第39話、ヤスミ

「帆を畳め」

「半帆、半・暗車スクリュー航行から、暗車スクリュー航行へ移行」

 艦体の周りに描かれた魔紋が、銀色に輝く。

 艦内の踊り場では、船巫女が舞っている事だろう。


 王都から出発した、コノハナサクヤ級、戦艦二艦は砂の上を、都市”モント“に向け、南下中である。


 ゴオオオオオ


 背後から砂嵐が迫っていた。


 戦艦”コノハナサクヤ“の艦内だ。


「砂嵐の中、大丈夫なんですか?」

 初めて乗るのだろう。

 若い水兵が不安そうに聞いた。


「元になった艦は、砂にもぐって進むらしいぜ」

「確か、潜砂艦とかいうんだ」

 先輩の水兵が言った。


「南の国から伝わったらしい、暗車スクリューで進むんだ」

 別の水兵が言った。


 ブンブンブンブン


「この音が、暗車スクリューが回る音だぜ」

 

「告げる、本艦は今、砂嵐に追いつかれた」

「だが、そのまま航行を続ける」

「艦の揺れに注意、隔壁の閉鎖を確認するように」

 艦内無線が響いた。


 不定期に艦が揺れる。


「大丈夫なんですか」

 小さな丸いガラス窓の外は、砂で真っ暗だ。

 新兵がもう一度不安そうな声を出した。


 ”コノハナサクヤ‘と“イワナガ’の姉妹艦は、砂嵐の中を、通常の速度で航行している。



「来たか」

 モンジョ古王国の艦隊司令官、トライヴ提督は、つぶやいた。

 ジンギクラス超重戦艦、”ヤタノカガミ“のウイングデッキから、南の方を見ていた。

 

 南の空が暗くなっていた。


「砂嵐だ」


「全艦隊に告げる」

「砂嵐がもう少しでここにくるだろう」

「打ち合わせどおりに、行動をすることを願う」

 トライヴが、全体無線で言った。

 全艦は帆を畳み、窓に分厚いシャッターを下ろし砂嵐に備えた。


 ゴオオウ


 少しずつ風が強くなって来た。



「砂嵐か」

「少しは、休めるな」

 イオリが、『イザナミ』に防御用のシートをかけながら言った。 


「そうだね、通り過ぎるのに五時間くらいかな」

 ファラクが、手伝いながら言った。


 砂嵐の中での戦闘は無理である。


「今のうちに、風呂に入りに行こうか」

 クルックだ。

 同じように、”イザナギ”のシートをかけている。


「うん」

 フィッダが答える。


 潜砂艦“アマテラス”は、レンマ王国製である。

 大浴場ほどではないが、入浴施設は完備していた。

 四人は、“アマテラス”艦内の浴場に入りに行った。


 やはり、“雪を被った異世界の霊峰の絵”が壁には書かれていた。

 レンマ王国人には、全く違和感がない。


「それか?」

 イオリが、クルックの背中の傷を見ながら言った。 

 二人は洗い場で体を擦っている。


「ああ」

 クルックが、モンジョの王都から脱出するときに負った傷だ。

「この傷のおかげで、フィッダと“ヨモツヒラサカ”、いや“イザナギ”と契約できたと思う」

 かなり出血した。


「そうか」

 イオリが、小さく答えた。

 これからどうするんだ?

 “エンバー家”のことは、クルックに聞かなかった。



「……山……?」

 お風呂に?

 フィッダだ。

 レンマ王国式の浴場は初めてらしい。


 小柄で、胸も小さめだ。

 黒に近い、錆びた銀色の魔紋が肌に描かれている。

 白い肌とのコントラストが美しい。


「そうよ~、初代レンマ王のいた、異世界の山みたいよ~」

 ファラクが、浴槽で足を延ばした。


 細めだが胸は豊かだ。

 褐色の肌に、明るい銀色の魔紋。

 フィッダに負けず、美しかった。


「ほんとに黄泉がえってるんだ……」

 フィッダが、目の魔紋のついた手を、軽く振る。

 手の甲から、微かに光り、すぐ消える。

 光は、波のように全身の魔紋に広がった。



「ふふ、風呂の中で眠っては駄目よ~」

 連日の出撃で疲労がたまっている。

 フィッダがうつらうつらと、湯につかりながら、船をこぎ始めた。

「あがりましょっ」

 ファラクが立ち上がった。


 四人は久しぶりに、ベットでゆっくりと眠れた。



「漕ぎ方~ はじめ」


 ドン、ドドン

 ドン、ドドン


 太鼓の音に合わせて奴隷たちが、かいを力一杯漕いだ。

 外の砂嵐の風の音にかき消されそうだ。

 モンジョ古王国の、ジンギクラス一艦と、ドウホコクラス重戦艦、三艦は艦の横に櫂が出されていた。


 荒れ狂う砂嵐の中、牛歩のように、巨艦が進んでいく。 


 都市、“モント”を守る防壁に近づいて行った。

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