






 天井スレスレでゴーレムが出る階層を飛んでいるが、ゴーレムも機械人形も空を飛んでいる相手には手出しできないようで、機械人形がぶんぶんとミスリルの獲物を振り回しているが、何も問題は無い。


 ピラミッドのあるエリアに1時間もかからずに到着し、ピラミッドをショートカットして紫水晶が多くある階層に足を踏み入れる。


 ここでは飛行できるだけの高さが無いのと、飛ぶ鉱石が鬱陶しいのでウイングシールドを取っている人は展開し、取ってない人は取っている人に左右を挟み込む感じにして、進んでいく。


 道中出てきたオークは火炎放射や土魔法を駆使して倒していき、前日には壊滅させたはずのオークの巣穴がまたオークだらけになっていたので、土魔法でさっくり全滅させて埋葬した。


 次の階層は石畳のコボルトやケットシーが出てくる階層で、コボルトやケットシー、オークを石の槍を地面から生やして身体を貫いて殺し、マッピングのお陰で迷うこと無く真っ直ぐ次の階層に向かう事が出来た。


 上の階層に続く道の途中に異世界人の冒険者達と出会い、剣を向けられたが


『人類です、剣を向けないでください』


 そう言うと緊張が解けたのか剣を下ろして俺達が通り過ぎるのを待ってくれた。


 相手も争いたくは無かったのだろう。


 ただ俺達がゾロゾロと通っていくと流石に人数が多かったからかおいと声をかけられた。


 後ろの野村が対応する


『なんだ?』


『流石にダンジョンにこんな大人数で出入りするのは規約違反だ。何を取っていた?』


『何も俺達は魔法の実験でこの迷宮に飛ばされてダンジョンを出る為だけに上を目指している』


『その割には随分と良い物を持ってるじゃねぇか……嬢ちゃんよ』


『おいギニーやめとけって』


『うっせえ! 規約違反しているのはあっちだ。ギルドも密猟者には厳しいからな』


『そうだが……』


『だからよ嬢ちゃん。見逃してやるから何か出せや』


『……どこにでもこういう輩は居るのか……いや、異世界だから治安も悪いのか?』


『ゴチャゴチャ言ってねぇで出すもの出せよ!』


 ドンと後ろから音がした。


 野村と冒険者が揉めている声は聞こえたが、後ろを振り向くと、野村が何かを壁に投げていた。


 壁には潰れた飛ぶ鉱石がめり込んでいる。


 冒険者達は腰を抜かしてその場にへたり込んでいる。


『悪いな……先に進む。口止め料はさっきので良いな』


 野村はそう言うと前に向かって歩き始めた。


 冒険者達は口をパクパクさせて何かを言おうとしていたが声が出ないらしい。


 俺達は冒険者を横目に先に進むのだった。










 巨大樹の下に到着し、全員いる事を確認してから軽く休憩を取る。


 上の方ではプテラノドン擬きが空を飛び回っているが、降りてくる様子は無い。


「ちょっと皆に聞きたい。流石にこの人数で動いていると他の冒険者からちょっかいかけられることもあるからそれを込みでも集団で動くか、4つの班くらいに分かれて行動するかどっちが良いと思う?」


 と俺が聞く。


 さっきの野村の行動と冒険者の発言を皆聞いていたので、結構真剣に悩む。


「危険込みでも集団で動いた方が良いでしょ……そうすればトラブルの対処を個別でする必要が無いし、数が居ればそれだけで威圧になる」


「委員長の意見に賛成! 流石にここでグループに分かれるのは悪手でしょ、金やん」


 委員長の発言に和田さんも同調したことで集団で動くことにクラスの意見は纏まり、軽食を食べ終えると空を飛びながら空中で襲ってきたプテラノドン擬きをぶん殴ってから首をへし折り、首を掴み、引きずりながら俺は歩いた。


 これを見れば普通の奴はちょっかいをかけてこないだろう。


 巨大樹の頂上付近の穴から内部に入り、階段を進んでいくとまた洞窟の様な場所に出た。


 キッチーナが言っていた様に整備されているらしく、看板が立てられていたり、入り口付近で商売をする商人等も居た。


『おやおや、見かけない人達ですね……飛竜を討伐したのですか! どうでしょう900Gで買い取りますが! 運んでいくのも億劫でしょう』


『いや、訳があってこいつは売れないんだ。また潜ると思うから次は頼むよ。商人さん名前を聞いても?』


『あっしの名前はブラッキーですぜ嬢ちゃん……その様子だと新人ですかね』


『まー、そんなところだ』


『訳ありと見ました。もし飛竜を900Gで売ってくださるのならば外までの案内と手引きをしますが?』


 その言葉に後ろに居た先生にどうするか聞くと


「コネにもなりますし頼ってしまいましょう」


 と言われたので、俺はブラッキーと言う商人に飛竜を渡した。


『ずっしりと大柄な飛竜だ。これならこっちも高く売れそうだ……お前ら商品が入ったぞ!』


 するとブラッキーの周囲に居た男達が飛竜を荷車に乗せて運び始めた。


『あの人達は?』


『ああ、奴隷ですぜ? 嬢ちゃん知らないの?』


『魔法の実験に失敗して気がついたらこの迷宮の深部に仲間と飛ばされていたんだよ。俺の国だと奴隷が居なくてな……珍しくて』


『なるほど訳ありの理由が分かりましたぜ……ならあっしが知らないのも必然か……あっしはダンジョンの中で冒険者から商品を少し安く買い取る代わりにその場で現金を支払い、ダンジョン内で冒険者が重い獲物を運ばなくても良いように動く運び屋ですぜ』


『商人とお嬢ちゃんは言うが、あっしもれっきとした冒険者……まぁ商人の真似事をしているのは間違いないでゲスがな』


 ケヒヒと背の小さい男はそう言う。


 ただ奴隷を5人も運用しているのを見るに、それなりの資金力と実力があるのは間違いないだろう。


 更に大人数になったが、ブラッキーが先導してくれると直ぐに次の階層への道に出た。


『道中モンスターがでなかったな』


『3階層はトゲイノシシと角ウサギですが、大人数居ると出てこないんですぜ。臆病……いや、大人数の気配がすると隠れると言いますか……』


『2階層とかもそうなのですか?』


『いや、2階層は逆に人数が多いと寄ってくる。ゴブリンがうじゃうじゃいやがるからな』


『ゴブリンの強さは?』


『なんだゴブリンも居なかったのか? そうだな……強さ的には子供と同じくらいだが、奴ら石のナイフや剣を持ってやがるし、数が居る……油断しているとグサリだ』


『なるほど』


『悪いがこの人数だから嬢ちゃん達もゴブリンとも戦ってもらうぜ』


『ゴブリンは素材とか落とすのか?』


『換金物か? 倒せば魔石を落とす。質は悪いがな……それでも1つ10Gはする……まぁ更に上のスライムも1体10Gで取引されるから初心者を乗り越えた奴らはゴブリンを倒すよりも迷宮の壁から採掘できる屑鉄の回収の方が金になるがな……偶に魔石も出てくるし』


 ブラッキーの説明を聞きながら上の階層に出る。


 周囲を見ると修学旅行で行った長崎の軍艦島みたいに思える。


 あちこちに穴が空いていて、ランプが吊り下げられ、その中に魔石と光源になる何かが入っていて光りを灯し続けている。


 ゲヒ、ゲヒヒと声がすると子供くらいの大きさに頭でっかちなフォルム、緑色の肌に生理的険悪を抱くような不清潔な腰巻きをしたモンスター……ゴブリンが5体ほど石の斧を構えながら襲いかかってきた。


 俺は咄嗟に前に出ると、火炎放射でゴブリンを焼き殺していく。


 ゴブリンは一瞬で燃えると、断末魔をあげて、魔石を残して消えてしまった。


『ブラッキーほいよ』


 俺はブラッキーに魔石を投げる。


『情報料だ受け取ってくれ』


『へへ、竜人と思っていたが嬢ちゃん達は魔法が使えるのか……そりゃ飛竜を倒せるわけだ。チップは受け取っておくぜ』


 ブラッキーは貰った5つの魔石をポケットの中にしまうと先に進む様に奴隷に指示するのであった。

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