キミが生きた証【短編】

keco

……。






 まだ



 早いよ…



 何でだよ…



 あともう少し 頑張って欲しかった…





 もっとキミと一緒にいたかったのに…





 ⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆





 ── この子、持病があります…

 長くは 生きられないかもしれません…

 それでも良いですか?




 せっかく 生まれてきたのに

 この子の命を 全うさせてあげないと

 可哀想だろ…




「はい…大切に育てます…」




 一人暮らしの俺に 家族が出来た





 ⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆




 目がクリクリして

 鼻がツンとしている

 種類にもよるみたいだけど

 この子は 他の子より

 小さく生まれてきたようだ



 全体的に黒い毛並み

 ところどころ 淡い茶色いメッシュ

 とてもキュートなむすこ



 名前は…タニシ


 ネーミングセンス……ハハッ…





「いいか?ここがトイレだぞ!」


「キャンっ!!」


「わ!返事した…」


「ヘッヘッ…」

 舌を出してドヤ顔




 持病持ちの短命だなんて

 この姿からは想像つかない



 小さくても 力強く




 散歩も大好き


 壁に吊り下げてるリードに手をかけると

 "早く行こうよ!"と

 急かすように吠き続ける


 喜びすぎてバタバタするから

 上手くリードが装着出来ない



「こら、タニ!落ち着け!アハハ!」



 自分の体のことは

 ちゃんとわかっているのか

 小走りはしても

 思いっきり走ることはしない


 賢いむすこ




 柔らかいボールで遊ぶのも大好き


 俺のスリッパも好き

 何足買い換えたか わからないほど

 ボロボロにされた





 お手、おかわり、ちょうだい…

 俺を喜ばせる"ワザ"を身につける



 手で拳銃を真似て

「バーン!」



 こてん…とキミは倒れる



「おおおお!出来た!すごいぞ お前!」


「キャン!!」



 一緒にブンブンとシッポを振って

 喜んでいる




 ⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆




「うわっ!ブルブルすな!」




 お風呂の時間

 普段は 体毛でふっくらしている体は

 お湯をかけてやると ぺったんこになって

 体の線がくっきりとする



「(*°∀°)・∴ブハッ!!w…めっちゃマヌケな感じ…」



 ブルブルっっ!!!!!



「うわ!濡れた〜!」


「うふうふ…」


「悪口言ったんじゃないぞ!」


「……ウフウフ♡」



 気持ちよさそうに目を細めている



「こんなに細いのか…

 あまり太らせると良くないんだろうな」



 わしゃわしゃと泡立てやると



「うふうふ…」


「そうか!気持ちいいか!」



 体から少しでも手を離すと

 また 体をブルブルと震わせ

 泡や水しぶきを 容赦なく掛けてくる



「ぎゃ!またやられた!」


「うふうふ…」

 得意げに鼻を鳴らす



 ドライヤーで乾かしながらブラッシング


 洗いたてのキミは

 さらにふっくらモコモコになって

 いつまでも顔を埋めていたいって思うほど



「めっちゃいいニオイ!」



 黙って俺に抱っこされてる

 されるがままのキミ…




「可愛いな、ホント…」


「キャン!」





 ご飯も決められた分量

 栄養のバランスを考えた食事…


 オヤツは1日1回…

 ジャーキーが好きみたいだ




 適度な運動…散歩は欠かさない


 そして

 1日2回の飲み薬…


 飲ませようとすると

 とても嫌がる 暴れる



「ガルルルル…」



 小さく唸るキミ…

 全然怖くないぞ!



 何とか飲ませたら

 ご褒美の 大好きなオヤツ…



 にっこり笑いながら

 食べてるみたいに見える



 食べ終わると

 "ちょうだい!"を、する


 二本足でひょこひょこ立って

 両手を合わせる



 俺が喜ぶってことをわかってる


 可愛くて もうひとつあげてしまう



「ダメだぞ、もうオヤツは終わり!」


「クゥーン…」


 いつもの定位置…

 ソファーに飛び上がって

 端にあるクッションにアゴを乗せて

 不貞腐れる




 "萌え〜っ!"




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 5年 生きれるかわからない…

 獣医さんも言っていた



 たとえ 短くても

 今を楽しく生きよう


 1日1日を大切に


 たくさん思い出を作ろう





 旅行にも行った

 色んなところに連れて行った

 どんな景色も

 俺と見る景色も

 全部焼き付けてもらいたくて




 出張で一緒に居れない時

 ペットホテルに預けたり

 人見知りはしないから

 友人に預けることもあった


 なるべく一緒に過ごす



 動画も 写真もたくさん撮った



 病気だということも

 忘れてしまうほど



 キミは俺に たくさんの愛をくれた





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「う〜ん…あまり良くない状態ですね…」



 嘔吐を繰り返すから病院に来た



「そうですか…」



 今までに手術も2回

 少しでも長生きして欲しくて



「今、7歳か…命 繋げてますね」


「はい…」




 レントゲン撮って 色々調べて貰った


 点滴してもらって

 薬ももらって帰ってきた




 いつものように はしゃぐことも無く

 俺の腕の中でスヤスヤと眠っている



 まだまだ生きるぞ!

 元気になったら たくさん遊ぶからな!





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 どうしても予定を外すことが出来なかった

 出張先で タニの訃報を聞く







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