第43話 ショートムービー部門について、みんなと意見交換だ!今後の作品作りにきっと役に立つはず!
ショートムービー部門の発表が終わり、審査が終わるまでの間休憩に入った。この時間を利用して、私たちは各校の作品について意見を述べ合うことにした。審査員の講評と自分たちの評価がどれだけ一致しているか、もしくは相反しているかを知ることは、今後の作品作りに大きな影響を与えるだろうと思ったからだ。
「まずは丹鶴高校の“冬来たらば春遠からじ”。私は、1年も前から今日のコンテストの為に桜の映像を撮っておくと言う長期的な観点に立った作品作りに凄みを感じたんだけど、皆はどう思った?」
「えっ?!なんで1年前からって判るの?」
響子ちゃんは、作品作りの背景については思い及ばず、ただただ美しい映像作りの技術に感動したそうだ。
「今は2月でしょ?桜が咲いているはずないじゃない。去年の段階で絵コンテを描いて、今年のコンテストの為に映像を撮っておいたのよ。雪も都合よく降る訳じゃぁないから、これもひょっとしたら去年の映像かもね。」
「そうか・・・今の為じゃなくて、未来の為に準備してたのかぁ・・・凄いなぁ。」
紙織ちゃんは、その凄さを理解したみたいだ。
「高校生活は3年間しかないのにね。下手したら、この作品を企画した人は3年生になっているか、もしかしたらすでに卒業していて、コンテストへの出場を後輩に託したのかも・・・。」
「だとしたら、後輩からよっぽど慕われていた人だよねぇ。だって、後輩の人達は自分たちの作品作りを1回止めてまでこの作品を出してきたんだもん。・・・凄いよねぇ・・・。」
「アングルといい、引きといい、綺麗な映像を撮ろうと言う意志を感じる作品だったよね。カメラ担当の人もなかなかの腕だよ。」
真帆ちゃんは技術面で感心したようだ。
「じゃぁ、2つ目。御船高校の“今日も相変わらず小テスト”。私はネタが大き過ぎて、ショートムービーに使うものでは無いと感じた。これはもっと尺の長い・・・そう、Nコンなんかに出すネタでしょ。」
「あぁ、そうか!なんか消化不良だなぁって感じたんだけど、尺が足らないんだ!」
響子ちゃんが“納得!”って感じで手の平を拳でぱんって叩いた。
「私も尺が足らなさ過ぎるって思った。そんなことは企画段階で判っていたことだと思うんだけどなぁ・・・。」
真帆ちゃんも、なんでこれが企画会議を通ったんだ、と訝し気だった。
「他にネタが無かったのか、それとも他のネタがよっぽど駄目だったのか・・・。事情は分かんないけどねぇ。」
紙織ちゃんは、仕方なくこのネタで作ったのでは?って考えたみたいだった。
「今回のコンテストに無理やり出さずに、温めておけば良かったのに、って思ったよ。」
これは、私の正直な感想だ。捻り出せるネタは無限じゃないからね。一度消費してしまうと次には使えないのだ。
「次、3つ目。高倉高校の“名産品を食べよう!”。私は、今回の優秀賞はこれだと思う。作品の組み立てに無駄が無く、必要な情報はみんな入っていた。見事だ・・・。」
私が呟くと、真帆ちゃんは顔を赤らめて恥ずかしがっていた。
「私も同意見。」
「私も。」
響子ちゃんも紙織ちゃんも異議は無いようだった。
「私達が目指すべきものは、高倉高校の作品ってことでいい?」
「異議なし!」
「と言う訳で、真帆ちゃん、私達は貴方達を目標に頑張るから!」
「えっ!?敵認定ってこと?!」
真帆ちゃんが目を丸くして驚いている。
「違うよ!目指すべき理想ってこと!今の私達にはライバル視することすら烏滸がましいよ!まずは、高倉高校のレベルを目指すんだ!」
響子ちゃんも紙織ちゃんも、うんうんと頷いている。真帆ちゃんはさらに顔を赤くしている。
「さて、4つ目。越路高校の“災害に備えよう!”。これもネタが大き過ぎて、ショートムービーに使うには勿体ないって思ったんだけど・・・。」
「私もそう思った。」
「Nコンみたいな大会向けのネタだよね。」
「こうしてみると、コンテストの条件に合った企画を立てることはとっても重要だよね。」
「だよねぇ。」
「あと、この作品の問題点は、“校内放送の内容として適合しているか”だと思う。」
「えっ?どういうこと?」
「Nコンの部門規定には、“高校生活や地域社会とのかかわりの中に広く素材を求め、テレビの特性を活かして制作された、高校生としての視点を大切にした、独創的な作品であること”って明記されているよ。」
「あっ、そうか!高校生としての視点が大事なんだ!」
「そう。だから、一般論や国や自治体レベルの防災について制作しても駄目なんだよ。私達高校生がどういう風に考え、どのように心構えをするべきか、を伝えなきゃ。」
「そういうことかぁー。」
「じゃぁ、5つ目。猪垣高校の“彼の運命は?”。これには私はびっくりしたんだぁ。あぁ、そうか、確かにドラマは駄目って要項のどこにも書いてなかったわぁ、って。」
「ドルフィンちゃんは、ドラマは頭に無かったってこと?」
「うん。なんでか判んないんだけど、作品はドキュメンタリーだろうって思いこんでたんだぁ・・・だから衝撃だった。しかも、きちんと1分間の中に起承転結があって・・・この台本を書いた人は、かなりの腕前だよね。」
「確かに見ていて退屈しなかった。テンポもよかったし。」
「こういうのもありなんだなぁ、って。勉強になるね。」
「真帆ちゃんとこは、こんな風なドラマは作らないの?」
「うん。うちは元々ドキュメンタリーが得意で、ドラマは専門外なの。やってみたいって気もあまり無いし・・・演劇をやりたくて作品作りをやってるわけじゃぁないからね・・・。」
「そうかぁ・・・逆に言うと、演劇もやりたいって人にはドラマも選択肢になるんだね。」
「同じ映像作品でも、ドラマはドキュメンタリーとは全く違うと思うの。例え、台本、カメラ、編集が上手くても、演じている人が大根だったらどう?それだけで作品は駄目になるのよ。だからドラマを作りたければ、放送部だけでは無理だと思う。演劇部に協力を求めるとか、上手い演じ手に参加してもらわないと。」
「そうか・・・そうだよね。・・・じゃぁ、次。虎松山工業高校の“高校体験記”。」
「これは、私は場違いだと思う。」
「私も。」
おおっと、響子ちゃんと紙織ちゃんが全否定だぞ。まぁ、私もこれをコンテストに出すのはどうかとは思ったけど・・・。
「中学生向けの学校紹介ビデオとしてはいいんだけどねぇ・・・コンテスト向けじゃぁ無いよね。」
「そういうこと。」
「そうそう。」
「でも、映像作品を作る練習だと考えれば、ありなのかなぁ・・・。」
真帆ちゃんがぼそっと呟いた。
「練習?」
「そう・・・練習。虎松山工業って、これまでコンテストには出てきて無かった学校だよ。今年入った部員がやりたいって言ったんじゃないかなぁ。でも、ノウハウが無いから、撮影や編集を体験するために、まずは作ってみましたってことじゃないのかなぁ?」
なるほど・・・私達と同じかぁ・・・そう考えれば、あながち否定はできない。むしろ、自分たちの力だけでここまで作ったことは称賛に値するかも。
「そう考えると、私達より凄いかもね。私達は高倉高校のお陰で今回は作品を完成させることが出来た訳だから。」
「そうかぁ・・・確かにそう考えると凄いかも・・・今後に期待だね。」
「さて、最後は私たちの作品だけど・・・やっぱり、まだまだだねぇ・・・。」
「うん、そう思う。松永寺のお坊さんのインタビューとか、電鉄会社の人のインタビューとかを入れたら、もう少しマシになっていたかも。」
「他の高校の作品と見比べてみて良く判った。作品の奥行きが足らないんだよね。」
「次の作品を作るときの反省点だなぁ・・・。」
二人とも私と同じ反省点に至ったようだ。でも、今回コンテストに参加して本当に良かった。できた作品は稚拙なものかもしれないが、実際に作品を作ってみることで色々なことが判った。知ることができた。頭で考えているだけでは駄目だ。何事もやってみないと先には進めない。そう実感できた。良い勉強ができた・・・。
『コンテストの参加者に連絡します。間もなく閉会行事を始めます。参加者の皆さんは大ホールに集まってください。繰り返します。間もなく閉会行事を始めます。参加者の皆さんは大ホールに集まってください。』
おっと、閉会行事が始まるようだ。
「それじゃぁ、みんな。大ホールに移動しましょうか。」
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