第39話 フィルムが出来ただけでは、まだ作品は完成していません!まだまだ、作業はあるんです!

「さぁて、フィルムは出来たけど、これで完成・・・って訳じゃないからね。このあと、仕上げでタイトルを追加したり、BGMやSEの追加、ナレーションの追加の作業が残っているから。」


「えっ!?・・・あっ!そうか!フィルムができただけじゃぁ、番組が完成したことにはならないんだ!」


「そう言うこと。それじゃぁ、まずはタイトルを追加しましょうか。テレビのバラエティー番組なんかだと、全ての台詞を文字起こししてるから、それがスタンダードだと思われがちだけど、別にそうしなきゃいけないって決まりは無いからね。きちんとしたナレーションを充てていれば、無くても困らないんじゃないかなぁ・・・。でもね、ルールとして必ず入れなきゃいけないタイトルが二つあるんだ。一つは番組の題名、もう一つは制作した学校名の入ったクレジットだよ。特に学校名は番組の最後に入れることが決まっているんだ。」


「そうなんだ。取り敢えずは、必ず入れなきゃいけないタイトルを入れてみようか。どうやればいいの?」


「じゃぁ手順を説明するね。まずは、タイムラインで、ジョグスライダーを必要な位置までドラッグして。」


「番組の題名だから、しょっぱながいいかなぁ・・・。テストパターンが終わって、最初の画面が出てから数秒後かな・・・。」


「いいんじゃない。位置が決まったら、“タイトル”ボタンをクリックして。」


「タイトルボタンをクリック・・・と。」


「そしたら、プレビューウィンドウが出てくるから、ここに文字を入力するの。」


「えーと、“弾正山・・・千本桜・・・並木道”・・・と。はいっ!書けました。」


「続いて、タイトルトラックの任意の場所にタイトルをドラッグして、クリップの終点ハンドルをドラッグしてタイトルの長さを調整するの。実際に再生してみて、長過ぎず短すぎず、適切な時間を探ってね。」


「えーと、初期設定のままだと、ちょっと時間が短いかも・・・。タイトルを読み切れないような気がする。」


「なら、あと数秒伸ばしましょう。・・・もう一度再生してみて。」


「・・・うん、今度はいい感じ。」


「後からタイトルテキストを編集する場合は、タイムライン内のタイトルクリップをダブルクリックしたらいいからね。それと、オプションパネルの“テキスト設定”ページを使うと、テキストの整列や、フォントの種類、文字のサイズ、文字の色の変更なんかが調整できるからやってみて。」


「えーと、フォントは見やすい太いものにして・・・文字のサイズは画面にあわせて・・・と、文字の色は白でいいかな・・・文字の枠線は黒で・・・と。・・・うん、こんな感じかな!」


「いいんじゃない。最優先すべきは、“視聴者が見やすいこと”だから。これがドラマだったら、内容に合わせてフォントを決めるのも演出の一つだけどね。例えば、ホラーだったら、古印体みたいにおどろおどろしい雰囲気のものを使うとか有りだけど。」


 ああ、なるほど。ドラマだとフォントも演出の一つなんだ。


「それじゃぁ続けて、学校名のクレジットを入れようか。こちらは番組のラストに入れることが決まっているし、フォントとかも凝る必要は無いから。ただ、作り手によって、画面の中央に入れる人もいるし、画面の下の方や左下に入れる人など、様々なパターンが見られるよ。まぁ、これは完全に好みの問題だから、これこそが正解!ってことは無いんだけどね。」


「完全に好みで決めていいの?・・・えーと、紙織ちゃん、響子ちゃん、どの位置に入れるのがいい?」


「うーん、私は特にこだわりは無いなぁ・・・。」


「私も。」


「えー、それじゃぁ決められないよぅ。・・・困ったなぁ・・・うーーーん、じゃあ今回は中央に入れるってことでいい?」


「ドルフィンちゃんがそれでいいなら良いよ。」


「私も。」


「決めないと先に進まないからね・・・。では、今回は中央に入れる・・・っと。はい!できました。真帆ちゃん、できたよぉ。」


「他にもタイトルを入れる?さっきも言ったように、ナレーションを全部タイトルにおこすのはあまりお勧めしないけど、ナレーションの内容を補完するために入れるのは、よく使われる技法だよ。」


 真帆ちゃんはそう風に言うけれど・・・どうしようかなぁ・・・。


「うーん・・・今回は、やめとくよ。作っていくうちにタイトルを入れた方が良いのか、悪いのか、段々判ってくると思うから。今回は初めて作った作品だから、シンプルなものにしとくよ。」


「うん、それが良いかもね。じゃぁ、これでタイトル入れは終了だね。次は、BGMやSEを入れよう。作ったフィルムの内容に合うと思う曲を入れる訳だけど、ドルフィンちゃん、東和の放送部は著作権フリーのBGM集は持ってるの?」


 えっ???著作権フリー???何、何?何のこと?真帆ちゃん、いきなり何を言ってるんだろう?


「え・・・何?えっ?・・・著作権フリー・・・ってどういうこと?」


「あ、やっぱり知らないかぁ・・・。えっとね・・・えーと、どう説明したらいいんだろ・・・先生ぇー、どう説明したらいいんですかぁ?」


「上手く説明できんのか?渋川。」


「えーーーーと、自分では判っているんですけど、他人に説明するとなると・・・どう説明したらいいんでしょうか?」


 真帆ちゃんが桑畑先生に助けを求めると、先生はやれやれと言った風に頬を搔きながら、彼女とバトンタッチした。


「まぁ、自分が理解できていることを他人に説明できるとは限らんからな。・・・仕方ない。私から説明しようか。東和の諸君、君たちは“著作権”と言う言葉は知っているかい?」


 私達は互いに顔を見合わせた。紙織ちゃんも響子ちゃんも私に対して、眼で“お前が答えろ”と言っている。いつまでも返事をしない訳にもいかないので、仕方なく私が答えることにした。


「はい。作品を作った人が持つ権利ですよね?」


「正解だ。“著作権”とは、絵画、音楽、詩、小説、漫画、アニメなど、著作物を創作した人に与えられる権利のことだ。では、“著作隣接権”は知っているかい?」


 えっ!?何それ?初めて聞く言葉だぞ!?


「す、すみません、判りません。」


「まぁ、そうだろうね。普通の人は、あまり意識したことが無い権利だろうからね。“著作隣接権”とは、著作物を人々に伝える上で重要な役割を担っている人達・・・例えば、その楽曲を歌っている人や演奏している人達が持つ権利だ。他にもCDやDVDを発売しているレコード会社や放送事業者などにもこの権利は与えられている。」


 あっ?!なるほど!作詞家や作曲家とは別に、実演家やCDを売っている会社も権利を持っていると言う訳か!


「著作権法第30条の“私的使用のための複製”、つまり個人で楽しむための利用であれば、権利者の許諾を得ずに利用することができる。例えば、自分が購入したCDをSDカードにダビングして自動車の運転中に聞く、なんて場合はOKだ。しかし、放送コンテストや結婚式、公開イベントなんかでは、特定多数の人々が聞いたり視たりするので、“私的使用のための複製”には該当しないから、そういう場で市販されているCDやネット上の音源を使用する場合は、著作権と著作隣接権の両方に対して許諾を得る必要があるんだ。実際にNコンの番組部門では、著作権者と著作隣接権者に許諾を得た証明書類の提出が義務付けられているんだよ。」


「えーと・・・それってすぐに許可が下りるものなんですか?」


「すぐに、とは言えないね。JASRACジャスラックはシステムが出来上がっているから著作権の処理は比較的早いけど、それでも2週間は掛かるものと思っておかないといけないな。それに対して著作隣接権の方は、会社によって早い遅いがあるし、場合によっては個人との交渉になるから、一体どれくらい時間が掛かるか予測ができないな。」


「じゃぁ、コンテスト直前に著作権処理するのは無理なんですね?」


「ああ、そうだ。だから手続きをするなら、一月前には始めないとな。それと、判っているかい?音楽に関する著作権の多くは、JASRACジャスラックが仲介しているから、手続きをすれば、必ず著作権料を支払うことになるぞ。」


「あっ!そうか!お金を払わなくっちゃぁいけないんだ!」


「そりゃそうだ。向こうも商売だからね。当然著作隣接権に対しても代金が発生するんだぞ。因みに、JASRACジャスラックは相場が決まっているけど、著作隣接権の方は決まっていない。ピンキリだから、申請してみないと幾ら払わなくっちゃぁいけないのかが判らないんだ。」


「ううっ・・・作品作りにはお金が掛かるんですね。」


「ふふ、そうとばかりは言えないのだよ。渋川、ここから先は説明できるだろう?」


「はいっ!先生!・・・じゃぁ、ここからは私が説明するね!」


 うわっ、真帆ちゃん嬉しそう。いつものように目をくりくりさせてるよ・・・。できれば全部自分で説明したかったんだろうなぁ・・・。

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