孤児院を飛び出す時3
「アイアン等級、一番下で構わない」
「承知しました」
隣の受付と同じように申請書を仮面の受付が取り出す。
「代筆を頼む」
「承知しました」
ただこちらの申請書には名前を書く欄しかなく、あとは注意事項などが書いてあるだけだった。
内容としては命がどうなっても責任を取らないとか手数料がかかるとかそんな内容だが、受付もバルデダルもイースラたちにそんなことを説明もしない。
仮面の受付は言われていないことをしないので仕方ないが、どうせ読めないと思ってバルデダルはイースラたちを軽んじているのだ。
まあ読めたり説明されたところで何かが変わることもないのは確かである。
「少し俺は用事がある。その間に登録を済ませておくように」
バルデダルが冒険者ギルドの休憩スペースの方に向かった。
チャンスだとイースラは思った。
「俺の等級をアイアンからブロンズに格上げしてくれ」
「イースラ?」
「承知しました。料金がかかりますが」
「これで」
「おま……どっからそんな金を……」
バルデダルがいなくなった隙を狙ってイースラは登録の条件を変更した。
そして懐に隠していた袋を取り出して受付に置く。
中にはお金が入っていて仮面の受付が中身を確認する。
それはシスターモーフからもらったお金だった。
子供を引き取る代わりにバルデダルは孤児院にお金を支払った。
ただしその金額がシスターモーフの足元を見たものであることをイースラは回帰前の記憶から知っていた。
倍額をふっかけても普通に払えるぐらいにはバルデダルは実はお金の用意もしていたのである。
イースラはシスターモーフに倍額を提示することを持ちかけさせた。
その代わりにサシャとクラインを説得し倍になったお金の半分の半分を旅立ちの資金としてもらえるようにお願いしていたのだ。
「ついでに一番安い固定カメラアイも欲しい」
「承知しました」
仮面の受付は受付の下から箱を取り出した。
「うっ、何これ?」
「気持ち悪……」
サシャもクラインも箱を見て嫌そうな表情を浮かべる。
イースラたちの手のひらぐらいの大きさの黒い箱。
しかしそれはただの箱ではなかった。
箱の真ん中に目がついているのだ。
装飾や絵ではなくぎょろぎょろと動いていて生の目玉に見えた。
その気色の悪さに二人とも顔をしかめているのだ。
「大事なもんさ」
イースラは新しく差し出された申請書にはスラスラと自分の名前を書く。
「いつ文字なんて覚えたの?」
実はサシャは簡単な文字なら読み書きができる。
シスターモーフが時間を作って子供たちに勉強を教えていたからだ。
孤児院で一番優秀だったのがサシャでそれでも申請書の内容もまだ読めないぐらい。
名前ぐらいは書けるけれどイースラが文字を書いているところなんて見たことがなかった。
「名前ぐらいはな」
もちろん回帰前の経験があるから文字の読み書きができる。
必要だからと叩き込まれてなんとかできるようになっていたのを覚えていたのだ。
「終わったか?」
「やべっ!」
バルデダルが戻ってきてイースラは目のついた黒い箱を掴むと服の中に隠す。
「こちらが配信者証となります」
冒険者証と同じく名前の書かれたカードがイースラたちに渡される。
幸い目のついた黒い箱はバルデダルに見られなかった。
「終わったなら行くぞ」
「ねね、さっきのやつ何? ブロンズとかアイアンとかって何?」
バルデダルに連れられて冒険者ギルドを出る。
サシャがイースラに顔を寄せて声をひそめてサシャが色々と分からないことを聞こうとする。
「全部必要なことさ。これからようやく俺たちの物語が始まるんだ」
「……どういうこと?」
「信じてくれ」
イースラは優しく笑う。
「……分かった」
「まあ細かなことは後でな」
「何してる? 早く馬車に乗るんだ」
「はーい」
イースラは素直に返事をして馬車に乗る。
「そう、これからは他人が主人公なんじゃなく俺が主人公になるんだ……」
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