誰も知らない配信の仕方1

 いくらなんでも過去のこと全部は覚えていない。

 回帰前は最終的にイースラは料理番でもなかったので町中のお店なんかもあまり記憶に残っていなかった。


 サシャとクラインと共に適当に色々とお店を回って食材を買っていく。

 いっつもろくな飯出てこなかったので食料費も少ないのかと思っていたけれど、受け取った金額でしっかり買い物していくとそれなりに多くのものを買えた。


 ポムがゴミだったようである。

 それに子供ということも大きかった。


 ニコニコとして丁寧な態度で買い物するだけでちょっとオマケしてくれるようなお店も多い。

 こうして買い物してみると意外と楽しいものである。


 回帰前の高くなった物価で買い物を想像していたので想定よりも多くのものを買えて、それでもなお少しだけお金が余った。


「イースラ?」


 そろそろ帰ろうかという時に目についたお店があったのでイースラはさっとそこに寄って物を買ってきた。


「ほらよ」


「何これ?」


「甘くて美味いもんだ」


 三本の串をイースラは買ってきた。

 小さい果物に溶かした砂糖をまとわせたものでちょっとお金がある子供のおやつみたいなお菓子である。


「ん! 美味しい!」


「甘いな」


 イースラからお菓子を受け取ったサシャとクラインはペロリと果物を覆う透明な砂糖の膜を舐めて笑顔を浮かべる。

 孤児院じゃ甘いものなんてそうそう食べられなかった。


 食材は十分に買ったしこれぐらいの贅沢許されるだろうとイースラは笑う。

 荷物を手に持ってお菓子を口に咥えてギルドの建物に戻る。


 流石に他の人にバレたらヤバいので着く前には食べ切っておく。


「あらぼーやたち」


 ギルドに帰ってきたところで建物から出てきたスダーヌと会った。


「お買い物? ……偉いわね」


 チラリとイースラたちが持っている荷物に視線を向けてスダーヌは感心したように頷いた。

 ポムがあんなに荷物を持っていた記憶などない。


 やっぱりあのサル、ロクでもないことにお金使ってたのねとスダーヌは思った。


「私はディナーの約束があるから夜はいらないわ」


「分かりました」


「頑張ってね」


 そういえば化粧もしてるし服装も良いものを身につけているとサシャは気づいた。

 スダーヌは笑顔を浮かべて手を振ると去っていった。


「優しそうな人だな」


「……今はな」


「なんだよ、その言い方?」


「いつか分かるさ」


 スダーヌは基本的に良い人である。

 そのことはイースラも認める。


 しかしそれには条件がある。

 スダーヌは男がいる時だけ機嫌がすこぶる良くて、良い人になるのである。


 逆に男に振られたり、男がいない期間はとても機嫌が悪い。

 他のギルド員もスダーヌに触れなくなって、誰か男ができないかと願うほどに機嫌が悪くなるのだ。


 浮き沈みが非常に激しい。

 今回の男も長続きしてくれればいいのにと思うけれどスダーヌは大体男と長続きしないのである。


 含みのある言い方をするイースラにクラインは怪訝そうな顔をする。


「いいからさっさと荷物片付けるぞ」


 ギルドの前で突っ立っていても仕方ない。

 イースラたちは買ってきた食材を台所にしまっていく。


 生物は腐りやすいので少なめで日持ちするものを中心に今回は買ってきてある。


「うーんかなりマシになったな」


 調味料すらカツカツだったので色々買い足して食材や調味料があるのを見ると少し嬉しくなる。


「おーい、リビングスペースでは……えと、頬に傷のある……」


「ベロンさんな」


「そうそうベロンさんが寝てるだけ。他の人はいない。自分の部屋か……外だな」


「……ならよさそうだな」


 片付けている間にクラインにリビングスペースの様子を見てもらった。

 ベロンがソファーに寝ているだけで他のギルドメンバーはいなかった。


 チャンスだとイースラは思った。


「んじゃ、配信ってのやってみようか」


「おっ、やるのか?」


「でも……私たち魔物なんて倒せないよ?」


「ふっ、そうだな。今回は魔物は倒さない。配信は魔物を倒すだけじゃないんだ」


「どーいうこと?」


「ふふふ……また誰も知らない配信さ」


 イースラはニヤリと笑う。


「何してるの?」


「今日作るものの食材並べてんだ」


 イースラは買ってきたものの中で使う食材をテーブルに並べる。

 腐りやすい生物を先に使うつもりだ。


 同じ食材をまとめてテーブル並べることになんの意味があるのか分からなくてサシャは首を傾げる。


「あとは……」


「な、なに?」


 イースラがサシャの顔を見つめる。

 子供ながらに可愛い顔してるとイースラも思う。


 回帰前色々な美人にあったけれどサシャがまともに育っていたらそうした美人たちの中でもトップクラスになったと言い切ってもいい。


「お前はそのままで可愛いからいい」


「はっ!? 急になんなのよ!」


 見つめられた挙句可愛いなんて言われてサシャは顔を真っ赤にする。

 クラインは遠い目をしながら俺がいない時にやってくれと思っていた。


 クラインは年上のお姉さん好きなのでサシャには興味ないのだ。


「今からやることを説明するから。まずはメニュー画面を開いてくれ」

 

「分かった」


 サシャとクラインはイースラの言う通りにメニュー画面を開いた。

 相変わらずごちゃごちゃと文字が並んでいる。


「今から同業者申請を送るから。右の上の端っこに小さくあるやつにマークが出るはずだ」


「あっ、本当だ」


 サシャとクラインのメニュー画面の右上に赤い“!”のマークが現れる。

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