回帰した俺だけが配信のやり方を知っている~今度は上手く配信を活用して世界のことを救ってみせます~

犬型大

神の懐中時計1

「そこに座って。今治すから」


「もういい……お前も魔力そんなに残ってないだろ」


「傷を塞ぐぐらいはできるわ」


 左腕を魔物に食いちぎられた。

 代わりに仲間を救おうとしたのにただ左腕をくれてやる結果になってしまった。


 イースラ・サンハッドは岩影に隠れるように腰を下ろした。

 左の腕は肩近くから無くなっていて、ユリアナ・フィルディアナはイースラの治療を始める。


 戦い通しでユリアナの魔力も少ない。

 本来のユリアナの力なら食いちぎられた腕も生やすことができるのに今はただ傷を塞いで出血を止めることしかできない。


 愛する相手が片腕を失ってしまったことにユリアナは深い悲しみを覚えていた。


「そんな顔をするな。まだ死んだわけじゃない」


 イースラは優しく微笑んでユリアナの頬を撫でる。

 実際厳しいということは分かっている。


 しかし諦めるわけにはいかない。

 諦める姿を見せるわけにもいかないのである。


「それにほら……まだ一万人も見てる」


 イースラが手を振ると空中に四角い半透明の薄い板のようなものが現れた。

 そこにはイースラとユリアナの姿が映し出されている。


 それをイースラは配信画面と呼んでいた。

 右下には10574と数字が並んでいる。


 第三者の目から映し出されているような光景であり、どこから映し出されているのか目を向けてみると大きな目に翼をつけたような奇妙な魔物が飛んでいた。

 カメラアイと呼ばれている魔物であり、魔物であるが人と敵対しない不思議な存在である。


「……もう世界の希望はあなただけ」


「ユリアナ?」


「戦える冒険者は私とあなたしか残っていない。でも私には戦う力は残っていない」


「何が言いたい? 何をするつもりだ?」


「少し前に解放されたゴッドクラスランダムボックスがあるでしょ?」


 イースラはなんだか嫌な予感がした。

 なぜなのか分からないけれどユリアナに決意のようなものを感じていた。


「あったけれど……必要なポイントが高すぎた。もうすでに国も国民も財産を使い果たした。そんなもの買ってる余裕なんてない」


「無いなら作ればいいのよ」


「なに? どうやって……」


『32140000ポイントを獲得しました!』


「何?」


 イースラとユリアナを移す画面の横に表示が現れた。

 急にポイントが得られるなんてことはなく何かがきっかけのはずだと画面を見たイースラは驚愕した。


 7360。

 画面の右下の数が減っている。


「ユリアナ……まさか」


「これでもまだ足りないもんね」


「やめろ……おい、やめろぉ!」


 画面の右下の数字がまた減った。


『25820000ポイント獲得しました!』


「なんで……ユリアナ、これは君が?」


「言い出したのは私だけど、やってくれたみんなは納得して自分でやってくれてるんだよ」


「ふざけるなよ! 何のために戦って……」


「たとえ少しでも残ればきっとやり直せるから」


『12850000ポイントを獲得しました!』


「やめろやめろやめろ! 命を粗末にするな!」


 イースラはカメラアイに向かって叫ぶ。

 画面右下の数字はいつの間にか最初の半分以下になっている。


「でもこれだけじゃ足りないよね……」


「ユ……ユリアナ? 何を?」


「みんなにやらせて自分はやらないなんていけないよね」


「頼む……そんなことを言わないでくれ!」


「聖杖イラスラータをポイントに変換」


「ユリアナァ!」


 ユリアナの手に持たれていた真っ白な杖が消えてなくなる。


「これもあれも……全部ポイントに」


 ユリアナが身につけていた装備品が次々と消えていく。


「これは……大切だから許してくれると嬉しいな」


 ユリアナは左手に身につけていたバングルを優しく撫でた。


「私の所有ポイントをイースラに」


『ユリアナから68137412ポイント送られました』


「まだ足りないね」


「もういい……いいから……」


「私の命をポイントに。受け取りはイースラが」


「ユリアナー!」


 イースラが右手を伸ばした。

 けれどもその手はユリアナに届くことはなく、まるでいなかったかのようにユリアナは消えてしまった。


『50000000ポイントを得ました!』


「あ……ああっ!」


 後に残されたのはユリアナが撫でていたバングルだけだった。

 膝から崩れ落ちたイースラはバングルを手に取って涙を流す。


「そんな……うそだと言ってくれ……何でこんなことを……」


 その時魔物の声が響き渡った。

 逃げたイースラを追いかけてきたのだと頭では分かっているけど、目の前で起きたことの大きさに動く気力も湧かない。


「異界商人」


「はいはーい」


 地面に座り込んだままイースラはアイテムを購入するための異界商人を呼び出した。

 人の頭ほどの大きさしかない白い人形のような不思議な異界商人はこんな状況にもいつものように現れた。


 その軽薄さが今は鼻につく。


「ゴッドクラスランダムボックス……購入」


 震える声で購入するものを注文した。


「ゴッドクラスランダムボックスですね! 価格は価格は1億5000万ポイントとなりまーす」


「いいから寄越せ……」


「せっかちさーん。じゃーじゃじゃーん! こちらの中に手を入れて掴んで下さーい」


 異界商人が手をパンと打ち鳴らすとポンッと箱が現れた。

 金色の装飾が施された大きな箱で上は開いていて中は底が見えないような闇が広がっている。

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