転生先は外国人が作った勘違い和風要素のあるクソゲーで、奴隷ジョブ・サムライになった俺が、ルールの穴を突いて自由に世界を探索します! -勘違いネタキャラのサムライ、最強になる-

千月さかき

第1話「転生サムライ、正座する」

 カクヨム様の企画として、オンライン企画会議をすることになりました。


 短編3本を掲載して、その中で人気の作品を長期連載にしようという企画です。

 詳しい内容は「カクヨムからのお知らせ」に掲載されています。

 よろしければ、そちらもご参照ください。


https://kakuyomu.jp/info/entry/next_kadobooks_sengetsu


 初日の今日は6話まで更新しています。

 楽しんでいただけたら、うれしいです。

 


────────────────────── 




 サムライは強い。


 日本刀による攻撃は威力いりょくが高い。

 相手の肉や骨を、あっさりと断ち切ることができる。


 近接戦闘きんせつせんとう特化型なのに間合いが広い。

 神速の踏み込みにより、一気に距離きょりを詰めることができる。 


 草履ぞうりいた足は、しっかりと地面をつかめる。

 土の固さ、温度。落ちている石や、落ち葉の数さえもわかる。

 地面の状態を完璧かんぺき把握はあくできる。

 それが高速のフットワークと、回避力を生み出している。


 着物とはかまは通気性がいい。空気の流れを正確に感じ取れる。

 それによって敵の動きを手に取るように読み取ることができる


 サムライの攻撃は打刀うちがたな鯉口こいくちを切った瞬間に始まる。

 敵が、その刃圏はけんから逃れるすべはない。

 たとえ相手が、巨体のオーガだとしても。



「グゴラァアアアアアアアァァァァl!!」



 俺の目の前で、褐色かっしょくの巨体を持つオーガがえた。

 奴の身長は3メートル以上。手には棍棒こんぼうを持っている。


 棍棒の太さは俺の腰幅こしはばくらいはありそうだ。

 長年使ってきたらしく、表面は飴色あめいろになっている。

 ところどころに付着している黒いみは、オーガが殺した者の血だろう。


「グォオオオオオアアア! ギィアアアア!!」


 オーガが棍棒を振り下ろす。

 俺は地面をって、奴の攻撃範囲こうげきはんいから逃れる。


 直後、俺は腰の日本刀を振る。


「サムライスキル──『イアイ居合い』」


 俺のかたなが、オーガの腕をかすめた。


「今だジーノ。支援しえん魔法まほうを頼む!」


 俺は一瞬だけ振り、後ろにいるメンバーに呼びかけた。


 このダンジョンに来たのは冒険者パーティ『復権ふっけんのノーブリス』の4人。

 俺──ケイジ・サトムラと、ジーノをはじめとする仲間たちだ。


 攻略はほとんど終わっている。

 目的はダンジョンの調査だったからな。

 本当なら、もう帰路きろについているころだ。



 ジーノたちがトラップに引っかかって、ダンジョンボスを呼び寄せたりしなければ。



 ボスと戦う予定はなかったけど、しょうがない。

 せめてジーノたちには支援しえんをお願いしたいんだが……。


「た、頼む。ケイジ……なんとかしてくれ!!」

「ぼくたちは後衛こうえいなんだ。仕方ないだろ!」

「こんなところで死ぬのは嫌ぁ!」


 ……駄目か。

 ジーノもレヴィンもマチルダも、部屋のすみふるえてる。


「……仕方ないな」


 魔法の支援はもらえないらしい。

 まあいいや。目的は果たしたんだ。さっさと帰ろう。


「ガアアアアアアアッ!!」


 オーガが棍棒こんぼうを振り上げる。

 棍棒の長さを加えると、間合いは俺の数倍はある。


 だけど、間合いが広くても意味はない。

 奴の戦闘能力は、もううばったからな。


「……ガ!?」


 オーガの動きが止まった。

 少し遅れて、オーガの手から棍棒と、短いぼうのようなものが2本、落ちた。


「ガ、ガ、ガアアアァッ!?」

「ああ。やっと気づいたか」


 棍棒こんぼう一緒いっしょに落ちたのは、オーガの親指だ。

 さっきサムライスキルの『イアイ』で切り落としておいた。

 右手も左手も、両方。


 オーガの武器は棍棒だ。

 振るときは腕を前に出すことになる。


 その瞬間しゅんかんに『イアイ居合い』で斬れば、親指を落とすくらいはできるんだ。

 そして、両手の親指を失えば、武器を握りしめることはできなくなる。


「グ、グァ!? ガアアアァ!?」


 武器を失ったオーガはパニック状態だ。

 尻餅しりもちをついて、そのまま逃げようとしてる。


「……ガァ! ギイィアアアア!!」

「悪いけど、逃がさない。オーガを討伐とうばつすると報酬ほうしゅうが上乗せされるからな」

「ガァ!?」

「俺が何者かって? そういえば、俺のジョブはこの世界ではめずらしかったな」


 オーガは戦意を失ってる。

 となると……例のスキルが使えるな。


「俺のジョブは『サムライ』──設定上は、東洋からきた剣士だ」


 俺は再び、打刀うちがたな鯉口こいくちを切る。

 発動するのはサムライスキルの『カイシャク介錯

 戦えなくなった相手を、楽にしてやることができるスキルだ。


「サムライがお前を看取みとってやる──『カイシャク介錯』」

「────ガッ」


 そして俺はオーガの首を落としたのだった。








 サムライと聞くと、どんなイメージが浮かぶだろうか?


 たとえば、ゲーム好きな人なら「攻撃力特化型の剣士」

 たとえば、時代劇じだいげきが好きな人なら「強きをくじく正義の味方」

 たとえば、歴史に詳しい人なら「権力者」あるいは「やたらと人をるヤバイ連中」


 そんなふうに思うんだろう。

 でも、この世界のサムライは──



「ケイジ・サトムラくんさぁ! 今回のクエスト報酬ほうしゅうってさ、サムライがもらうには多すぎるんじゃねぇかな!? 身分をわきまえようぜ!!」

「サムライってのは貴族には逆らえないんだからさぁ!!」

「クエストが終われば、ただの下僕げぼくだよねぇ? どこにもつかえてない『ローニン』なんだから!!」


 ──この世界のサムライは、貴族のパシリでもあるんだ。



 冒険者ギルドには笑い声がひびいている。

 俺のパーティ仲間、ジーノとレヴィンとマチルダの声だ。

 ジーノは子爵家ししゃくけの三男。レヴィンは男爵家だんしゃくけの次男。マチルダは没落ぼつらくした伯爵家はくしゃくけ令嬢れいじょうだ。


 貴族が冒険者をやるのは珍しいことじゃない。

 家督かとくげるのは長子だけだからな。

 次男や三男は冒険者で生活を立てるのが当たり前になっている。


 冒険者として強さを示せば、仕官しかんの口もある。

 王家の騎士団きしだんに入ったり、傭兵ようへいになったりもできるんだ。


 そんな貴族たちがどうして庶民しょみんの俺とパーティを組んでいるかというと……。

 ……まあ、便利だからだろうな。


「なあ、オレらの事情はわかるだろう?」


 ジーノが俺の顔をのぞきこむ。


「オレが兄上を超える力を示せば、家督かとくげるかもしれねえんだよ。そのためにはカネがいるんだ。投資とうししてくれよぉ」


 クエストの分配は、ギルド立ち合いのもとで終わっている。

 ここから先は個人的なやりとりだ。

 俺たちはただ、酒場で話をしているだけなんだから。


「わかった。ジーノへの投資だな。これでいいだろ」


 俺は分配品ぶんぱいひんの中から、黒水晶くろすいしょうを取り出した。


えらくなったら返してくれよ」

「ふざけんじゃねぇ!!」


 ばんっ!


 ジーノのてのひらがテーブルを叩いた。

 黒水晶が転がり、床に落ちる。ジーノはそれを見もしない。


「貴族のオレに、わざわざ換金かんきんに行けっていうのか? そんな貧乏くさい姿をさらして、次期子爵じきししゃくの座が遠のいたらどうするんだよ!?」

「だからいつも素材の換金かんきんを俺にやらせてるのか?」

「お前にはお似合いだろ。サムライは貴族には逆らえないんだからな!」


 ジーノの青い目が、俺を見た。


「それを思い出させてやんよ。ケイジ・サトムラよ。貴族の言うことを聞かないお前は『シドウフカクゴ士道不覚悟』だ。そこに座れ!!」

「────がはっ!?」


 身体が、勝手に動いた。

 俺は椅子から立ち上がり、はかまを整え、床に正座する。


 ……またか。

 貴族って本当にサムライを正座させるのが好きだな。まったく!


「『サムライは決して王や貴族に逆らえない』! それがこの世界のルールだ!!」

「……知ってるよ」


 主君のために忠義ちゅうぎを尽くし、命をける。

 この世界のサムライはそういうふうに・・・・・・・できている・・・・


 だから貴族は『シドウフカクゴ士道不覚悟』の言葉で、サムライを正座させられる。

 それでも反省が見られなかったら、絶対的なばつを与えることができる。

 それは──


「『ハラキリ・ペナルティ』なんか受けたくないだろ?」


『ハラキリ・ペナルティ』──いわゆる『切腹せっぷく』だ。

 貴族はサムライにそれを命じる権利があるんだ。


『シドウフカクゴ』と同じく、強制的に。


 それがこの世界──俺が転生した、ゲーム『ネオ・ダイバーシティ・オンライン』のルールだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る