第8話 領地経営 修正版

 23年に発表した「政宗が秀吉を殺していたら」の修正版です。実はPCの操作ミスで編集作業ができなくなり、新しいページで再開したものです。表現や文言を一部修正しております。もう一度読み直していただければと思います。


空想時代小説


 小田原城攻めが終わり、評定の前に小十郎(36才)と成実(25才)を呼んだ。

「今日呼んだのは他でもない。今後の我らの行方のことじゃ。そなたたちの考えを知りたい。まずは成実どうじゃ?」

「わしの考えなど、通ったためしがない。聞くだけ無駄だろ」

「そう言わずに話してみろ。もしかしたらわしと同じかもしれんぞ」

「では申す。わしは少し疲れた。領地にもどり、領民とともに田畑を耕したくなった。嫁ももらうつもりじゃ。だれぞは、わしをいくさばかと呼んでいるらしいからの」

「これはすごい。小十郎、成実はおなごに目覚めたぞ。喜ばしいことだ」

「そうでございますな。お相手は、もう決まっているのですか?」

「石川殿(43才)の娘御じゃ」

 成実は、はにかみながら答えた。

「それは良縁じゃ。石川殿の娘御といえば、まだ15ではないか? 全くすみにおけん奴じゃ」

 政宗は笑いながら、赤くなっている成実の縁談を喜んだ。

「ところで小十郎の考えはどうじゃ?」

 成実は話を変えようとした。小十郎はシラッとして笑い続ける政宗に話を始めた。

「拙者も成実殿の考えに賛成でござる」

 その声に成実は驚いた。今まで考えが一致したことがなかったからである。あっけにとられている成実を横目に小十郎は話をすすめた。

「この先、我らの領土と接するのは徳川家と前田家でござる。どちらも大藩で、当方とは友好関係にあります。万が一、戦となっても双方とも相当の犠牲が出まする。ここで負けると、佐竹氏が動きだすやもしれませぬ。幸いにも佐竹氏は下総・安房に手をだし、領地経営に苦労すると思われます。かの地は里見氏の領地だったゆえ、一揆が絶えませぬ。ましてや、風雨による天災の地でもあります。我らがスキを見せねば、おびやかす心配はないと思います。こわいのは最上殿です。お館さまの伯父とはいえ、油断ならぬ方です。ここは最上殿に羽後の地も支配していただき、領地経営にあたっていただくことが肝要と思います。でなければ米沢の地をねらってくると思います」

「わしもそう思う」

 成実は、小十郎が同意見だったのに気をよくし、花高々に話した。

「それでは、徳川家、前田家とどうするのじゃ?」

 政宗が核心をついた。

「お二人とは、友好同盟を結びます。戦をいっしょにする同盟ではなく、戦をしない同盟いわゆる不可侵同盟です。この同盟を結べば、徳川殿は西進することができます。我らは領地経営に専念できます」

「言葉や書面だけの約束では反故にされるぞ」

「たしかに、成実殿の言われるとおりですぞ。そこで婚姻か捕虜の交換をいたします」

「そんな適任の者がいたか?」

 成実はいぶかしがった。

「徳川家には、兵五郎殿(2才)をさしだし、徳川家からは秀康殿(19才)をいただきます。捕虜というよりも、双方とも10万石ほどの大名にするということにすれば、捕虜の意味は少なくなり、領地を各々の中央にもっていけば、がんじがらめにできます」

「兵五郎殿は後継ぎぞ、徳川家にさしだすわけにはいかん」

 成実が声を荒げて言った。

「おそれいりますが、兵五郎殿は側室猫御前さまのお子です。正室の愛姫(めごひめ)さまに男子が誕生すれば、そちらが後継ぎになります。万が一、愛姫さまに男子ができない場合は、秀康殿をお返しすれば兵五郎殿を取りもどすことができます」

「それはそうだが・・」

 成実は政宗のことを思うと、なかなか納得できない。

「秀康殿も庶子です。当方もそれに合う者を出さなければ、徳川家は納得しないでしょう」

「たしかにそうだが・・・前田家はどうする? わしには兵五郎以外、子はおらんぞ」

「政景殿の姫がおります。お館さまの養女にして、前田殿の弟利政殿(15才)に嫁がせます。前田家からは豪姫(18才)を小次郎さま(24才)に嫁がせます」

「小次郎はだめじゃ。今度、仏門に入る」

「還俗させればいいではないか?」

 成実が政宗にぶっきらぼうに言った。政宗に対等に話ができるのは縁戚であり、幼き時から虎哉(こさい)和尚のもとで、いっしょに学んできた成実だけである。他の家臣がいる時はそうでもないが、3人だけの時はぶっきらぼうになる時があった。政宗もそのことは仕方ないと思っている。心許せる友なのである。

「だめだ。母義姫が小次郎を溺愛し、何かと干渉したがる。武士のままでは、だれかに利用されるのがおちだ。そう言えば、政景殿のところに幼子がいたな。そこに嫁がせてはどうだ?」

「18の豪姫をですか?」

 成実があきれて聞いた。

「それはできぬゆえ、前田家に任せればいいではないか。縁戚の者を養女にすればすむことだ」

 政宗は、なかばやけ気味に答え、加えて

「このことはまた話そう。ところで、小十郎お主に頼みがある」

「はっ、何でしょうか?」

「お主に、小田原を治めてほしい」

「小田原をですか?」

 小十郎のみならず、成実も驚きを隠せなかった。北条色の濃い小田原の地を治めることはたやすいことではない。だれもが、名の知れた大名格の武将がつくと思っていた。小十郎は名の知れた政宗の軍師だが、領地は3000石程度。大名格にはほど遠い。それが100倍の領地を得るのだ。これだけ領地が増えれば、周りからのあつれきもあるはず。

「わが家中がここまで来れたのは小十郎の力が大きい。それはだれもが知ることじゃ。ましてや小田原は徳川と国ざかいを接している。統治するだけでなく、徳川との交渉ができる者でなければならぬ。わが家中には小十郎しかおらぬではないか。どうだ成実?」

「確かにそうだが・・・小十郎はどうなのだ?」

「拙者はお館さまの命とあれば、それを全うするのみ」

 小十郎は緊張しながらも覚悟を決めた。

「よし、決まった。それでわしも会津を出る」

「会津を出て、どこへ行かれる?」

 成実がいぶかしがって聞いた。政宗は地図を広げ

「ここじゃ」

 と武蔵の国の東側をさした。

「江戸でござるか。ここには小さき城がありますが、周りは湿地帯でござるぞ」

 と小十郎は疑問をもった。

「湿地帯は埋めれば平野となる。会津のような周りが山の土地では、広がりはない。江戸は大きくなるぞ。海もある。わしは大きな船を造り、異国へ行ってみたい。どうだ?」

「お館さまがそうおっしゃるならば、拙者はついていくまで」

 小十郎はいつも同じ姿勢だ。

「わしは、びっくりさせられることばかりじゃ」

「成実には、陸前の50万石を任せる。千代(仙台)に城を建てよ。あそこには広瀬川の上に丘があり見晴らしがいいぞ。関東にくるまでは、そこに城を建てようと思っていた」

「50万石! 今の10倍でござるか! 政宗殿の器量には恐れ入る」


 数日後、会津で戦勝祝いと諸将への恩賞が発表された。各々の武将が加増され、皆上機嫌となっている。その中でも、皆が声をあげて驚いたのは次の面々である。

「留守政景殿(44才)、米沢・信夫50万石」

 家格最上位の政景は当然という顔であった。

「成実殿(25才)、陸前50万石」

 家格第2位の成実が最上位の政景と並んだのだ。

「石川昭光殿(43才)会津30万石」

 今回の戦では留守部隊だった。他の諸将は、政宗が他へ移ることをここで知った。

「黒川晴氏殿(70才)中越30万石」

 猛将晴氏は涙を浮かべている。

「片倉小十郎殿(36才)、小田原30万石」

 それまでにない反応の声があがった。政宗側近として妥当という反応だった。それ以上に小田原を任せられるのは小十郎しかいないという雰囲気が会場にあふれていた。そういう雰囲気を作ったのは成実の根回しのたまものであった。

「真田信繁殿(26才)、松代10万石。ただし、その内1万石は前田利益分とする。前田利益殿(52才)は客将として真田信繁付きとする」

 信繁は信州に領地を得たのである。これで信州全体が真田家のものとなった。利益も大名格として、政宗勢に入ったわけである。(家来はいないが・・)

 そして後半に言われたのが、

「結城秀康殿(19才)、白河10万石」

 この場にいない武将の名がでたので、皆がびっくりした。加えて

「兵五郎殿(2才)、岐阜10万石」

 ここで、皆は捕虜交換があったことを知った。

 最後に政宗から話があった。

「わしは武蔵の国、江戸に移る。これからは戦の時代ではない。領地を固めよ」

 一同から歓声があがった。

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