採集系男子

海野陸人

第1章 立志編

第1話 ニート

 ※本作品はあくまでもフィクションです。考古学的な考証を厳密に行って執筆しているわけではないことにご留意ください。


 時は紀元前800年頃、縄文時代晩期。

 この頃の人々は、竪穴式住居に住み、縄文土器で煮炊きをし、男は狩りを、女は採集と育児をして生活していたと教科書では習う。


 しかし、この時代にも後の草食系男子ならぬ、採集で生きていく男「採集系男子」がいた─



 ワーシヌゥンアートオマリム(実際は、こんな風にしゃべっているが、以下現代語訳、この時代にない概念も現代の言葉に置き換える)俺の名はユウ、16歳。といっても正確な歳はわからない。なんとなくそれくらいの歳だ。


 今日は、近くの山へ山菜や木の実を採りに来ている。

 最近、家にいると、親父がうるさい。「そのぐらいの歳だったら子どもがいないとおかしい。」とか「男なら狩りにいって獲物をとらえないといけない。」などと説教してくる。母ちゃんはそれを笑顔で受け流しているが、腹の中では俺にみんなと同じ生き方をして欲しいと思っているようだ。


 だけど、そんな「当たり前」な生き方をしたくない。周りの女子の中には、とにかく早く結婚したいからってあわないヤツと結婚して、子どもを産んでから捨てられるやつもいるし、狩りなんか最近は全然獲物を獲れないばかりか、山から落ちて死んだりする事故も相次いでいるし、だから、結婚も好きな人をじっくり探してからでいいし、狩りなんてしなくても、採集と魚釣りだけで食っていけると思う。


 だから、俺は自分の生き方を証明するために、採集と魚釣りだけで生きていくことにした。まぁ山に行けば親父の説教も聞かなくていいし、他の男子達にもいじめられなくていいしね。


 最近見つけたなだらかな斜面を歩いていると、突如目の前が開けた。

 ちょっとした平らな土地があるようだ。地面からはふきがいっぱい生えていた。ちょうどいい、昨日海の方から採ってきたあさりと一緒に海水で煮込めばうまいお煮つけつけが作れそうだ。


 頭の中でレシピを組み立てると、俺は黒曜石で作ったナイフ型石器で高さ三尺(90cm)あるふきを3つ根元から切り取った。


 上を見るとこの先はどうやら険しい道が続いている。今日は家を出るのが遅かったからここらへんで帰るとしよう。


 俺は、ふきをかさのように持つと、斜面を降りた。


 「♬~」思わず口笛も吹いてしまった。


 ガサガサ


 突然後ろで物音がした。ヤバイ、熊かいのししか、襲われたら死ぬかもしれない。

 あわてて振り返ると、そこにいたのは、同じ集落の男子のカイ、レイ、オトの3人だった。カイは手にウサギを1匹持っていた。どうやら狩りの帰りらしかった。


 「あ、ユウじゃねぇか。お前また草とかとってんのかよ、ほんと女みてぇだな。」とカイが言った。


 あ~もう、関わりたくねぇ。カイ達はいつも俺のことを馬鹿にしてくる。


 俺はとっさに走って斜面を駆け降りた。


 「おい、逃げんのか。」

 

 後ろでカイの声が響く。

 お前らだって3人かかってウサギ一匹じゃないか。


 村の古老の話によると、昔は大きなシカやイノシシがいたらしい。だけど今はそんなもの滅多につかまらなくて、せいぜいうさぎしかとれない。そうだ、きっと人間たちが獲物を獲りすぎたせいだし、みんなそれをうすうすわかってるんだ。なのに未だに男の仕事は狩りだといって採集をするのは恥ずかしいこととされている。その分無駄な時間を過ごしている。


 ムラに戻り、家に入ると、ちょうど親父も母ちゃんも外出中だった。ちょうどいい、早く調理の準備をしなきゃ。


 俺は家の隅に置いてあった土器を引っ張り出した。一応家の中でも煮炊きができるが煙くてかなわないので、広場の真ん中でやることにした。誰かに絡まれるかもしれないがいたしかなない。


 さっそく、木の棒を板に挿してすりすりし、火をおこす。木をくべ、土器を置き、中にあさりとちぎったふきを入れた。


 「ねぇ、何作ってんの?」


 「うわぁ、び、びっくりした、カヤかぁ。」


 声をかけられて振り向くと、村一番の美少女のカヤがいた。カヤは集落のマドンナ的存在で、自分が普段話すことなんてない。そのカヤから話しかけられるなんて、まさに奇跡だ。


 「ふきとあさりの煮物を作ってて...」


 「ふ~ん、おいしそう、ちょっと食べさせてよ。」


 カヤはそういうと、近くにあったさじをとり、土器の中から煮物を取り出した。


 「ふー、ふーぱくっ。」


 髪をかきわけ、煮物を頬張る姿は、めっちゃエロかった。

 そして食後に「おいしいっ!!ユウって料理作るのうまいんだねっ!!」なんて言葉をいただいてしまった。


 俺は、その瞬間料理を極めることに決めた。これはひょっとして、もしかしたらいけるかもしれないぞ...


 後日─


 「キャハハハハ。」


 俺がくさむらを歩いていると、女子の話し声が聞こえた。その方向を見ると、なんと、カイとカヤが肩を組んで歩いているではないか。そしてカイの左手は気持ちカヤのおっぱいに触れているように見えた。


 そうだよなぁ、あんなかわいい子には彼氏がいるのが当たり前だよなぁ。まぁ、かわいい子って誰にでもいい顔しがちだし、前のあれはそういうことだったんだろうなぁ。でもよりによってカイと付き合ってるなんて、、、俺は、やるせない気持ちに胸が押しつぶされそうになったのであった。



今日の縄文格言:【陰キャにも優しい縄文サークルの姫、肉食系の彼氏いがち】


 

 


 

 


 

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