私たちが終わる世界は色づく事を知らない
三椏咲
第1話 何もない世界であなたと
私はいきなり一人になった。ここは防空壕という名の闇が広がる何もない世界。数日前にあった空襲で私の家族はみんないなくなってしまった。戦争が始まって貧しい生活になっても家族みんなで笑顔で楽しく暮らしていたのに、いきなり何もない暗い闇の世界に一人で投げ出されてしまった。このまま私にどう生きていけばいいというのか。
「このまま生きてても意味ないし、このままみんながいるところに行っちゃおっかな」
生きていく理由がないし、大切な人たちはもうこの世界にはいない。ならばいっそのこと、大切な人たちがいるところへ行ったほうが幸せなのではないだろうか。せっかく拾った命を無駄にすることになるけれど、きっと家族のみんなも許してくれるだろう。
「みんな待っててね、すぐにそっちに行くから」
私は立ち上がり、暗い世界から抜け出そうとした時、防空壕の入り口の前に立つ人影に気が付いた。目を凝らして見てみると、とても綺麗な顔をした女の子だった。そんな彼女も私に気付いたのか、こちらに近づいてきた。間近で見る彼女の顔は、この世界には似合わないほど美しかった。その彼女が口を開いた。
「ねぇ、私と一緒に死んでくれない?」
頭が真っ白になる。え?今なんて言われたのだろう。一緒に死んで~、みたいな事を言われた気がする。うん、気のせいだな、うんうんと考えていると再び彼女が口を開く。
「ねぇ、聞いてる?一緒に死んでくれないかって聞いてるんだけど」
どうやら気のせいではなかったらしい。いきなりそんなことを言われても困るし、自分の命だけならまだしも他の人の命の責任まで持ちたくはない。どうしてこの人は私と死にたいと思ったのだろう。
「どうして、私が一緒じゃないといけないの?」
「一人で死ぬのは寂しいし、あなたの目が生きているのを望んでいるような目に見えなかったから、ちょうどいいかなって思って」
初対面でいきなりそんな風に思うのは失礼ではないだろうか。まぁ、その通りだから何も言えないけれど。確かに一人では少し寂しいし、目的が同じなら二人で行ったってかまわない。それでも一つ聞かなければならないことがある。
「どうして死にたいと思ったの?」
「こんな世界で生きていたって意味がないもの」
なるほど、それは確かにそうだ。でも意外だった。彼女ならどんな世界でも生きていけそうな気がする。なんとなくだけど、彼女はわがままで気が強い性格だと思ったんだけど。そんな彼女ですら死んでしまいたいと思うなんて、どうやらこの世界は生きていく理由を奪いすぎたらしい。
「なんか失礼なこと考えてない?その顔ムカつくんだけど」
「そんなことないよ、むしろあなたのことを少し誤解してたみたいだから反省してるの」
「会っていきなり私のことを自分の考えで決めつけるとか、やっぱり失礼なこと考えてるじゃない」
おい、なんだこの人は。思いっきり脛でも蹴り飛ばしてやろうか。こんな人と一緒に死ぬのはものすごく嫌だ、嫌なんだけど……
「それで、一緒に来てくれるの?」
そんなことを聞いてくる彼女の顔は確かに綺麗だけれど、その中に絶望の色が見え隠れしている。ちゃんと隠しているつもりなんだろうけど、この状況なら無理もない。そんな彼女を一人にさせるほど私も性格悪くないし、いまさら一人も二人も変わらない。それに、結局向かう場所はおんなじだ。それなら。
「うん、いいよ。一緒にいこっか」
「決めるのが遅い、時間がもったいないし早く行きましょ」
「はい、は~い」
そのまま二人で歩き出す。
こうして私たちは終わりを迎える旅立つ。きっと短い旅だろうし、これから命の終わりが待っているけれど、不思議とワクワクしてきた。さっきまで死にたいとか思ってたのに、彼女と出会って気持ちが楽になったのかな。なんとなく、この旅で彼女のことをどれだけ知ることができるだろうと、彼女の顔を横目に考える。短い間だろけど、お互いのことを知ることは大切だ。それに、これから二人だけで過ごすことになるのだからなおさらだと思う。それなら、まずは一番重要なあれからかな。
「私、
「それ、知る必要ある?」
「大切なことだよ」
「私はそうは思えないけど」
「いいじゃん、別に減るもんじゃないし」
「いい加減しつこい」
「おねがい!お~し~え~て~よ~」
「しつっこい!!
明るい色がこの世界に色づくことはない。
けれど今確かに、二つのギャーギャー騒ぐ声が、少しだけだがこの世界の闇を払ったのだった。
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