第11話 魔物を食す
「この巣穴の主だった魔物は食べられないですかね?」
ユキタカはお腹が減っていたのでイリスに、仕留めた魔物『灰色六足魔熊』について確認していた。
「魔物をですか……? 冒険者の中には食糧が尽きた時、仕方なく倒した魔物を食べた、という記録を読んだ事はありますが、そこには美味しくなかったとも書かれていたので、食べる人はあまりいないと思いますよ?」
イリスはユキタカの発想に驚いた。
「それって何を食べたんですか?」
「ゴブリンだそうです」
「それは確かに、不味そうですね……」
ユキタカはラノベ好きだからゴブリンの存在は十分知っている。
王都のダンジョンでは遭遇しなかったが、オークやスライムなどはイメージ通りの姿だったから、ゴブリンも一緒だろう。
「僕のいた世界では、熊はジビエ肉として食べられていたので、挑戦してみたいです。イリスさん、刃物を貸してもらえませんか?」
ユキタカは、お腹が空いていた事もあり、積極的だった。
「……わかりました。でも、私がやりますよ。こういうのは慣れているので」
イリスは普段から討伐した魔物の魔石を取り出すし、捕らえた獣を解体する作業には慣れている。
「では、僕もそれを見て勉強させてもらいます」
ユキタカはお願いすると、魔法収納に回収してあった魔物を取り出すのだった。
イリスは『灰色六足魔熊』の血抜きをすると、解体を始めた。
まずは、心臓のある辺りを切り裂き、近くにある魔石を取り出す。
これが、冒険者にとって最大の利益になるから慣れた手つきだ。
「……この魔物は、ゴールド級冒険者の私でも単体では勝てない相手です。魔石もこんなに綺麗で大きい……。きっと高値で売れますよ」
イリスはユキタカの為に説明しながら、解体を進めた。
ユキタカは、覚えようと必死にイリスの手元を見ている。
「あ、心臓も取り出してください。あっちの世界では食べるんですよ」
ユキタカは漫画で呼んだ知識を基に、イリスにお願いする。
「は、はい!」
イリスは驚きつつ、ユキタカの言う通りにしていく。
解体したものは、傷まないように魔法収納ですぐに回収していった。
朝から始まった四メートルの巨体の解体作業は、イリスの慣れた動きでも数時間かかった。
その間、解体の最中にユキタカはイリスからいろんな情報を聞く。
特に冒険者についてである。
イリスはゴールド級冒険者らしいが、それがどの程度の強さなのかもユキタカはわかっていなかったからだ。
そこで、イリスから教えてもらった事を頭の中で整理してみた。
下記が簡単な一覧だ。
アダマンタイト(魔金剛鉄)級……伝説級
オリハルコン(神鉄)級……最高級
ミスリル(魔鉱鉄)級 ……超一流
プラチナ(白金)級 ……一流
ゴールド(金)級 ……強者
シルバー(銀)級 ……熟練者
カッパー(銅)級 ……一般
スチール(鋼)級 ……あと一歩
アイアン(鉄)級 ……駆け出し
ウッド(木)級 ……素人
イリスは、冒険者としてはかなり上の方であり、平均的な冒険者はカッパー級らしい。
そして、イリスからは、それを証明する『冒険者札』も見せてもらった。
各ランクの金属で作られた名前入りの小さな札が、その地位を証明するものらしい。
ユキタカは、そんな説明を受けながら、時間のかかる解体作業の脇で、肉を焼く事にした。
回収した細い骨で、心臓を串刺しにする。
イリスが塩を持っていたので、それをまぶして念入りに揉み込む。
下ごしらえを終えると、あとは調理である。
巣穴には小さな枝が沢山あったので、それを火種としてイリスの魔法で火を点けてもらった。
ユキタカはひたすら、串刺しにした心臓をじっくり焼く。
香りにジビエ風味はあるけど、味はどうなんだろう……。
ユキタカはイリスと話しながら、つばが止まらない。
イリスが言うには魔物は美味しくないというが、目の前にある心臓の串刺しは、不味そうには見えないからだ。
ユキタカは、イリスの解体作業が終わるまで、食べたい衝動を抑えながらじっくりと焼き続けるのだった。
イリスが、数時間の解体作業を終えた。
「本当ならこんな大掛かりな作業のあとですから、エールの一つでも出せたら良かったんですけどね。はははっ」
ユキタカは笑いながら、水筒のコップに水を入れて渡そうとした。
すると、コップの中身が泡立っているではないか。
「え!?」
ユキタカは驚くと、イリスへ渡す前に自分で口をつけ味を確認する。
「エールだ! これは凄い!」
ユキタカは感動に声を上げた。
それはそうだろう。
水筒から飲みたかったエールが出てきたのだ。
つまりそれは、水だけでなく、全ての飲みたいものが、水筒から出てくる可能性を示している。
ユキタカはコップの中身を飲み干して、久し振りのお酒を堪能すると、次はイリスにそのエールを渡す。
「! こんなに美味しいエールは久し振りです……。──ゴトーさん、あなたの持ち物は本当に『神器』なのかもしれません……」
イリスは、感動と共に、ユキタカの持ち物がとんでもないものである事に驚くしかない様子だった。
「お酒が出る水筒ですからね……。僕もそう思い始めています……」
ユキタカはこの水筒だけでも商売ができると思えたから、当然の感想だろう。
ここで、ユキタカのお腹が大きな音を立てた。
「ふふふっ。背に腹は代えられませんから、心臓の味見をしてみましょうか」
イリスはユキタカが焼いてくれた心臓を食べる決心をした。
魔物を食べるのには抵抗があるのだろう。
それを察したユキタカが、借りた刃物で焦げた部分を削り落とし、イリスが持参していた皿に心臓を切り分け、その一切れを自ら口に運んだ。
「(モグモグ……)……こ、これは!? ──ムチムチ食感で噛み締めるとうま味もあって、美味しいですよ!」
ユキタカは、意外に独特な臭みのない美味しさに感動して、二切れ目も口に運ぶ。
あまりにユキタカが美味しそうに食べるのでイリスも生唾を飲み込み、勇気を出して指で一切れ摘まみ、口に運ぶ。
「……本当に美味しい!」
お腹が空いていた事もあっただろうが、イリスもその美味しさに感動し、すぐ二切れ目に手が伸びた。
肉は焼けて熱々なのだが、気にする様子はない。
二人は、笑顔で視線を交わしながら、黙々と魔物の心臓を、水筒から無限に出てくるエールで流し込んで堪能するのだった。
魔物の心臓を楽しんだ二人は巣穴を出ると、ほろ酔い気分で明るいうちに崖を登れる場所を探す事にした。
イリスの読みでは、巣穴の主であった魔物をはじめ、迷い込んでくる魔物や獣がいるからには、どこからか下りられる場所があると考えたのだ。
ユキタカもそれに同意して、長く続く地面の切れ目のような地底を進むのだった。
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