買われた真の目的4

 ある程度のところで切り上げさせてみんなが帰ってくる時には何事もなかったかのようにしておくのが良さそうだ。

 鍛えているのは悪いことではない。


 しかし未熟とはいえもうオーラが扱えることを知られればどうなるのかわからない。

 まだまだ経験不足の間に戦いに駆り出されるかもしれないし、嫉妬などの醜い感情で追い出されるかもしれない。


 しっかりと力をつけて独り立ちできるようになるまでは力は隠しておくべきなのである。

 イースラ自身もバレるにしてももう少し隠しておきたい感じはあった。


「二人とも、そろそろ切り上げよう」


「ん、分かった」


「これやるとちょっと疲れるけどちょっと気分良いんだよな」


 本来自分のものではない魔力を自分のものにするのでそうした面では体力を使う。

 一方で失った魔力が急速に回復していくので体に魔力が充実する気分の良さがあるのだ。


 これらのことを感じ取っているということはしっかりとアルジャイード式ができているということなのである。


「昼飯の準備しよう」


 魔力が扱えることを明かす気はないがギルドのみんなの好感度を稼いでおいて悪いことはない。

 そろそろ戻ってくることを見越して昼ごはんを作っておく。


 帰ってきてすぐに食べられるようになっていたらよく気がきくと思ってもらえることだろう。

 事前にある程度仕込んでおいたものがある。


 近くにあった石を積み重ねて焚き火のそばに置き、その上に鉄のフライパンを乗せる。

 フライパンが温まってきたらギルドハウスで味付けしておいたお肉や野菜を焼き始める。


「クライン、焦げ付かないよう上手くかき混ぜてくれ。俺はちょっと枝でも探すよ」


 溜めておいた枝がかなり減ってきている。

 探しておかねば夜までは持たない。


「あっちは最初に探したから次はこっちかな。……あれは」


 あまり拠点周りから離れるわけにはいかない。

 最初枝を探したところと別の方向に行こうと振り向いたイースラの目に何か走ってくるものが見えた。


 人じゃない。

 四足で力強く地面を蹴って駆けているそれはハイウルフであった。


「サシャ、武器を俺に!」


 ハイウルフはまっすぐにイースラたちの方に向かっている。

 イースラだけなら逃げられるがサシャとクラインの二人がハイウルフから逃げるのは難しいだろう。


「え、えと……はい!」


 サシャは近くにあった剣をイースラに投げ渡す。

 それは予備のために持ってきてあった武器だった。


 受け取った剣を抜いたイースラは近づいてくるハイウルフと目があった。

 ハイウルフは標的としてイースラの認識している。


「あ、お、俺は……」


「お前はそのまま焦がさないようにしてくれ!」


「えぇ……」


 フライパンを持っているクラインは突然の襲撃に困惑しているけれどフライパンを投げ出すわけにもいかない。

 そのまま炒めておいてくれと言われてクラインは思わず驚きの声を漏らした。


 イースラはハイウルフの前に立ちはだかるようにして体にオーラをまとう。

 サシャとクラインと戦った時と変わりない真白な魔力が一瞬で体を覆い、指先から胴体、剣に至るまで同じ厚さをキープする。


「イースラ!」


「はっ!」


 ハイウルフはイースラから少し手前で大きく跳躍し、大きく口を開けて噛み砕こうと飛びかかる。

 離れて見ていてもとても素早くて、自分ならばかわせないとサシャは思わずイースラを心配する声を上げた。


「うわっ……すげぇ……」


 ハイウルフの牙をギリギリのところでかわしたイースラは刃を振り下ろしてハイウルフの首をはね飛ばした。

 ハイウルフの攻撃を完全に見切った回避も流石だしためらいのない攻撃、魔力をオーラとしてまとわせた鋭い一撃は人間にも負けない体格をしたハイウルフの首を容易く切断した。


 完璧な戦いに料理を炒めながらクラインも感心してしまう。


「ふぅ……なんなんだよ」


 イースラたちのいるところまでハイウルフはあまり出てこない。

 しかも群れで行動するはずのハイウルフが単体で出てきたということは何かのミスがあったなと思った。


「おい! 大丈夫か!」


 少し遅れてベロンが森の奥から走ってきた。


「これは……」


 走ってきたベロンが見たのは首が切断されて倒れるハイウルフと血のついた剣を持ったイースラであった。

 失敗したなとイースラは思った。


 急な襲撃だったために一撃でハイウルフを倒してしまった。

 もっと上手く、必死に抵抗したから倒しました感を出した倒し方もできたはずなのに、首が切り落とされていたら明らかにしっかりと倒しましたという感じが拭えない。


「……お前がやったのか?」


「えと……」


「ベロン!」


 ベロンが呆然としているとバルデダルたちも追いついてきた。


「これはどういうことですか?」


 ベロンが見たのと同じ光景を目にしてバルデダルたちも困惑したような顔をしている。


「これをやったのは……」


「俺だ」


「えっ?」


「俺が倒して、今剣の血を拭いてもらおうと思っていたんだ」


 どう誤魔化そうか。

 そんなことを考えていたら急にベロンがイースラのことを庇った。


 ハイウルフを倒したのは自分でイースラが血のついた剣を持っているのは血を処理させようと渡したからだと嘘をついた。


「ベロンがやったのなら……」


「それよりも! ハイウルフ逃すなんて危ないだろ!」


「すまねぇ……」


 どうやらハイウルフを逃してしまったのはデムソのようでベロンの叱責に気まずそうな顔をする。

 よく見ればなんでベロンが腰に差した剣ではなく予備の剣で戦ったのかとか疑問点はあるのだけど、それにバルデダルたちは気づくこともなくハイウルフを処理し始めた。


「後で話がある」


「……分かりました」


 他のみんなは誤魔化せたようであるが、ベロンだけはどうにかしなければならないなとイースラは思ったのであった。

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