便利屋扱いから解放された魔物使いは自堕落スローライフを目指したい

和ん子

これがよく聞く追放か……

第1話 集団神隠し 1

 

 

 世の中には二種類の人間が存在する。

 使う側と、使われる側の人間が。

 

 俺は、間違いなく使われる側だった。

 使われる、という表現をしたけど何も悪いことばかりじゃない。

 現代社会じゃ使われる側の方が圧倒的なんだ。金の周りをよくするなら俺達使われる側の人間に金を配給して経済を回せばいい。つまり働きさえすれば金がなくなることはないんだ。

 そして、政治やら競争やら面倒な人間関係に悩むことなく言われたことだけやればいいのが下っ端のいいところ。

 難しく考えなくていい。楽がしたければ、上に上がれば不労所得だので働かずとも稼げるようにはなるんだから。

 

 でも、誰も好きでブラック顔負けの仕事をしたいとは言ってないぞ。

 

 「牧野君、次のデザインについてなんだけど」

 「おい牧野!お前が作った石窯壊れちまったぞ。早く直せよ」

 「直すなら先にトイレだろ!衛生面が最優先だって生徒会長も言ってただろうが!」

 「牧野、武器の材料が尽きて来た。補充頼んだぞ」

 

 どうしてこうなった。

 昔から頼まれると断れない性格だったけど、流石にこれは俺が先に過労死してしまう。

 

 

 俺達八咫野高校生徒及び教師は、ある日突然学校の校舎ごと異世界へと転移してしまった。

 周囲は深い森で遠くに山が見える秘境。そこに突如として転移した学園の校舎とその中にいた俺達。

 最初は教師と生徒会、さらに各委員会役員が主導で役割分担し全員が協力して生き延びようとしていたけど、それも二週間が過ぎる頃には派閥が出来上がり、お互いに牽制やいがみ合いの毎日。

 幸いにもこの世界に来てから各々不思議な技能と呼ばれる力を手にしたことで、ギリギリだが最低限人間として尊厳が保たれる程度の生活ができていた。

 

 学校に備蓄されていた非常食が尽きる頃、校舎外へ調査と食料確保を目的とした狩猟班が組まれたり、日用品などの生活必需品を製作する開発班、それを運営する生徒会を始めとした各委員会連合。

 学園カーストは完全に崩壊し、今は強力な技能を持つ者が派閥の頂点に君臨し幅を利かせている。

 俺か?俺はヒラもヒラ。器用貧乏が災いしてあっちこっちから引っ張り回される何でも屋みたいな立ち位置にいるよ。

 

 それがさっきの現状。

 最初は水の確保やらポーションっていう回復薬?を細々と作ってただけなんだけど、だんだんできる幅が広がって今じゃ生産系ならどの生徒よりも上だと自負している。

 なんせ俺には優秀な──。

 

 

 「おい牧野!委員会から呼び出しだ。ついて来い」

 「え?今頼まれてるのを消化するのに忙し」

 「ごちゃごちゃ言ってないで早く来い!そんなの他の連中に任せればいいだろう!」

 

 そんなに怒鳴らなくたっていいじゃないの。

 いつも忙しい時以外は後進がいて教えながらやってるんだけど今回に限って誰もいないんだよ。

 まいっか。頼んできた奴らには委員会の方に抗議させよ。

 

 あまり考えず、何故かニヤニヤしていた先輩を尻目にその後をついて行った。

 会議室。いつも委員会や生徒会、先生達が何やら今後の方針やら頭だけで情報共有する為の場所。

 乱暴に背中を押されて中に入った俺を待ち受けていたのは、体育会系のカーストトップ勢。

 

 まあ、あれだ。人気な運動部の部長連中やその上のゴリラ先生。文化部や他の先生、生徒会役員の姿は見えない。

 

 「で、何の用ですか?先輩方。知ってるでしょうけど俺今めちゃくちゃ忙しいんすけど」

 「んなこと知ったこっちゃない」

 「おい、勝手に喋るな」

 「は、はい!」

 

 ん?何今の?取り巻きの言葉を制した?何だこの違和感……。

 

 「まあ聞けよ。以前からお前の存在には手を焼いていたんだ。俺達運動部に混ざって化け物の素材を集めて来たり、その素材から服やら防具やら果ては武器まで作れるし、最近はバリケードを直していたな」

 「ええそうですよ。ほんと引っ張りだこで休む暇もないくらい」

 「そうかそうか。なら休みをやろう」

 「え?いいんですか?」

 

 何でいい人なんだ!このブラックな生活からおさらばできるなら何だってやるさ!

 

 「ああ。ただし条件付きだ。今まで集めたお前の財産、素材から全て後進に明け渡した上でこの学園から放逐してやる」

 「はい?」

 

 素材の明け渡し?学園から放逐?何故?え?俺が?

 

 「放逐ってどういうことっすか?」

 「バカか?出てけってことだ」

 「いや、俺がいなくなったら武器とか服とか」

 「そうなった時の為に後進を育ててたんだよ。今ならお前がいなくともこの学園は回る」

 「寧ろお前がいる限り幾つかの分野が育たない。それならいっそいなくなれば誰かが代わりにやるだろ」

 「えー……?」

 「大体お前、生産系じゃないだろ。魔物使い」

 

 あー、これはそういうことか。

 誰かにハメられたかね……。俺が魔物使いだってことを知ってるのは……この学園じゃいないはずだし、何でこのタイミングでっていうのも。

 

 「それをどこで知ったんです?先輩方」

 「言う訳ないだろ。バカか?おい、やれ」

 「「「はい」」」

 

 流石に校内で戦闘職と争ったら被害が……ってやばい!

 

 「動物を味方にするテイマーなら個人の戦闘能力は低い。適当にボコったら縛って森にでも捨てて来い……おい、きっちり始末しとけ」

 「はい」

 

 

 麻袋に包まれて運ばれているところで目を覚ましたけど、やばいなぁ……手足が縛られてて動かせない。しかもバカスカ殴ったり蹴ったり叩いたり好き放題してくれたな。

 

 「ほらよっ。んじゃあなあの世で会おうぜ」

 「がは……」

 

 やば、胸……刺され……て……。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2024年12月14日 11:00
2024年12月21日 11:00

便利屋扱いから解放された魔物使いは自堕落スローライフを目指したい 和ん子 @kasunko

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ