第39話、ヤスミ
「帆を畳め」
「半帆、半・
艦体の周りに描かれた魔紋が、銀色に輝く。
艦内の踊り場では、船巫女が舞っている事だろう。
王都から出発した、コノハナサクヤ級、戦艦二艦は砂の上を、都市”モント“に向け、南下中である。
ゴオオオオオ
背後から砂嵐が迫っていた。
戦艦”コノハナサクヤ“の艦内だ。
「砂嵐の中、大丈夫なんですか?」
初めて乗るのだろう。
若い水兵が不安そうに聞いた。
「元になった艦は、砂にもぐって進むらしいぜ」
「確か、潜砂艦とかいうんだ」
先輩の水兵が言った。
「南の国から伝わったらしい、
別の水兵が言った。
ブンブンブンブン
「この音が、
「告げる、本艦は今、砂嵐に追いつかれた」
「だが、そのまま航行を続ける」
「艦の揺れに注意、隔壁の閉鎖を確認するように」
艦内無線が響いた。
不定期に艦が揺れる。
「大丈夫なんですか」
小さな丸いガラス窓の外は、砂で真っ暗だ。
新兵がもう一度不安そうな声を出した。
”コノハナサクヤ‘と“イワナガ’の姉妹艦は、砂嵐の中を、通常の速度で航行している。
◆
「来たか」
モンジョ古王国の艦隊司令官、トライヴ提督は、つぶやいた。
ジンギクラス超重戦艦、”ヤタノカガミ“のウイングデッキから、南の方を見ていた。
南の空が暗くなっていた。
「砂嵐だ」
「全艦隊に告げる」
「砂嵐がもう少しでここにくるだろう」
「打ち合わせどおりに、行動をすることを願う」
トライヴが、全体無線で言った。
全艦は帆を畳み、窓に分厚いシャッターを下ろし砂嵐に備えた。
ゴオオウ
少しずつ風が強くなって来た。
◆
「砂嵐か」
「少しは、休めるな」
イオリが、『イザナミ』に防御用のシートをかけながら言った。
「そうだね、通り過ぎるのに五時間くらいかな」
ファラクが、手伝いながら言った。
砂嵐の中での戦闘は無理である。
「今のうちに、風呂に入りに行こうか」
クルックだ。
同じように、”イザナギ”のシートをかけている。
「うん」
フィッダが答える。
潜砂艦“アマテラス”は、レンマ王国製である。
大浴場ほどではないが、入浴施設は完備していた。
四人は、“アマテラス”艦内の浴場に入りに行った。
やはり、“雪を被った異世界の霊峰の絵”が壁には書かれていた。
レンマ王国人には、全く違和感がない。
「それか?」
イオリが、クルックの背中の傷を見ながら言った。
二人は洗い場で体を擦っている。
「ああ」
クルックが、モンジョの王都から脱出するときに負った傷だ。
「この傷のおかげで、フィッダと“ヨモツヒラサカ”、いや“イザナギ”と契約できたと思う」
かなり出血した。
「そうか」
イオリが、小さく答えた。
これからどうするんだ?
“エンバー家”のことは、クルックに聞かなかった。
「……山……?」
お風呂に?
フィッダだ。
レンマ王国式の浴場は初めてらしい。
小柄で、胸も小さめだ。
黒に近い、錆びた銀色の魔紋が肌に描かれている。
白い肌とのコントラストが美しい。
「そうよ~、初代レンマ王のいた、異世界の山みたいよ~」
ファラクが、浴槽で足を延ばした。
細めだが胸は豊かだ。
褐色の肌に、明るい銀色の魔紋。
フィッダに負けず、美しかった。
「ほんとに黄泉がえってるんだ……」
フィッダが、目の魔紋のついた手を、軽く振る。
手の甲から、微かに光り、すぐ消える。
光は、波のように全身の魔紋に広がった。
「ふふ、風呂の中で眠っては駄目よ~」
連日の出撃で疲労がたまっている。
フィッダがうつらうつらと、湯につかりながら、船をこぎ始めた。
「あがりましょっ」
ファラクが立ち上がった。
四人は久しぶりに、ベットでゆっくりと眠れた。
◆
「漕ぎ方~ はじめ」
ドン、ドドン
ドン、ドドン
太鼓の音に合わせて奴隷たちが、
外の砂嵐の風の音にかき消されそうだ。
モンジョ古王国の、ジンギクラス一艦と、ドウホコクラス重戦艦、三艦は艦の横に櫂が出されていた。
荒れ狂う砂嵐の中、牛歩のように、巨艦が進んでいく。
都市、“モント”を守る防壁に近づいて行った。
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