第21話 県総文祭の日がやって来た!さぁ、今度は課題原稿も上手く読み上げてみせるぞ!

 今日は、いよいよ県総文祭の当日だ。場所は、Nコンの時と同じ会館。コンテストの度に同じ会館を使っているのかなぁ・・・。なんでだろ?


  さて、うちの部員も続々と集合してきた。が、いつもよりも人数が少なく、ちょっと寂しい。そう、3年生がいないのだ。3年生がいない理由は、Nコンが3年生にとって実質最後のコンテストで、その後は受験勉強のために引退しているから。でも、総合型選抜や指定校推薦、公募推薦などでの受験は、この時期すでに終わっている。だから、部活動の最後の思い出に出場しようと思えばできないことはない。“3年生は出場できない”という規定はないからね。なのに出場しないのは、もう一つ理由があるからだ。県総文祭は、それだけで完結しているコンテストではなく、来年度の全国高等学校総合文化祭の予選を兼ねている。でも、3年生は来年の夏はもう卒業していて高校にはいない。だから、後輩の邪魔をしないために出場しないんだ。もし、優秀賞を3年生がとってしまい、優良賞の1、2年生が全総文に出場することになったら、本当のトップの者ではなく、次点の者が県代表として全国に行くことになってしまう。全国大会に出場する者としては、やはり県のトップになって、胸を張って出場したいじゃない?だから3年生は県総文祭には出場しないのだ。また、今回の県総文には神倉先輩も出ないらしい。先輩に出ない理由を聞くと、“もう全総文には行けたから。Nコンなら譲る気はないけど、全総文は他の生徒さんにも経験してもらいたいから、自分は遠慮するわ。”とのことだった。そりゃぁ、Nコンで全国3位を取れる先輩が出たら、ひと枠はほぼ先輩で決まりになってしまうもんなぁ。先輩の発表を聴けないのは残念だけど、その分チャンスが多くなるのは正直有難いな。


「おはよう!ドルフィンちゃん!」


「あっ、おはよう、響子ちゃん。」


「おはよう!お二人さん!」


「おはよう、紙織ちゃん。」


「おはよう。」


「さてさて、いよいよですなぁ。今回は3年生もいないことですし、是非とも優秀賞を戴きたいものですな。」


「ほほう、響子ちゃんやる気満々だねぇ。」


「だって、全総文って楽しそうじゃん!神倉先輩が、“鹿児島観光は楽しかった”って言ってたし。私も来年全総文に行って、観光を楽しみたいぞ!」


「放送部門は多治見市だっけ?多治見市って何があるの?」


「多治見市って言えば、美濃焼でしょう。陶芸関係の美術館や体験教室がわんさかありますわよ。」


「えっ?陶芸?・・・うーん・・・イマイチ興味がないなぁ・・・。」


「まぁまぁ。食わず嫌いは良くないよ!案外面白いかも。」


「えー、焼き物は喰えないでしょう・・・。うーん・・・。」


「まぁ、そういうことは、出場が決まってから悩みましょうよ。まだ、行けるかどうかも決まっていないんだから。」


「あはは、そりゃそうだ。」


 ふふ。Nコンの時とは違って二人ともリラックスしているなぁ。まぁ、Nコンみたいにガチ勝負って感じじゃないし、今日は楽しんでアナウンスできればいいかな・・・。


 ☆


 さぁ!いよいよ県総文の始まりだ!大ホールに参加者全員が集まって開会式が始まった。例によって、お偉いさんの有難いお話が始まったぞ。Nコンの時は全く内容を覚えていなかったけど、今回はちゃんと聞けた。それだけ余裕ができてきたのかなぁ・・・。


『以上で開会行事を終わります。これからコンテストを開始します。本日のコンテストは、ここ大ホールにて、まずアナウンス部門、続いて朗読部門を行います。オーディオメッセージ部門、ビデオメッセージ部門の発表はアナウンス部門、朗読部門と同時進行で大会議室にて行います。その後昼食休憩を挟んで、ここ大ホールで生徒実行委員会による交流会を予定しています。閉会行事はその後行い、すべての行事が終了するのは十六時を予定しています。』


 んんっ、Nコンとは違って、県総文ではアナウンスと朗読を順々に発表していくのか。まぁ、参加者数がNコンの半分ほどだからなぁ。でも、自分が出ない部門の発表も聴けるなんて思ってもみなかった。うん!楽しみ!


「Nコンとは違って、響子ちゃんと紙織ちゃんの発表も聴けるんだね。楽しみだよぉ。」


「ええっ・・・ドルフィンちゃんに聴かれてしまうのかぁ・・・緊張するなぁ・・・。」


 うん?意外な反応だな・・・。


「私に聴かれてもどうと言うことはないでしょ?なんでそんなに緊張してるの?」


「だって・・・ドルフィンちゃん、上手なんだもん。上手い人に聴かれるのって緊張するよぅ。」


「何言ってるの。私なんかより、ずっと上手い人達が聴いてるんだから、私が聴いているから緊張するって、変じゃない?」


「いやいや。いくら上手いからと言っても、所詮は知らない人だよ。知ってる人に聴かれるのとは違うよ。」


「そんなもんかなぁ・・・私は気にしないよ。むしろ二人に聴いてもらえるのは嬉しいよ!Nコンの時は聴いてもらえなかったからねっ。」


「ドルフィンちゃんは前向きだねぇ。だから、私たちの中で一番上手くなったのかなぁ・・・。」


 なんか紙織ちゃんは妙な納得の仕方をしているし・・・そうなのかなぁ?


「ともかく、全国目指して頑張ろうじゃないか!えいえいおー!」


 なんか意気消沈してしまった二人を励ましたくって、思わず拳を突き上げてみた。


「そうだね。」


「うんっ、頑張ろう!」


 うんっ、なんとか二人とも元気を取り戻してくれたようだ。よかったぁ。


「ねえねえ、ところでドルフィンちゃん、その紙はなぁに?」


 響子ちゃんが、私がバインダーにはさんで持っている紙に気づいて聞いてきた。


「ああ、これはねぇ、お手製の審査用紙だよ。今回は、あらかじめ作って持ってきたんだ。」


「えっ?何それ?なんでそんなものを持って来たの?」


「これで、皆さんのしゃべり方を記録するんだよ。優秀賞、優良賞を取った人が自分の採点と合致すれば、私が良いと思えた所、悪いと考えた所が、本当にそうだったのかがはっきりするじゃない。とにかく、自分一人で練習しているのと比べて、皆さんの発表を聴くのはものすごく勉強になるんだ。良いところ、悪いところ、どちらも参考になるんだよ。コンテストに出場することの本当の価値は、勉強の場であることにあるんじゃないのかって、Nコンに出てからそう考えるようになったんだよね・・・。」


『アナウンス部門にエントリーしている人は、前の席に移動してください。椅子の後ろにエントリーナンバーを貼っています。各自、番号の席に座ってください。』


「あっ、じゃぁ、私は移動するねっ。」


 司会者から指示が出たので、あわてて説明を切り上げた。


「うんっ、頑張ってね。」


「発表中は声は出せないけど、心の中でエールを送っているからねっ。」


「ありがとう!じゃ、行ってくる。」


 ☆


『それでは、アナウンス部門を開始します。ちなみにNコンとは段取りが少し違いますので注意してください。御覧の通り、舞台上には左右に一つずつ、立ちマイクと卓上マイクを用意しています。まず、エントリーナンバー1番、2番の人が舞台上に上がり、1番の人か下手側のマイク前に、2番の人が上手側のマイク前にスタンバってください。1番の人が発表を終え、降壇したら、3番の人が登壇し、下手側のマイクの前に待機してください。2番の人は、3番の人の登壇を待って発表を始めてください。2番の人が発表を終え、降壇したら4番の人が代わって上手側のマイク前に移動してください。本日のコンテストは、このように上手、下手を交互に使っていきます。それでは、スムーズに発表が進みますよう、皆さんのご協力をお願いします。』


 さぁ、コンテストが始まった!違う学校の生徒さんのアナウンスを聴くのが今から楽しみだ。わくわくしながら皆の発表を聴いているうちに自分の番が廻って来た。・・・流石に舞台に上がると緊張してきたぞ。落ち着け・・・落ち着け・・・。おっ、前の人の発表が終わったぞ。じゃぁ、マイクの前に移動しましょうかねぇ。声を出しやすいから、今回は立ちマイクを使おう。えーと、まずは自分の口の高さにマイク位置を調節して・・・と。よしっ!


『26番、栗須入鹿、


 “東和市市民文化祭のボランティア体験”。先日、私たちの高校が立地する自治体、東和市でも市民文化祭が催されました。「地域に開かれた学校」から「地域とともにある学校」へ、と言うスローガンの元、私たち東和生もボランティアとして受付業務、作品展示など、様々な面において、積極的に市民文化祭に協力しました。ちなみに、私はワークショップの一つ、アロマワックスサシェ制作講座をボランティアとしてお手伝いしました。アロマワックスサシェとは、キャンドルの素材である蝋とアロマオイル、ドライフラワーで作る雑貨のことです。火を付けなくても、置いておくだけで自然に香るキャンドルなので、好きな香りで作れば、自分の部屋が癒され空間に早変わりします。このサシェの制作では、蝋を溶かすために火を使います。参加者の中には小さな子供も多く、火傷などの事故が起きないよう、私たち高校生がつきっきりで指導にあたりました。子供たちからは“可愛いサシェを自分で作れてとても嬉しい”“思ったより上手にできた”など、大変喜んでもらえました。お昼ごはんを食べる暇がないほど盛況だったため、終わったあとはへとへとになりましたが、子供たちの感想を聞いて、やって良かったと思いました。』


 うん、まずまずの出来だ。よーし、次は課題原稿だ。


『有名な科学者ホルシュタインがおよそ百年前に来日した際に演奏したピアノの修理が行われることになりました。ピアノを所有するホテルによると、当時の音色を保つため、修理はこれまで最小限にとどめていたが、老朽化が酷くなり、部品の大幅な交換を決断したとのことです。ピアノは1900年ごろアメリカで製造されたもので、特に弦をたたいて音を響かせる「ハンマー」と呼ばれる部品の損傷が著しかったそうです。』


 うん!Nコンの時とは違って、上手く読めた!やったぁ!さてと、次の人と交代しましょうか。

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