第51話 今日は、新入生オリエンテーションだ!新入部員確保のために、頑張るぞぉ!
入学式の翌日は“新入生オリエンテーション”だ。
内容は、教育課程の説明、校則の説明、進路状況の説明など。ここまでは私達放送部はマイクの準備をしただけで、ほぼノータッチ。この後始まった生徒会主催の部活動紹介からが本番だ。今年は、神倉先輩から頼まれて司会進行を私達が任されたんだ。
“本来なら生徒会が司会進行をやるんだけど、放送部の二年生の誰かがやってくれないかしら?残念ながら、今の生徒会役員の中にはしゃべりが堪能な子が居ないのよ・・・。生徒会長が司会進行をするのも変だし・・・。放送部の良い宣伝にもなるからどうかしら?”
先輩からこう言われたら、“嫌です”とは言えないもんねぇ。響子ちゃんや紙織ちゃんとも相談したんだけど、結局私がやることに決まった。“アナウンスはドルフィンちゃんが一番だから”って言われたから。まぁ、私としては司会をやること自体はやぶさかではないんで、良いんだけどね。
『新入生の皆さん、お疲れ様です。ここからは皆さんの先輩方が各部活動の紹介をしていきます。司会は、私、放送部二年の栗須が務めさせて頂きます。
さて、中学校とは違って、高校の部活は種類が多く、皆さんが見たこと聞いたことも無かった部活が結構あるかと思います。もし、興味を持った部活がありましたら、是非実際の活動を見学してみてください。必ず素敵な出会いがあると思います。
高校は勉強をする場ですが、それと同時に部活動ができる場でもあります。私も、昨年の四月に放送部に入り、僅か一年で多くの親友と沢山の思い出、そして大きな達成感を得ることができました。是非皆さんにも私と同じような貴重な経験をしていただきたいと願っております。
それでは、前置きはこれくらいにして、これから代表者による各部活動の説明を始めます。まず最初は野球部です。野球部キャプテン土呂君、お願いします。』
「はいっ!!・・・新入生の皆さん!こんにちは!野球部ですっ!・・・・・・。」
☆
部活動紹介では、他の部活との差別化を図り、新入生に対して少しでも印象を残そうと、様々な工夫を凝らしたアピールやパフォーマンスが披露された。
弓道部は実際に的に向かって矢を射るところを披露し、卓球部は演壇をテーブルに見立ててラリーを続け、その前でキャプテンが紹介文を読み上げていた。書道部は立てたパネルに貼った模造紙に即興で字を書くパフォーマンスを行い、吹奏楽部は演奏しながら自己紹介をしていくスタイルだった。
それらの様子を見ながら、私はちょっと後悔していた。放送部はこう言ったパフォーマンスを事前に考えていなかったからだ。だからと言って、どんなパフォーマンスをすれば良いのか、他の部の紹介を見ながらもこれと言って具体的な案は思いつかないのだけども・・・。
さて、そうこう言っている内に我が部の番が回って来た。
『続きましては、放送部です!放送部の皆さん、よろしくお願いします!』
「はいっ!」
私が司会を務めているので、紹介役は響子ちゃんと鯨山君に任せた。
『新入生の皆さん!放送部ですっ!皆さんは、放送部はどのような活動をしているか、ご存じですか?』
響子ちゃんが新入生に質問するが、当然芳しい返事は無かった。そこで、空かさず鯨山君が答え合わせをする。
『皆さんの多くは、ここにいる栗須さんのような司会進行役を思い浮かべるでしょうね。でも、放送部の活動はそれだけじゃぁ無いんです。
昨日行われた入学式には皆さん出席されましたよね?実は、ああいった式典における機材の設置、マイクのボリューム調節、BGMを入れたり消したりと言った作業は全て放送部の仕事です。
入学式だけじゃぁありません。球技大会や体育大会、文化祭と言った学校で行われる行事事全てで我々放送部が活躍しています。』
『人前でしゃべるのは苦手・・・と言う人でも、機械の操作や運営に興味がある人、そう言ったことが好きな人が活躍できるクラブ、それが私達放送部なのです!』
『もちろん、機械音痴で、機械なんて扱えない、と言う人も、全く機械に触れない活動をすることができます。それが、アナウンスです。』
『実は機械に触れない活動はアナウンスだけではないんですよぉ。司会を担当している栗須さんはアナウンスのプロですが、私、三輪崎は朗読が専門です。朗読とは、人々に小説などを語って聞かせるものです。』
『昨年度からは、アナウンスや朗読以外にも番組制作も始めました。これを見てください。』
鯨山君の合図で、舞台のホリゾントに二月のコンテストに出品したショートムービーが映し出された。えっ?!こんなの聞いてないよぅ・・・ぐぬぬ・・・私に黙って準備してたんだな・・・図られた・・・。
『このように、放送とは幅広い活動を行っているクラブです。今紹介した活動の内、どれか一つにでも興味を持った人!是非、見学に来てくださいね!』
『『以上、放送部でした!!』』
大きな拍手が起こった。それにしても、響子ちゃんはまだしも、鯨山君もしゃべりが上手じゃないか・・・私も負けてはいられないなぁ。
『放送部の皆さんでした。続きまして、人権教育研究部です。人権教育研究部の皆さん、よろしくお願いします。』
☆
放課後、私達は物理室に集まって部活動見学に来る新入生を迎える準備を始めた。
そう、一年前、私は発声練習する放送部の面々に興味を持ち、最後には神倉先輩に声を掛けられて入部を決めたんだ。だから、私と同じように興味を持ってくれる新入生が必ずいるはずだ。
「それじゃぁ、発声練習、いきますか!」
「「おーーー!!!」」
私達は何時もの通り発声練習を始めた。
「よーし!まずは“口の体操”!行くよー!せーのー、はいっ!」
「「「あ・え・い・う・え・お・あ・お。
か・け・き・く・け・こ・か・こ。
さ・せ・し・す・せ・そ・さ・そ。
た・て・ち・つ・て・と・た・と。
な・ね・に・ぬ・ね・の・な・の。
は・へ・ひ・ふ・へ・ほ・は・ほ。
ま・め・み・む・め・も・ま・も。
や・え・い・ゆ・え・よ・や・よ。
ら・れ・り・る・れ・ろ・ら・ろ。
わ・え・い・う・え・を・わ・を。
が・げ・ぎ・ぐ・げ・ご・が・ご。
ざ・ぜ・じ・ず・ぜ・ぞ・ざ・ぞ。
だ・で・ぢ・づ・で・ど・だ・ど。
ば・べ・び・ぶ・べ・ぼ・ば・ぼ。
ぱ・ぺ・ぴ・ぷ・ぺ・ぽ・ぱ・ぽ。
きゃ・きぇ・き・きゅ・きぇ・きょ・きゃ・きょ。
しゃ・しぇ・し・しゅ・しぇ・しょ・しゃ・しょ。
ちゃ・ちぇ・ち・ちゅ・ちぇ・ちょ・ちゃ・ちょ。
にゃ・ね・に・にゅ・ね・にょ・にゃ・にょ。
ぎゃ・げ・ぎ・ぎゅ・げ・ぎょ・ぎゃ・ぎょ。
じゃ・じぇ・じ・じゅ・じぇ・じょ・じゃ・じょ。
ひゃ・へ・ひ・ひゅ・ひぇ・ひょ・ひゃ・ひょ。
みゃ・め・み・みゅ・め・みょ・みゃ・みょ。
りゃ・れ・り・りゅ・れ・りょ・りゃ・りょ。
びゃ・べ・び・びゅ・べ・びょ・びゃ・びょ。
ぴゃ・ぺ・ぴ・ぴゅ・ぺ・ぴょ・ぴゃ・ぴょ。」」」
「「「合う、言う、馬、駅、オオカミ。
赤い色鉛筆で海の絵を大きく書いた。
青い家の上の屋根。
青い海へ行く。」」」
「「「カマキリ、菊、クヌギ、獣、駒。
紅葉の景色。
柿の木のくぼみを転ばないように蹴る。
きれいな菊の花は、この景色に溶け込んでいる。」」」
「「「さくら、島影、硯、世界、ソテツ。
水量の多い清流。
その人の背中の雀を指さす。
清潔な水流でそのさらをそっとすすぐ。」」」
「「「高い、ちくわ、机、手紙、床屋。
地上に高く作られた鉄筋の建物。
友の机の上のちりを畳に手で落とさないように。
近くの床の間の積み木を手で高く積み上げる。」」」
「「「仲間、日本、塗り絵、猫、野原。
仲間のぬくもり。
姉さんは、二枚の封筒の中側にのりを塗る。
庭の向こうの野原のネムノキを抜く。」」」
「「「袴、光、袋、平和、朗らか。
畑の方で、母が一人で笛を吹く。
晴れの昼間は日当たりのいい部屋で本を読む。
冬の寒さがひりひりとほおに指す。」」」
「「「豆、味噌、メモ、ムカデ、森。
見る見るとまめに働く森の村人。
燃える緑の牧場に目を向ける。
真向かいに見えるメダカの模様。」」」
「「「夜景、夜、夕立、良い夕日の山、雪の山の夕暮れ。」」」
「「「落語、リンゴ、瑠璃色、レンゲ、ろうそく。
楽な類語の例文を、隣室で録音練習。
留守の隣人に連絡を取る。
隣国の流浪の民。」」」
「よーし!続いて“あめんぼの歌”!行くよー!せーのー、はいっ!」
「「「あめんぼ、赤いな、あいうえお。浮きもに、小えびも、泳いでる。
かきの木、くりの木、かきくけこ。きつつき、コツコツ、枯れけやき。
ささげに、すをかけ、さしすせそ。その魚、浅瀬で、刺しました。
立ちましょ、らっぱで、たちつてと。トテトテ、タッタと、飛び立った。
なめくじ、のろのろ、なにぬねの。納戸に、ぬめって、なにねばる。
はとぽっぽ、ほろほろ、はひふへほ。日なたの、お部屋にゃ、笛を吹く。
まいまい、ねじ巻き、まみむめも。梅の実、落ちても、見もしまい。
焼きぐり、ゆでぐり、やいゆえよ。山田に、灯のつく、宵の家。
雷鳥は、寒かろ、らりるれろ。れんげが、咲いたら、るりの鳥。
わいわい、わっしょい、わいうえお。植え木や、井戸がえ、お祭りだ。」」」
「はいっ!では、続いて“外郎売”!行くよ!せーのー、はいっ!」
「「「こごめのなま噛、小米のなまがみ、こん小米のこなまかみ」」」
「「「古栗の木のふる切口、雨がっぱがばん合羽か」」」
「「「京のなま鱈、奈良なま学鰹、ちよと四五〆目」」」
「「「武具馬ぐぶぐばく三ぶくばぐ、合せて武具馬具六ぶぐばぐ」」」
「「「菊栗きくくり三きく栗、合てむきごみむむきごみ」」」
「はいっ!最後!“鼻濁音”!いくよ!せーのー、はいっ!」
「「「か[ん]ぐ、ま[ん]ぐろ、おに[ん]ぎり、りん[ん]ご、か[ん]がみ、がっこう、け[ん]がわ、がっき。」」」
「「「私[ん]が大[ん]が生です。」」」
「「「ごき[ん]げんいか[ん]がですか。」」」
「「「か[ん]ごの中から、うさ[ん]ぎと、ね[ん]ぎと、や[ん]ぎ[ん]がでてきた。」」」
「「「午[ん]ご4時から、午[ん]ご5時55分。」」」
一年間、毎日欠かさず繰り返してきたルーチンだ。始めると、新入生を勧誘することなど忘れて、ひたすら練習に没頭してしまっていた。習慣と言うものは恐ろしいな・・・。
「よしっ!休憩!・・・ふう・・・。」
何時ものように一時間ほど練習を続けて、ようやく休憩をとることにした。ここで初めて教室の入口に人が立っていることに気付いた。
「あっ!御免なさい!気が付かなかったよ。声を掛けてくれればよかったのに・・・。」
すると、その新入生は、顔をほんの少し赤らめながら言った。
「い、いえっ!熱心に練習されているので、邪魔をしたら申し訳ないなって思って・・・。」
遠慮なんかしなくていいのに・・・うん?この子、知ってるぞ・・・あっ!?
「新鹿さん?」
「えっ?あ、そうです。私、新鹿陽花里です。・・・えっ?先輩、どうして私の名前が判ったんですか?」
「新鹿さんは入学式で宣誓をしたでしょ?私達は放送室から入学式の様子はずっと見てたから。だから貴女の顔も名前も憶えているんだよ。」
「あっ?!そう言えば、入学式の運営をやってたって、部活動紹介でおっしゃってましたね。」
「そういうこと。ところで、部活動見学に来てくれたのかな?」
「はいっ!見学・・・と言いますか、入部希望です。」
「えっ?入ってくれるの?」
「はいっ!私、今日の部活動紹介で先輩のアナウンスを聞いて、私もこんな風に上手にしゃべれるようになりたいって思ったんです!」
「えっ?・・・へへへ、なんかそう言われるとこそばゆいなぁ。でも、私なんかまだまだなんだよ。」
「いいえ!先輩のアナウンスは、私が今まで聞いてきた中で断トツで上手でした!」
「うーん、そう言ってくれるのは嬉しいんだけど・・・うちの部には私なんかよりも遥かに上手い人がいるからなぁ・・・オリエンテーションで生徒会長が挨拶をしたでしょ?生徒会長の神倉先輩は、放送部員なんだよ。」
「あっ!確かに生徒会長のご挨拶も上手でしたね。」
「うん、あの程度の長さの挨拶だとピンとこないかもしれないけど、先輩は全国大会で三位を取った実力者だよ。」
「えっ!?ぜ、全国三位ですか?す、凄いですね!」
「そう。私達の憧れの的であり、目標でもある人なんだ。」
「わ、私も頑張ったら上手くなりますか?」
「努力は人を裏切らないからね。私の今年の目標は全国大会に出場することだから、一緒に頑張ろう!」
「はいっ!よろしくお願いします!先輩!」
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