運命に抗うもの2

「ということでここから俺たち頑張ってみたいと思います」


 配信画面を見てみると多くのパトロンが来ていた。

 ダンジョンの再構成という不測の事態、今撮影で映っているのは子供だけという状況に応援するようなコメントが付いている。


 ただみんながみんな応援してくれているわけじゃないこともイースラには分かっている。

 どうやってこの状況を乗り越えるのかと期待している人もいれば、イースラたちが凄惨な最期を迎えればいいと考えている人もいる。


 コメント付きパトロンで頑張って仲間を探すんだなんて言ってる奴は応援しているのではイースラたちが適当に動いて魔物と遭遇することを望んでいるのだ。

 パトロンが嬉しいからと悪意に突き動かされて状況を見誤ってはいけない。


 中にはただ画面の向こうをコントロールしてやろうとか破滅に導いてやろうというパトロンもあるのだ。

 今はサシャもクラインも配信画面なんて見ている余裕はないので惑わされることはない。


 もちろんイースラも惑わされることなどないが、奇しくも移動はするつもりだった。

 回帰前のイースラとサシャは運が良かった。


 二人は近くにいたので同じく再構築に巻き込まれて入り口近くに運ばれた。

 クラインは少し離れていたから別の場所に運ばれて帰らぬ人となった。


 だから中がどうなっているのかイースラにも分かっていない。

 日をずらしても再構築が起きてしまったことを考えると回帰前と全く同じように再構築が起きたとも思えない。


 ベロンは生きているとしても他の人が生きているのかは分からない。

 悠長に助けを待っている余裕などないのだ。


「んじゃ行くぞ」


 危なそうなら前に出るつもりだけど、ついでなら少しは二人にも経験を積ませたい。

 イースラは片手に剣を持ちながらも逆の手でしっかりとカメラアイを持つ。


 どの道が帰るのに正しい道なのか分からないので適当な方に進んでいく。


「ひっ、ひいいい!」


「この声は……」


 常にカサカサと音が聞こえてきてイラつくなと思っていたらよりイラつく声が聞こえてきた。


「アイツは……」


「チッ! 面倒ごとばかり持ってきやがるな!」


 声の主はポムであった。

 後ろからケイブアントに追いかけられていて泣きそうな顔をして逃げている。


 面倒だと思ったけれど逃げられそうな道もなく、イースラたちの方に向かってくる。

 たとえポムが転んで犠牲になったところでケイブアントには見つかってしまうだろう。


「やるぞ!」


「え、あ、うん!」


「よ、よし! やってやる!」


 やる気満々だったクラインも流石に本当に魔物を目の前にすると緊張した顔をする。


「ポム!」


「イ、イースラ?」


 もはや限界が近いポムはイースラたちにも気づいていなかった。


「これで俺たちのこと映しといてくれ」


 イースラはポムにカメラアイを投げ渡す。

 見殺しにするのも後味が悪い。


 ちょうどいいタイミングで現れたのだしカメラアイでの配信を任せてイースラも戦いに加わることにした。


「いいか、焦ることはない。俺が教えた通りに戦えばいい。危なくなったら情けなくても逃げろ。怖いのは当たり前だ。だけどそれを乗り越えてまた成長できるんだ」


 イースラの体が白いオーラに包まれる。

 まずはイースラが一番手前を走ってくるケイブアントに切り掛かった。


『はっ、オーラ!?』

『あんなガキが?』

『光の加減だろ』

『才能発見』

『これは面白そうだ』


 ポムが受け取ったカメラアイを慌ててアースラに向ける。

 イースラがオーラを使ったことに対して一気にコメントが溢れた。


 流石に完璧にオーラを使いすぎるとそれはそれで変な注目を浴びてしまう。

 イースラはあえてオーラを乱してとりあえずまとってる感を演出してケイブアントを切り捨てる。


 そこそこ硬いケイブアントもオーラを込めた剣ならスパッと切断することができた。


「や、やるぞ!」


「やあああっ!」


 イースラに続けとクラインとサシャもケイブアントに切り掛かった。

 黄色と青色のオーラをまとう二人の姿が配信画面に映るとコメントは追いきれないほどの速さで流れていく。


 チラリと配信画面を確認したイースラはニヤリと笑う。

 この状況を生き残ることができたなら配信で得られるものも大きそうだ。


「いい感じだぞ!」


 ケイブアントに対する恐怖心があるのか二人とも攻撃は浅い。

 だがケイブアントにダメージを与えるのには十分であった。


 最初から100%の力を発揮できるなんてイースラも思っていない。

 むしろちゃんと攻撃できただけ上出来だと嬉しいぐらいである。


 自分たちの攻撃が通じる。

 相手の攻撃もよく見ればかわせる。


 つまり戦える相手だ。

 このことが分かれば自然と自信もついてくる。


「つ、強え……」


 ポムの口から感想が漏れる。

 イースラだけだと思っていた。


 クラインとサシャはイースラが守っているだけで何もできない奴らだろうとポムは考えていた。

 しかしクラインもサシャも強かった。


 ケイブアント一体にすら苦戦していたポムと違って二人はケイブアントを軽々と倒している。

 イースラは無理でも二人にはいつか仕返ししていつか自分が上だと分からせてやるなんて思っていたのにポムは恥ずかしい気持ちになった。

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