スキル無しゴトーさんは最弱のはずです!~勇者召喚に巻き込まれたモブサラリーマンの異世界冒険記~
西の果てのぺろ。
第1話 巻き込まれ召喚
小雨の降る夜。
サラリーマンの
その容姿は、黒髪、黒い目、黒縁眼鏡のスーツ上下。
身長は、175センチほど、田舎を飛び出し、都会に出てきた、社会人四年目である。
数日、会社に泊まり込みだったから、ビジネスリュックを背負い、右手には鞄、コンビニの袋も提げていた。
そして、雨が降っているので柄が銀色で特徴のある黒い傘を差して、歩道を歩いている。
その前を塾の帰りだろうか、高校生の集団が歩いていた。
横に広がって男女四人が歩いているので、抜かすことが出来ず、その後ろを静かに歩いている状況だ。
(急がなくても家はすぐそこだし、まあ、いいか……。──そう言えば、この数日で予約していたアニメも溜まっているよなぁ……)
五島雪貴は疲れていたが、家に早く帰りたいという衝動を抑え、考え事をしながら歩いていた。
その時だった。
前を歩く高校生集団がなぜか立ち止まったので、その後ろぼーっと歩いていた五島雪貴は、その背中にぶつかる。
「あっ、すみません!」
五島雪貴は、高校生に謝った時である。
高校生達はぶつかられた事よりも、周囲を見渡して動揺していた。
「な、なんだ、この光!?」
「えっ、何!?」
「ちょっとこれ、ドッキリ?」
「これって、映画で見る魔法陣じゃない!?」
と声を上げる。
だが、五島雪貴にはその光は見えず、自分が無視された事に「?」となっていた。
その次の瞬間である。
目の前にいた男女の高校生達が一人、二人と消えていくではないか。
最後の女子高生が驚き、傍にいたサラリーマンの五島雪貴に、助けを求めて手首をとっさに掴む。
「えっ?」
五島雪貴は思わず驚きの声を上げると、次の瞬間には視界が歪み、それと同時に意識が遠のくのだった。
「おお! 成功だ! これで我が国もあと百年は安泰だぞ!」
「いや、待て! まだ、鑑定をしていない者がいるだろう!」
「みなの者、落ち着け! すでに鑑定で、勇者殿、聖騎士殿、聖女殿、賢者殿である事がわかっている。最高の結果なのだから問題ない!」
そんな声が、倒れている五島雪貴の意識を呼び覚ました。
「……こ、ここは? ……あれ?」
目を覚ますと、ぼやけた視界には意識を失う前にぶつかってしまった男女の高校生四人が変わらず立っていた。
ただし、周囲はどこかの天井が高い室内であり、先程までの歩道ではない。
どうやら自分だけが意識を失っていたようだ。
高校生達は、中世風のコスプレをした人々と何やら話し込んでいる。
「?」
五島雪貴は、状況が理解できず、困惑した。
そこに、中世風のコスプレをした人物の一人が、目を覚ました五島雪貴に気づき、
「こちらの者も目を覚ましましたぞ! 早速、鑑定を行いましょう! ──さあ、お立ちください!」
と嬉しそうに、五島雪貴を立たせる。
「すみません、……ここはどこですか?」
五島雪貴は、ぼやけた視界のまま意識を失っている間に、何かのコスプレのオフ会会場に連れてこられたと思い、状況の説明を求めた。
「その説明は二度目なのですが、詳しい事は後でまた部下に伝えさせましょう。まずは荷物を預かりますので、鑑定を」
ひげを蓄えた中世風の中年コスプレイヤーは、五島雪貴が持っていた鞄とコンビニ袋、そして、傘、背負っているビジネスリュックを預かる。
五島雪貴は、視界がぼやけている事が気になって、荷物の事より、眼鏡を気にした。
そして、それを取ると、視界が拓けた。
「あれ? 視力が良くなっている?」
五島雪貴は、クリアな視界になった事で、ようやく周囲の状況を、はっきりと理解する事になった。
そう、明らかに時代が違う建物の中にいたからだ。
室内は、高そうな絨毯が敷かれていて、少なくとも日本にこんな場所はないだろうと思える広さだ。
自分達を囲んでいる者達も、コスプレでは片付けられないリアルな異国情緒溢れる容姿である。
それに、人だけでなく特殊メイクの域を超えた獣姿の者や、尖がった耳に一流モデルとしか思えない美貌の男女もいた。
ここはもしかすると異世界なのかもしれない、という考えが脳裏を横切った。
五島雪貴はそれこそアニメを見るし、ラノベも好んで読んでいたから、普通に考えるとあり得ない考えに至ったのだ。
そんな考えが頭の中でいっぱいになっている状態で、大きな水晶玉の前に引っ張られていく。
「それでは、この鑑定水晶に手を置いてください。途中で手を離さないでくださいね? 鑑定水晶はとても高価な代物ですので、万が一の事もありますから」
何故か言葉が通じる異国風の中年男性に高価な代物と言われて、現実に引き戻された五島雪貴は、そこでようやく異世界召喚あるあるの現場に今、自分が居合わせている事を実感した。
多分、先程の周囲の会話を思い出す限り、自分が意識を失っている間に、高校生達は鑑定を済ませたようだ。
それぞれが勇者、聖騎士、聖女、賢者と結果が出て、喜んでいたからだ。
そこに、巻き込まれた自分が、目を覚ました、と。
つまり、この鑑定結果は、目に見えている。
(僕は、きっと、ここにいる誰もが知らないスキルを持っていて、役立たず、もしくは、邪悪判定をされて追放されるというパターンだろうなぁ)
五島雪貴は、流れから察した。
高校生達は、異世界召喚あるあるを知らない生活を送ってきた高校カースト上位の者達のようだ。
困惑しながら巻き込まれた五島雪貴が、どんな鑑定結果を出すのか注目している。
違う意味で周囲が驚くスキルが出るだろうなと、五島雪貴は少し期待して水晶に手を置いた。
初老の神官姿の男性が、鑑定水晶の前で何やら呪文を唱えると、水晶がそれに反応するように光が溢れ出した。
そして、神官姿の男性が、震える声で言い放った。
「スキルが無い、だと!?」
「……はい?」
五島雪貴は思わず、聞き返す。
「ちょっと、お待ちを……」
神官姿の初老の男性は、慌てて再度呪文を唱える。
そして、また、
「……この者には、スキルがありません……」
と告げる。
「そんな馬鹿な!? この世界において、スキルの無い者など存在しないぞ!? 魔物でもスキルは持っていると言われているのに、スキルが無いというのはこの世界から祝福されていない者という事に……」
他の者が、神官の言葉を否定すると、慌てて鑑定水晶が出した結果を覗き込む。
「本当に……無い……だと!? ──……貴殿はユキタカ・ゴトーという名前で合っているかな?」
男は、神官に代わって、五島雪貴の名前を確認する。
それで、水晶が間違っていないかを確認しようと、思ったのだろう。
「……はい。──本当にスキル……、無しですか?」
五島雪貴も、まさかスキル無しの展開は予想していなかった。
ラノベでの巻き込まれ召喚の定番は、しょぼいスキル、もしくは聞いた事がないスキルが定番だ。
それが、チート級の能力を発揮して、追放した国に「ざまぁ」するのだ。
だが、スキル無しだと話は変わってくる。
チートどころか能力なし、つまり、本当の無能という事になるからだ。
鑑定水晶を何度も見返した男は同情の目を向けると、五島雪貴に静かに口を開く。
「……残念ながら、ユキタカ殿。あなたには本当にスキルが無いようだ……」
その言葉に、五島雪貴(二十五歳)社会人四年目の眼前は血の気が引いて、頭が真っ白になるのだった。
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