最弱の盗賊だからと追放されたらパーティが崩壊した件~最高ランクの盗賊がS級パーティーを追放されたので、手切れ金代わりに聖剣とハーレムを盗んでやりました~

鬼柳シン

第1話 コソ泥の本気

「シビト、お前をパーティーから追放する!」




「……え? な、なぜですか……?」


 ギルドの真ん中でSランクパーティー『光翼の竜』のリーダーであるヴルムの宣言に対し、そう聞き返したのはシビトこと俺……ではなく、聖女のレイナだった。




 俺はというと、言われた言葉を頭の中で反芻しながら、眉間にしわを寄せてヴルムを睨む。




 そんな視線に気づいてか、ジョブの中で最強と名高い『勇者』であるヴルムは、その端正な顔立ちをゆがめながら、鼻で笑った。



「最弱職の盗賊なんて、勇者である僕のパーティーには必要ないからに決まっているだろう?」




 ヴルムに続くよう、後ろから貶すような顔をしていた二人組――女剣士のジルと女魔術師のピアも口を開いた。


「近接系のジョブのくせにロクな攻撃スキルを持たない盗賊なんて、前衛のアタシには邪魔なだけなのよ!」


「私みたいに後衛の仕事も出来ないなら、ヴルム様のパーティーには不要ですわね」



 好き勝手言っている二人と嘲笑うようなヴルムに対し、俺よりも聖女のレイナが怒りを覚えているようだった。


 脳筋のジルやお高く留まっているピアと違って、聖女の名に相応しい慈しみの心を持っているレイナのことだ。仲間にして、同じ孤児院で育った俺を寄ってたかって馬鹿にするような状況に納得がいかないのだろう。



 そんなレイナが何か口にする前に、俺がヴルムに問いかける。



「そりゃ『盗賊』なんてジョブだからな、俺の働きは地味に見えるかもしれない。だが俺は、Sランクの盗賊として自分に出来ることには手を抜いてこなかったぞ?」




 FからAにかけて強くなるジョブのランクで、千人に一人いるかどうかのSランクの盗賊としてやってきた事を並べてみた。


 まずサポートとして盗賊のスキルで姿を隠して敵の武器を壊したり、毒を盛ったりしてきた。


 時には、前衛のヴルムとジルが捌き切れなかった魔物を背中から刺すようなこともした。


 他にも数えたらキリがないが、俺は盗賊のスキルを臨機応変に使い、パーティーで戦う時は前衛にも後衛にもなった。



 そういう俺の立場は、その時々に応じて回復やシールドを付与する聖女のレイナと同じで定まっていない。


 というか、そもそもだが『盗賊』はパーティーなど組まないのだ。

 基本的にソロで活動する。


 本当なら教会で働くはずだった聖女のレイナとは、そういう意味でも似た立場だ。



 そこら辺を話し終えてから、「なにより」と、ヴルムに問いかける。



「戦闘向きじゃない俺やレイナを無理やりパーティーに加えたのは、お前だろうが」



『光翼の竜』が結成された時、俺とレイナはちょっとした事情で冒険者ギルドへ訪れていた。


 その時、ヴルムが苛立った様子で俺たちを指差して、「勇者権限だ!」とか言って、無理やりパーティーに参加させたのだ。


 

 

 理由は知らされなかったが、参加した以上はSランクのプロとして役目は果たしてきたつもりだ。


 それをいきなり追放と言われては、俺が疑問に思うのも、同じ経緯で仲間にさせられたレイナが声を荒げるのも最もだ。


 しかし、ヴルムは吐き捨てるように言った。



「あの時はギルドの規定で仕方なく仲間にしたんだ! 都合よく盗賊の癖にSランクだったからねぇ! 分かる? 所詮僕たちがSランクパーティーを名乗るために利用させてもらったんだよ!」



 Sランクパーティーを名乗るには、構成メンバーの内、三名以上がSランクに到達していなければならない。

 ジルとピアがAランクなため、必然的にヴルムを含めて三人のSランク保持者が必要だった。


 俺とヴルム、それからレイナがSランクな事を考えると、俺のとある予感は当たっていたのだろうと呆れる声で口にした。



「つまり俺は今まで、数合わせのためだけにパーティーに参加させられていたんだな?」

「やっと分かったか! ほら、とっとと受付で手続きしろ!」



 いや、実際のところ予想通りだったので構わないのだが。ソロ活動に戻る大義名分が出来て、むしろラッキーなのだが……二つほど気がかりなことがある。


 チラリとレイナを見てから、まずは一つ目を問いかける。



「俺がいなくなったらSランクパーティーを名乗れなくなるんじゃないのか?」

「鈍い奴だな! もうとっくに別のSランク持ちの冒険者を見つけてあるんだよ!」



 ヴルムがそう言うと、ギルドの奥から豊満な体つきをした女が現れる。

 途端に、俺は眉間にしわを寄せた。


「そいつも盗賊じゃねぇか」


 同じジョブなので見れば分かるのだが、ベルと名乗った女は間違いなく盗賊だ。


 だが、ヴルムは「それが?」といった様子でベルの肩を抱いていた。


 その様子を見て、俺は前々から感じていた予感が的中したことに気づくと同時に、大いに呆れた。



 こいつ、勇者の癖にパーティーを女で固めたいようだ。ハーレムでも築きたいのだろう。


 陰でジルとピアに二股をかけているので、もしかしたらと思っていたのだが……どうやら、その通りなようだ。


 ジルとピアは気づいていないのだろうか? 


 そう思い目を向けると、余裕の笑みでベルを迎え入れていた。



 駄目だ。この女たち、二股掛けられていることに気づいていない。大方、自分は勇者の陰の恋人とでも思っているのだろう。



 そうなると、俺の味方はレイナしかいなくなる。清く誠実なレイナのことだ。俺へのあんまりな扱いに対し、ヴルムへ抗議するだろう。


 しかし、二つ目の気がかりな事として、レイナの事情を考えると――


 なんて考えているうちにレイナが抗議しようとして、ヴルムがニタァと笑った。



「なんなら、君を追放してもいいんだけどね。今までの分け前は契約通り返してもらうけど」


 言われ、レイナは押し黙ってしまった。彼女はヴルムからSランクハーティーで得た報酬を多めに貰う代わりに、脱退する時はその分を返すように契約させられているのだ。


 レイナがこんなパーティーに在籍し続けているのも、その報酬のためだ。


 なんでも、孤児院から引き取ってくれた母親が病気だそうで、その仕送りだという。レイナは苦虫を噛み潰したかのような顔のまま黙ってしまった。



「あと、この前話した例の件だけど――」

「そこまでにしてやれよ」



 このクズ勇者は、あろうことか聖女として清い身でなければならないレイナにまで手を掛けようとしているのだ。


 流石に俺のせいで、なにかと気を使ってくれていたレイナに迷惑をかけるわけにはいかない。




 はぁぁぁぁ、と深い溜息を吐き、分かったよと頷いてみせる。



「追放されてやる。こっちからこんなパーティー願い下げだ」



 俺の脱退発言に、ジルとピアも満足げだ。女からしたら、所詮、男の盗賊は薄汚い野蛮な輩とでも思っていたのだろう。



 だがレイナだけは心配そうに俺を見つめてくれる。俺も俺で、やはりレイナのことが気がかりだ。



 とはいえ追放を受け入れる以上、長居はできない。パーティー脱退の署名をすると、俺はレイナを一瞥してからギルドを出ていった。


 だが、これで俺は晴れて自由の身。やっと普通の盗賊に戻れるわけだ……いや、Sランクの盗賊として、今までは隠してきたスキルを使える。


 レイナの事だって簡単に解決できるだろう。


 ギルドの外で、一人悪い笑みを浮かべて口にした。



「本気になった盗賊を舐めるなよ、勇者様?」




 Sランクの盗賊として、これまで通りプロの仕事をすることにした。





 ####





 夜が来た。新たに女盗賊のベルを加えた勇者パーティーは街を出て、より高難度のダンジョン攻略へと向かったようだ。


 俺はそれを追いかけると、今夜の野営場所であろう、森の近くの草原に身をひそめる。


 しばらく夜の闇に紛れて焚火を囲んで騒いでいるのを眺めてから、機を待った。



 今夜、勇者パーティーへ盗みに入る瞬間を待っているのだ。


 狙う宝は一つ。囚われの聖女だ。彼女をクズ勇者から盗んでおかないと、夢見が悪くて仕方がない。


 なにせ俺はガキの頃、まだ自分のジョブも知らない時、孤児だった。


 親から捨てられ、何も知らないままゴミを漁る毎日だった。



 そんな時、俺を助けてくれたのが教会の聖女様だったのだ。



 小汚い俺を小さな孤児院に迎え入れてくれ、ジョブが最弱の盗賊だと分かっても面倒を見てくれた。文字の読み書きや数の足し引きも教わった。


 そこで出会ったのがレイナだ。歳が近いこともあり、俺たちはあっと言う間に仲良しになった。

 しかし、レイナのジョブが希少性の高い『聖女』だと判明したら、すぐに引き取り手が現れたのだ。


 悲しみに暮れる俺に対し、聖女様はいつまでもそばに居てくれた。その時決めたのだ。盗賊でも強くなってレイナと再会する事と、聖女様へ恩返しをする事を。

 

 そのために、俺は盗人という最弱のジョブでも役に立つため、血のにじむような努力をした。


 そうして、いつしかSランクの高みへと昇りつめると、俺は決して弱き者や貧しき者からは何も盗らず、悪評の立つ金持ちたちへ盗みに入る『義賊』の一員になった。



 Sランクの盗賊に与えられたスキルで金を盗み、貧しい人々のために使った。


 その中で、小さかった孤児院にも匿名で盗んだ金を寄付した。


 自分では良い事をしているつもりだった。誰にもバレないと思っていた。


 しかし、育ての親も同然な聖女様は、俺が巷を騒がせる義賊に属していると気づいていたらしい。


 ある日、寄付した金を全額返された。そうして、「もう人の物を盗んではいけません」と、悲しげな顔で怒られた。



 咄嗟に俺は、「なら盗賊はどうやって生きていけばいいんだ!」と叫んだ。

 聖女様に声を荒げたのは、恐らくその時だけだろう。



 それ以降、俺は聖女様に合わせる顔がなくなって孤児院を出た。


 自棄になって裏の世界で悪に染まろうかと何度も考えたが、聖女様の言葉とレイナの存在が俺をギリギリのところで悪党の道へ踏み外させなかった。


 かといって、盗賊というジョブの性質上、何かを盗むこと無しでは生きていけない。



 そんな中途半端な自分に困っていると、レイナと再会したのだ。母親が病気だから、少しでも聖女の力で金を稼げないかと、依頼を探しにギルドへと向かっていたという。

 俺はそのまま流れに任せるようについて行ったら、勇者パーティーに無理やり参加させられたのだ。


 俺はもう、どうなってもいい。だが聖女として神の教えの下に人々を導くレイナまでクズ勇者の毒牙にかけるわけにはいかない。



 なにより正直なところ、再会したレイナにかつての聖女様を重ねている。だが、所詮俺は小汚い盗賊だからと、気を使ってくれるレイナとは、ある程度距離を置いていた。



 しかし今夜、俺はレイナを盗むことにしたのだ。



「っと、ようやく動き出したか」



 皆が寝静まったとき、女盗賊のベルがヴルムへ連れられるように森の中へ入っていった。


 『透明化ハイド』のスキルで姿を消し、今まで培った技術で音を殺して近寄り、盗人のスキルの一つである『超聴覚ピーピング』で会話を盗み聞く。

 本来なら魔物の足音などを聞いて事前に危機を回避するスキルだが、今聞こえてくるのは、クズ勇者のセンスがない口説き文句だった。



「出会ったばっかりなのに、俺の女になれ、ね……」



 そういう台詞を既に二股かけているクズが言っても魅力は欠片もない。


 その後も聞こえてくるのは、人格を疑うような台詞ばかりだ。

 二股かけているというのに、よくまぁあれだけの嘘が言えたものだ。


 溜息を一つ吐き、『透明化ハイド』を解いて二人の元へ歩み寄った。



「情けねぇな、勇者様よぉ。台詞もだが、こんなに近づかれるまで気づかなかったのか?」


 突然現れた俺に対し、ヴルムは言葉を失った後、指を突き付けてきた。


「な、なんで貴様がここにいる! それに何の用だ! 僕は今、愛の告白を……」

「愛? 二股掛けておいてよく言うな。ジルとピアが泣くぜ?」

「き、貴様、なぜその事を……!」


 狼狽えるヴルムに、俺はニッと笑い顔を浮かべた。


「盗賊は耳が命なんでね、対勇者の宝物になる情報はとっくに盗んでたんだよ。なんなら、二人に渡したセンスのないポエムだとかプレゼントもいくつか盗ませてもらった。これを見せたら、このパーティーどうなるだろうな」


 ここまで言うと、ヴルムはとんでもなく狼狽えているし、ベルは状況そのものが理解できていないようだ。


 だがすぐに「黙らせてやる!」と、ヴルムが聖剣を引き抜いた。



「選ばれし者だけが振るうことのできる聖剣エスカリバーだ! 痛い目に遭いたくなかったら、二人には何も言うな! それと証拠になりそうな物も置いていけ!」



 これではどちらが悪者……というか、どちらが人々を救うとされる勇者で、どちらが盗賊なのか怪しいものだ。

 それに、エクスカリバーもヴルムが勇者の力で無理やり振り回しているだけで、本来の輝きを失っている。


 まぁどちらにせよ、こうなることは分かっていた。フッと笑ってから、ヴルムを見据える。


「仕方ねぇ、じゃあ始めるか?」

「なっ……盗賊風情が勇者の僕と戦うつもりか!? まともな攻撃スキルも持ってないくせに、正気か!?」

「試してみるか? 盗賊ってのは、実は結構強いんだぜ?」


 迷った素振りを見せたヴルムだったが、すぐにエクスカリバーを構えると突っ込んできた。


 しかしエクスカリバーが振られる事はなく、代わりに突っ込んできたヴルムが俺の目の前で力なく倒れた。


「う、動けない……?」

「そうだろうな、勇者だって人間だから当たり前だ」


 地面に顔を突っ込んでいるヴルムは、動揺しながらなんとか口を開く。


「な、なにをした……!?」

「なにって、スキルで盗ませてもらったんだよ。お前の体力をな」

「そんなスキル、僕は知らないぞ……! それに、勇者にはあらゆる攻撃スキルへの耐性があるはずなのに……!」

「俺は別に攻撃はしていない。ただ盗んだだけだからな」


 勇者には、確かに攻撃スキルへの耐性がある。しかし、それはあくまで体や精神を傷つけるスキルに限るのだ。


 今俺が使ったのは、Sランクの盗人のみが使うことのできる高等スキル『吸命奪力バーグラライズ』。


 対象を一切傷つけることなく、体力や魔力を盗むというスキルだ。

 別に傷つけていないので、勇者の耐性では無効化できない。


 チート級に強い代わりに、使うには相手に接近する必要がある。

 本来なら『透明化ハイド』と同時に使うという難易度の高いコントロールが要求される。


 だが今回は、焦燥感から突っ込んで来ると予想がついたので、俺は突っ立っているだけで成功した。


 勇者というジョブの強さに浮かれて女にかまけ、ロクに仲間のスキルを調べない傲慢さと、なにより盗みに入る時には誰よりも相手について調べる盗賊の洞察力から来る勝利だった。



 さて、勝ったわけだが、盗賊としては何も盗らないというのも味気ない。なにより、このクズ勇者には少し痛い目に遭ってもらわなければ気が済まないというのもある。


 ということで、ベルを追い払ってから、体力がなくなって身動きが取れない勇者へ問いかけた。


「レイナと交わした契約書はどこにある」


 それを聞いた時のヴルムの顔といったら、真っ青から一変して拍子抜けするようなものだった。



「そ、それだけが狙いなのか……?」

「いや、それと約束だ」

「約束……?」


 声音を落とし、夜を生業とする盗賊らしい台詞を吐いた。


「金輪際レイナとその家族に関わるな。関わったら、今度は命を盗むからな」


 盗賊として身に着けた裏の世界でも通用する声と表情で脅してやれば、ヴルムは情けない声で怯えた。


「わ、わかった! わかったよぅ……」


 さて、契約書の在りかは聞けた。とっとと盗んで、トンズラしよう。


 そう思って、野営地まで戻ろうとした時だった。


「シビトさん……」


 レイナがそこにいた。ベルと入れ替わるように、ジルとピアもいる。

 俺も予想外の事に面喰っていると、レイナが先に口を開いた。


「騒ぎを聞きつけて見に来たらこんな事になっているなんて……」

「いや……その、なんだ……」


 言葉に詰まる俺に対し、レイナはしっかり俺を見つめて口にした。


「今の話、本当ですか?」

「……全部聞いてたのか?」

「私の契約書の在りかと、家族に手を出すなってところは確かに聞きました」


 ヴルムの相手をしていて気づけなかったとはいえ、当の本人に聞かれてしまうとは。

 俺もまだまだだなと肩をすくめつつ、すぐに盗ってくるから待つように言った。


 そうして通り過ぎようとした時、レイナが背中を引っ張った。


「……どうして、私のためにこんな事をしてくれるんですか?」


 どう答えたものか。ヴルムへの復讐とでもしておくか。


 いや、それくらいの嘘は見抜かれるだろう。なにせレイナは、俺の正体を見破った聖女様とよく似ている。


 なら、嘘はつかないことにするべきだ。


 恥ずかしいセリフだが、レイナを見据えて口にした。



「お前は俺の、初めての友達だからな」

「それだけで……こんな危ないことを……?」

「盗賊なんてやってると、お前みたいな堅気の友達なんて出来ないからな……特別な友達なんだよ。だから契約書盗んだら、ついでにヴルムが持ってる有り金もいただいて一緒に故郷に帰らないか?」


 頬をポリポリ掻きながら言うと、レイナは暗闇の中で懐かしさを感じる微笑みを見せた。


「強欲は罪ですよ。ですが、ヴルムさんは少しばかり……いえ、やりすぎなほどに欲深すぎましたからね……」


 レイナはジルとピアを一瞥すると、二人が捲し立てるようにヴルムへ迫った。


「二股かけてたって本当かよ!?」

「私たちを騙していたのですか!? 勇者ともあろうお方が、なんたることを!!」


 どうやら、俺とヴルムの会話はずいぶん前から聞こえていたらしい。二人とも二股をかけられていることを知り、顔を真っ赤にして起こっている。


 それでも、ヴルムは動けない。とことん情けなく許しを乞うているが、ジルもピアも愛想が尽きたようだ。


「アタシはパーティー抜けさせてもらうから!」

「もちろん私もです!」


 待ってくれと、もはや半泣きのヴルムだが、因果応報というやつだろう。

 

 まだ先ほどの街からあまり離れていないこともあるので、二人は夜だというのに戻るという。

 危険かと思ったが、仮にもAランクの剣士と魔術師がいるなら余程のことがない限り大丈夫だろう。


 そうしてレイナが残ると、肩をすくめて罰が下ったと言った。


 それと、


「故郷に帰るという話、私からお願いしたいくらいなんですが……いいでしょうか?」


 聖女のお前まで見捨てるのかと、無様なヴルムを置いておき、俺は年来の共に手を差し出した。


「答えるまでもないってやつだな。それに、土産ってことにしていくらか金を持っていけば、お前の母親も安泰だろうしな」


 何か反論が来る前に、全額は盗まないと言っておく。そうして、俺とレイナは野営地へと戻ったのだが……


「アタシの剣がない!」

「私の杖もありません! それにお金も盗まれています!」


「……あー……」


 失念していたと、俺は先ほどの女盗賊ベルを思い返す。


 勇者であるヴルムが力を失い、一人野営地へと戻った。その直後、他のメンバーが全員こちらへくれば、荷物から何まで守るものはない。


 盗賊からすれば、盗んでくださいと言っているようなものなのだ。



 悪評も立たないだろう。盗賊はソロ活動が基本であり、なにより勇者パーティーから装備も金もすべて盗んだやり手という拍が付いたのだから、裏の世界では引っ張りだこになる。


 腕利きの盗賊として名を馳せ、大金を手にした。美味しいところを全部持っていかれたわけだ。


 だが、俺の武具の類とレイナの装備品は身に着けていたので無事だった。

 それを見てか、ジルとピアはプルプル震えながら俺たちへ向き直る。


「その、実はね、アタシはヴルムが嫌ってるからアンタの事も嫌ってる素振りをしてただけで……」

「わ、私も、えっと、あなたの本質は見抜いていましたが、ヴルムから脅されていまして……」


 都合のいい連中だと、思わず特大の溜息が出た。

 

 しかしだ、ここから故郷に帰るまでの道のりを考えると、戦闘向きではない盗賊と聖女だけでは心もとない。


 非常に嫌なのだが、背に腹は代えられない。仕方なく、ヴルムを抜いてパーティーを再編成することにしてやった。


 喜ぶジルとピアを他所に、俺は「忘れ物がある」と言い残してヴルムの元へ戻る。


 未だに地に伏しているヴルムを見下ろしてから、転がっているエクスカリバーを手に取った。


 もはや返せとも言えなくなっているヴルムの元へレイナもやってくると、エクスカリバーを見てキョトンとしている。


「まさか、使う気ですか?」

「盗むのですか、じゃないんだな」

「まぁ、私も個人的に恨みがありますので」


 それで、改めて使うのかと聞かれたのだが、俺は首を振る。


「認められた者だか何だか知らないが、盗賊風情に使えるわけないからな。金に換えるにしても、真っ当な武器屋じゃ買い取ってくれないだろうから、故郷に戻ったら”アイツのツテ”で売りさばく」


 それを聞いた時、レイナは非常に引きつった顔をしてから、いくらか頷いて見せた。


「今頃、あの人は裏社会で名を上げているでしょうからね……」


 釈然としない様子だったが、了解は得られた。


 俺の所持金は盗まれていないので、ジルとピアに武具を買いつつ、故郷まで帰ることは可能だろう。


 かくして、勇者パーティーからヴルムが抜けた新たなパーティーは『黒翼の竜』と名を変え、俺とレイナの故郷であるイベルタルへと向かうことになるのだった。

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