背中

 私の前の席に、紺色の背中。

 授業中、時々見てる。真っ直ぐ。はやしくんて、姿勢良いな…………なんで? 私、頬杖する癖、やめられないよ。

 漢字の小テスト。

 早々に書き終わった私は、答案を裏返して、落描きしてる。扇形、下の漏斗ろうとを消して、コップみたいな線を描く。林くんの背中。ジャケットの襟を描き足して、白いシャツの襟がスッと一線覗いてる。シャーペンで、背中を塗りつぶす。

 林くんの真似して、背筋をピンと伸ばして座ってみたら、座っているだけで疲れてくる。りんは、ちゃんとも座れな〜〜い。





 新入生歓迎会が終わって、皆で部活見学に行こうかって、文化系のとこ回ってた時。私が入りたいとこは(天体観測が出来るところ)、ダイレクトに天文物理学部という、大層賢そうなお名前の部活があった。

 早々に決定した私は、ふわふわ、皆について行って、文化系を回って見ていくのが楽しかった。


 林くんは、何の部活にするのかな……


 それがいちばん気になってたかも。


 林くんは、書道部に寄りたいって。書道部? お習字か〜〜。すごいなーー。凛は、授業か書きぞめの宿題でしかやったことない。て思ってたら、先輩が試し書きしてみない? って。しかも林くん、畳をご所望。え。えぇ…………すごいな、林くん!

 私たちは、机の方で試し書き。

 何書く? お手本ないお習字なんて、初めて。

 横目でチラリと、畳に正座している林くんを見た。真横から見た林くんは、めっちゃ姿勢が良い。前の席に座っている、私が見ていた、真っ直ぐな背中。椅子より、合っている。…………そう思った。


 背中


 私は何を書こうか、今さっきまで迷っていたのに、林くんを見て、書いていた。

 林くんは、『中華そば』…………中華そば? 林……くん??


【終】

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