第2話 君は一体何者?

「助けに来てくれたのは感謝する。だが結局、やられるという覚悟をするならば最初から来るな」


 少し言いすぎたかもしれない。男に迫られたからなのか、それとも言い方がキツかったせいか、涙目になっていた。

 もしこんな所、誰かに見られたら非常に不味い。

 さっき男が言ったようにさとりは美少女で学校でも人気がある。

 状況だけみると完全に泣かしたも同然だ。

 そうなった場合、卒業するまでの間、物凄く居ずらい。


「君は一体何者なの?」

「別に何者でもないさ……自他共に認めている無能に過ぎない」


 その場を後にしようとした時、腕を思い切り引っ張られる。

 歩き出そうとした瞬間だった為、無様に転けそうになった。

 危ない! こんな所で転けたら結構恥だぞ! 引っ張った人間を少し睨む。

 一歩後方に下がった、俺の腕を掴みながら……何がしたいんだ?


「あのそろそろ離して貰えませんかね?」

「お願いがある、私と一緒にクロード学園へ行こう!」


 さとりの言葉に一瞬思考回路が止まった。一緒に行こう? 何故?

 あそこは物好きしかいかない。

 断りを入れようと思ったが、目の前の少女の顔があまりにも真剣だった。

 即答で断るのに罪悪感を覚えてしまい、言葉が出ない。


「どうしてだ? お前あんま乗り気じゃなかっただろ?」

「うん、でも今確信した。君とならばいけるし通用する!」


 さとりの真意が分からなかった。だけど彼女の気持ちを無下にもできない。

 だから、俺が出せる答えは一つ。


「少し考えさせてくれ」

「うん待っている。タイムリミットは卒業するまでの間ね」


 あんまないじゃないか苦笑を浮かべる。


 ◇


 ガチャっと扉を開ける。質素な玄関を進み、リビングに鞄を置く。

 ソファーに大分する、柔らかい素材で出来ている為、重たく疲労が溜まった体を優しくキャッチをしてくれる。

 瞼が重たくそのまま眠りについてしまった。目が覚める頃には外は暗く、部屋も真っ暗。

 

「体痛って、彼奴ら人のことサンドバック並みに殴りやがって」


 体のあちこちが痛いなと思いながらも今日が最後だからいいか。

 さとりが来た時は驚いたが、逆にあれが境になった。

 もう反撃をしてしまったし、これまで通りの喧嘩が強いごっこに付き合う必要がない。

 明日になると噂が流れている可能性は高い。

 さとりに手を出そうとした時点で負けも同然。


「君とならば通用するか……」


 クロード学園、通称実力主義の学園。誰もが一度が憧れるとされているエリート校。

 だが、その反面、実力がないと学園で生活するのが難しいとされている。

 逆にいい成績を残せば将来安泰。

 メリットもあるがそれ以上にデメリットの方が高い。

 他の所に行けばきっと平凡な人生を送れる。特に目立ちたいとか成功を収めたいとかそんな感情はない。

 考えれば考えるほど、俺が行くメリットなんて一切存在しない。


「……さとりと同じ学園ならば退屈はしないだろうな」


 答えを出すまでのタイムリミットは残り三ヶ月。

 それでも、もう既に答えは決まったも同然と云える。

 ピコンとスマホの通知音がなる。スマホを手に取り操作をする。

 画面に映り出されたのは知らない人物からのメッセージ。

 リンクも一緒に送られていた。これ踏んでも大丈夫な奴か?

 警戒をしながら好奇心には抗えず、リンクを踏み開く。

 動画だった、クリックすると流れる。


『この動画を見ているってことは我が校に入る資格がありますね』

「おいおいマジかよ!」


 動画の冒頭だけで驚愕をしてしまう。どうしてクロードの理事長が映っている?

 しかも資格をあると直々に認めてくれる動画。

 それよりもどうして俺のスマホに送られてきたのか、そこが一番気になってしょうがない。

 ハッキングでもされた? する必要性を感じれない。

 この動画とメッセージと一体何人に送っているのか不明。

 一斉送信の場合、携帯会社でも買収した可能性も捨てきれない。

 国に貢献する優秀な人材を排出した学園の理事長ならば、そのくらい出来ても不思議ではない。

 一旦動画を止めて、メッセージを見る。


「全部調べ尽くしているってことか」


 乾いた笑みが真っ暗な部屋に響く、いい加減電気を付けよう。

 リモコンに手を伸ばし付ける。


 『拝啓、貴殿を学園に入学する資格があると判断し、動画のリンクを送らせて頂きました。入学を心よりお待ちしています。

 「まるで目を付けられた感覚だな」


 呆れながらも動画を再び再生する。流してから後悔した。

 無駄に長い話、それと学園の素晴らしさと功績を永遠に語っている。

 わざわざ動画にして送ってくるものか? 途中でめんどくさくなり、スマホをソファーに置き、シャワーに入ることにした。

 動画を止めずに行ってしまった。その間も動画は終わるまで流れていた。

 

 『君らの中に表にも裏にでもなれる不確定要素の存在もいる』


 シャワーから出て、ソファーの場所に戻ってると動画は終了していた。


「あ、止めるの忘れてた。まいいか、どうせ関係のない内容だろうし」


 次の日。

 

 学校に向かう途中、輩みたいな連中に絡まれた。そのまま連行される形で、近くの公園に入った。

 

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