最◯すぎて追放されそうにないんだが

トンボのめがね

第1話 最◯すぎて追放されそうにないんだが

 「セイジ、パーティを抜けてくれないかな。」


 突如なされた解雇勧告。それに対して、戦士セイジは驚きを隠せなかった。




 「俺がこのパーティを抜けていいのか…?」


 「むしろ抜けたほうが貴方のためです。」


 聖女と呼ばれる白魔導師、ハクエがきっぱりと言う。




 「あのなぁ、セイジ。俺達のパーティが所属するギルドはこないだの任務でS級に認定されたんだ。てめぇじゃ不相応なんだよ。」


 ガタイの良い剣士、ケイヤがそう続ける。はじめにパーティを抜けるよう言った黒魔導士のクロは優男フェイスをやや曇らせつつ言葉を続ける。




 「ケイヤの言い方はきついけど、僕も同じ意見なんだ。何せ、僕たちのパーティが目指すのはs級を超えた最強パーティだからね。危険も伴う。」


 


 成る程。つまり、自分は実力不足だからこのパーティには不要と。


 「だが、俺がこのパーティを抜けたらきっと困るぞ。」


 「困る?んなわけねぇだろ。」


 


 大きな声でケイヤは言う。しかし、きっと困ることになるはずだ。何故なら、


 「俺がいなくなれば排水溝の掃除も、食器洗いもやる人間がいなくなるんだぞ。」


 「た、確かに面倒くさい仕事が増えるのは嫌ですね…」


 ハクエはやや困り気味に言うが、リーダーであるクロはひかない。




 「……雑用は嫌だけど、何とか僕たちで回せるさ。そもそも、僕はセイジが戦ってるのを見たことがないんだ。」


 「俺もだ!おめぇいつもまだその時ではないっつって逃げ回ってたよな!?」


「失敬な。敵を錯乱していただけだ。」


 「苦しい言い訳ですね!?」




 何とか反論を捻り出したものの効果はなかったようだ。このまま話は追放一択で進んでしまうのだろうか。それは困るのだが。




 「…。よし。ねぇ、セイジ。僕達に君の力を見せてくれないかな?それで君の力が充分だったら、僕も謝るし、これからも一緒にパーティを組みたい。」


 「…俺の力をか?……。分かった、仕方がない。」


 「それじゃあ、S級のクエスト受けるぞ!」


 「力を試すのですから、A級ぐらいで良いと思いますよ…」




 少し厄介なことになってしまった。自身のあまりの力に、皆が驚かなければいいのだが。


 そんなことを思って早速、モンスターの討伐クエストを受けることにした。


























 


 


 引き受けたA級クエストは洞窟に住むドラゴン討伐であった。目的地へ向かうためセイジ一行は街から平野へと移動していた。


 「あ?何でこんなとこにD級のスライム一匹だけいんだ?」


 先頭を歩いていたケイヤはそんなことを言って、スライムを斬ろうとした。


 


 「ケイヤ、待ってくれ。今日はあくまでセイジの力量を見る日だ。道中もなるべく彼に任せよう。」


 「はっ、別に構わねぇけど。スライム如きじゃ、流石に力は測れねぇだろ。」


 後方を歩くクロに反発したケイヤだったが、リーダーの言葉だ。従わないわけにもいかない。




 「セイジ、出番ですよ。見せてください。貴方の力を。」


 ケイヤの後方に隠れていた俺に対して、声がかかる。仕方がないと、気怠げに前へ出て斧を構える。




 「やっとセイジの戦いが見れるのか。」


 クロが呟く。一瞬の静けさが空間に広がり、その後、セイジとスライムの戦いが始まった。




 かと思うと、戦闘は一瞬で終わった。結果は勿論、


 「D級のスライムに負けてる!?」


 「う、嘘だろ。」


 「この有り様、嘘に見えるのか?」


 「負けたのにどうして偉そうなんですか!?」


 スライムによって体中ベタベタにされた戦士セイジはしたり顔で座り込んでいた。負けたのだが。




 「貴方、どうして戦士になれたのですか…?その実力では育成学校を卒業出来ず、戦士にもなれない筈です…」


 「ふっ、簡単なことだ。あまり大きな声では言えないが、俺の父は育成学校の校長とズブズブでな。」


 「最悪だぞオメェ!?」


 「本当に、大きな声で言わないほうが良いことだよ、それ!」


 やはり、俺の力を見せることで皆を驚かせることになってしまった。まぁ、過ぎたことだから仕方ないと割り切ろう。




 「というか、もしかして、D級のスライムに勝てない君がギルドに入れたのって…」


 「あぁ。もしかしなくとも、ギルドの幹部にも父とズブズブな奴がいるんでな。」


 「ドヤ顔かましてんじゃねぇ!」


 先程から吠えてばかりのケイヤ。随分元気なものだ。それはそれとして、こちらもこのままパーティを外されては困る。故に、




 「パーティ追放の件、これで勘弁してくれ。」


 手持ちの金貨、ありったけを渡すことにした。


 「だから、そういうのやめたほうが良いですよ!セイジ!」


 「僕も同意かな…。家がいいところなのは知っていたけどそこまでとは…」


 


 頭を悩ます一同。無論、こちらも頭を悩ませている。資金がだめならどうしたものか。そう考えていた。だが、


 「流石に君のことを追放したら、この後が心配になってきたよ…」


 「あぁ。その辺で野垂れ死にそうだしな。」


 


 話の流れは良い方に向かっているらしかった。


 「ということは、俺はこのままパーティに居て良いのか?」


 「まぁ、心配ですしね…」


 「!そうか。よし。感謝の印としてこれをやろう。」


 「そのお金はもうしまおうか!セイジ!」


 与えようとした金貨を押し返されつつ、セイジは安堵した。


 弱すぎた為にパーティを追放されなかったことに。

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