砂漠の線路上に完膚あり‼︎

暁砂パスタ

第1話 出発①

  砂漠の線路上に完膚あり



 パン屋の電灯によって、西洋と東洋の文化が入り混じった、砂色の街が露わになる。

冷たい風に吹かれ…いや、自らが風になり砂の混じった空気を切っていく。


 耳をすませば右下にあるバイクと、

そこら中に走っているトラックのエンジンの音はもちろんのこと、砂が鉄とゴーグルにこすれる音、コートのはためく音、店のシャッターを上げる音、しかしいまだ話し声は聞こえない。


 そして今日ここアフリカで一番初めに口をひらいたと思われるのは、隣で運転しているコートを着たモニカだった。ピンク色の長い、もみあげをなびかせ、


 「あともう少しで着きますよ…。」


 すこし引き気味に聞こえたのは私が初対面なのに、ずっと彼女の顔を見ていたからかな?

…いや、朝早く起きて私を迎えに来てくれたからだろう。疲れているのかな?


 ご苦労様と心の中で感謝していると、ライトアップされた灰色の巨大な駅と長い長い渋滞が見えてきた。トラックの前に止まると排気ガスが顔にかかってくる。不快だと言いたいが、その暖かさはこの夜を過ぎるまで無いと思われた。



「全く進まないねぇ。百メートル進むのに三時間くらいかな?」


「そんなの待ってられませんよ。」



 「あと一時間」と言ったモニカは申し訳なさそうな顔をしてバイクで、しかしサイドカーなせいで手こずりながらも縁石をこえて歩道に乗り込んだ。朝早すぎるおかげで誰も歩いてはいない。


 そうして道を進んでいくと、サーチライトが暗い天空を照らし、幻想的にライトアップされた赤いタペストリーがコンクリートの灰色を下地に、駅の屋上から垂れ下がっているのが見えた。


 まだ遠いので霞んで見えないが「民衆の解放と独立」「あの勝利から5年…フ…線…完成?」かな。


 「あの勝利から5年、アフリカの幹線、鉄道完成から2年ですよ?エリカさん。もしかして目が悪いんですか?」


 「心がよまれた⁉」と言おうと思ったが、しかしほのかに温かく、まだ動かしていないのにストレッチされた口をさわり、そんなやわな定石を打つのはやめようと思った。


 ただただ座り、揺られ、駅に向かう疲れ切ったトラック運転手たちを横目に見ていると、一瞬、サイドミラーに睨む目が反射した。そこには故郷のために故郷から離れ、敵と戦っていたはずが、故郷のために故郷達と睨み、もはや自分にさえ憎む目があった。


 そんな一瞬を忘れさせ、手元にあるトランクケースに手を突っ込み、感触で忘れ物がないか確認する。


 いつの間にか割って入って車の流れに乗ると、途中で装甲車と軍服を着た数十人が検問しているのが見えた。今走っている道路は一方向ずつ6車線でかなり大きい。それを二台の装甲車が両端の2車線をふさぎ、二十ミリ機関銃をこちらに向けている。そこの間を、確認を取った車が走っていく。


 待っているとついに順番が来て身分証みせて…意外とあっさり終わってそのまま進んでしまった。自分もエリカも彼らとは制服は違うが同じ国の軍服を着ていたからだろう。

 しかしあそこまで大々的に検問するなんて何かあったのだろうか。


        ー駅構内ー


 バイクのエンジンを唸らせコンクリートの入口に入って行くと、「うるせえよ」と壁が言ってるかの如く反響音がなった。減速の標識もあり、ほかの車もスピードを落としていく。


「ところでどこに向かってるんだっけ?」


「パッ」と唇をあけエリカ

「これから出発ですよ!エリカさん!」


「さっき急にウチに電話がきてペチャクチャ言ってたからどんな任務なのか、どこに向かうのかまったくわかんないんだよね。そのあとすぐ君が迎えに来たけど上司たちはただ手を振ってただけだし。」


きょとんとモニカ

「ん?二日前くらいから聞いてるのかと思いましたよ。だって問題が起きたのが二日前で、停車したの昨日で…まあ、最近はいろんな情報と物がごった返してますからね。『近いうちに戦争が起こるぞ』なんていう噂も現実になるかもしれませんよ?あなたがこれから乗る列車も相当な戦車や軍需品が載ってますし。」


「これから列車に乗るの?ん~どこに行って働くのかな。」


「いや、列車内で働くんですよ。それもただの貨物列車じゃなくて、我らが海軍の技術の結晶、装甲列車ズィーシュランゲ号ですよ!」


少し興奮気味なモニカに若干引きながらも

「海軍が造ったからウミで、列車ってヘビっぽいから合わせてウミヘビ、ズィーシュランゲってこと?というか陸軍じゃなくてなぜ海軍…」


「いや、それは怪物の名前で一つの単語ですよ。もともとは『シーサーペント』とかいう『英語』の名前で西側と共同開発されてたんですけど、第二次アフリカ派遣の時に試作を盗み出してきて結果的にドイツ語の『ズィーシュランゲ』にしてやったんですよ。あとドイツとノルウェーの沿岸防衛用だったので、一応海軍主導で開発してました。」


「じゃあもしかして海岸でこれから過ごすの?地中海かインド洋か…」


「いや内陸部ですよ。砂漠とサバンナ、ジャングルです。海岸防衛ではなくて輸送と国内部の敵の殲滅です。こんな時に列車、特に装甲列車なんてそんな贅沢に使えませんよ。」


「最大の敵は外より内」とモニカが言っているうちに二〇〇三番線に着いた。

 モニカはここをUボート・ブンカーの様だと言っている。カイロ駅ではなく列車ブンカーだろうか。


 灰色の柱が並び、道路兼作業用のプラットホームがある。この駅は車庫と一つになっていて、厚さ4メートルの鉄筋コンクリートの下で修理、改修、一般人から貨物の積み込みまで行っている。また軍事基地もあるため、とんでもなく巨大な建物となっているのであった。


 二〇〇三番線に着いたはいいものの、そこには車両の一台も無かった。あるのは、のびのびと伸びた線路のみ。


「は?ないぞ?移動するなんて聞いてないぞ。」


と言った困惑したモニカに間違っているのでは無いかと尋ねていると、


「あの、もしかしてズィーシュランゲの人ですか?」


 そこには膨らんだリュックを背負い、大量のトランクケースを持った二人の軍服を着た者がいた。そのオリーブ色の服は陸軍と見受けられる。


 一人は丸眼鏡のふくよか二曹、もう一人は茶色のポンチョとオリーブ色の帽子を深くかぶった三曹。しかし彼らは見慣れなぬ腕章をつけていた。黒い下地に黄色い十字、そこに「宣伝部」と白い文字。

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砂漠の線路上に完膚あり‼︎ 暁砂パスタ @Gipsun

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