第20話 閃光花火

「予定ではここのはずだがっ!」

「もう少しでくるはずよっ!」


冬華副隊長と2体の中型影狼を拠点の中心地点、結界の修復点とある程度距離を保ちながらいつでも離脱できる距離で2体の中型影狼が結界の修復点にいる奴らにヘイトが向かわないように戦う。

俺と冬華副隊長が2体の中型影狼と対面している時、楯を地面に刺しながら地面削って白雪隊長が来た。


「ごめんなさい。遅くなったわ」

「いえ、それは大丈夫なんですが……」

「この気配は…」


ドン、ドン、ドン。


大きな足音がこっちに近づいてくる。

夜と同化して視認しずらいが気配で分かる。

冬華副隊長も結界のそばで俺たちを見守ってるやつらも感じてる。この狩られる者が感じる死にも似た狩る者の気配を。

しかし隼人が感じたのはそれだけじゃなかった。


「この気配は……お前なのか……」


隼人の勘は当たっていた。夜の暗闇から現れたのはビル3階にまで届くであろう巨体。こちらを見定めるような鋭い眼光。軽く唸っただけで感じるこの感覚。あの時にこの感じ。


「御姉様、まさかそれが――」

「ええ、この作戦の元凶のようね」


現れたのは先月、都市の結界を破って一部の地区に大きな損害と被害を与え、そして隼人の姉を殺したあの影狼だった。


「うそだろ……」


こんな狙ったようなタイミングで来んのかよ!


「ワオーーーン!!!!」

「……ッ!?」

「…っな!?」


大型の影狼の雄叫びと共に地面から影が噴き出し冬華副隊長と白雪隊長と分断された。


「冬…ッ!?」


分断されたことにより白雪隊長と冬華副隊長が大型の影狼と一緒に影の向こうに、そして残された俺が中型の影狼2体と戦う羽目になってしまった。

2体の中型の影狼は一人となった俺に容赦なく襲い掛かってくる。


「美濃部、井川第一副部隊長と繋いでくれ!」

『分かりました!』


炎を纏った刀を振るうことで飛ぶ炎の刃で2体の中型の影狼と距離を保ちながらなるべく2体同時に戦わないように立ち回る。


『どうした隼人!なんかやべーのが噴き出してんのが見えんだが』

「分断された」

『マジかよ!?』


龍二に今の状況を伝える。


「白雪隊長と冬華副隊長が影の向こう側に大型と、俺はこっち側に2体の中型と戦ってる!」

『おいおい結界の修復完了までもう10分もねえぞ!』

「ああ、正味賭けだ。白雪隊長と冬華副隊長が大型を倒してくれるのをギリギリまで粘る!」


かなり分の悪い賭けだが隼人は二人が来るまで耐えることを選んだ。


『お前はどうする!』

「仮に二人が大型を倒した時、できるだけ速く脱出したい。その為にはこの2体のどちらかでもいいから倒しておきたい。援軍を頼めないか?」


薄い期待を胸の聞くが返ってきた答えは残念ながら予想通りだった。


『すまねえ。俺らじゃ無理だ』

「お前のあの酒で援護でも無理か?」


隼人が言っているのは龍二が持っている影狼が中身の匂いを嗅いだだけで酔い始めた酒の事だ。龍二は少し考えて聞く。


『その2体と10秒距離は取れるか?』

「あー無理だわ」


隼人は必死になって戦っているが10秒と言う時間、どちらともと距離を取るのは無理だった。


『ならダメだ。接近戦であれを使うとお前にも影響がある。それにそいつらにこれが効くかも怪しい。そんな状況で使うことはできない』

「あーマジか…」


そう言われたら納得するしかない。もし俺だけに効いて2体の中型に効かなかったら自分で自分を追い込むことになる。そうなると白雪隊長と冬華副隊長が戻って来た時に足で纏いになる。


「どうしたもんか……」




***


「御姉様!」

「分断されましたね」


影の向こう側泉華と冬華は二人で大型影狼と対峙していた。


「どうしますか?」

「倒すしかありません」


それしか方法がないと泉華は冬華に言う。しかし冬華は不安そうに言う。


「出来ますか?私たちの隊はあくまでも防御力に特化した隊、私も数のある敵に有効なタイプです。正直言ってかなり分の悪い戦いかとっ!」


冬華は機動力が重要と判断し、鞭の材質を鋼鉄からいつも縄に戻している。そして影狼が攻撃しようとする時、鞭を影狼の体に当て、軌道をずらし、自分も避けることによって攻撃を回避している。


「確かに私たちナイト隊はこういうレイド戦には向いてはいません。団長や死透隊長、あとは静隠隊長ですかね。彼女たちなら難無く切り抜けられるでしょう」


泉華は楯でガードしながら後ろに跳ぶなど勢いを可能な限り殺しながら立ち回っている。

泉華の言葉を聞いて冬華は苦虫を嚙んだような表情を浮かべる。

しかし泉華はまだ言葉を続ける。


「けれど私たち姉妹ができないとは限りません」

「御姉様……」


それを聞いて冬華は泉華を見る。諦めかけていた冬華の意思に光がさす。


「難しいでしょうが私たち二人が力を合わせれば乗り越えられるはずです。冬華、あなたにはまた苦労を強いることになりますが…どうか力を貸していただけませんか」


姉からのその言葉に冬華は自分の姉を信じると決め、力強く答える。


「もちろんです!御姉様の為ならばこの命、何度でも鞭打ちましょう!!」


妹からの力強い言葉を聞いて嬉しく思い、泉華は口角を上げた。

そしてあの言葉を口にする。


「命よ、永遠に!」

「命よ、永遠に!」


泉華がヘイトをかいに出た。

剣で楯を叩き音で影狼を引き付ける。


「こっちです!」


影狼は泉華の方を向く。そして泉華に向かって走って行く。泉華はタイミングを見計り影狼の横に大量の半透明の楯を創り出した。


鏡盾の檻きょうたてのおり!」


影狼の横に創り出した無数の楯で影狼を横から挟み動きを鈍らせる。その隙に影狼の前後に同じく無数の楯を創り出し四方を囲った。


「はぁぁーーーーー!!!!!」


身動きが取れない影狼の頭上、そこには冬華がチェーンソーのように刃が付いてた鞭を両手に掴み全身を捻り影狼の首目掛けて全身を回転させ鞭をカッターの様に振るう。


「うおぉぉぉぉーーーー!!!」


高速回転する刃の鞭が影狼の首を切り裂こうと熱を上げる。

途切れぬ高速の刃の攻撃と摩擦熱で少しずつ影狼の首を削って行く。


「はぁぁぁぁーーーーーー!!!!」

「グ、グルルルル……グォーーーー!!!!」

「……ッ!?」


影狼が咆哮をあげる。その咆哮から放たれる強烈な風圧により冬華は檻の外に弾き飛ばされた。


「冬華!!」


背中から地面に落ちてきた冬華を見て名前を呼ぶ。

泉華は冬華に駆け寄りたいが影狼が勢いを取り戻して鏡盾の檻を押し返してきている。泉華はそれを阻止しようと影狼に集中しなくてはならなくその場から離れることが出来ない。


「もう時間が……あと少しなのに…どうすれば―――ッ!?これは……」


どうすればいいかと、頭を悩ませていた時、冷たい何かが自分の当たるのを感じた。

そしてそれは泉華だけではなかった。影の外側で2体の影狼と戦っている隼人も感じた。


「これは……雪か…だがどうして…」


突然の優しく降り出した雪に戸惑う隼人。そしてその直後音が鳴り響く。


「まさか…!」


暗き空の中、青い月明りと共に輝く雪の結晶中、歌に乗せて彼女の想いが聞こえてくる。


数分前、結界の修復点で美春がマキナを起動し始めたのだ。

そして真白はステージに上り歌いだす。


(今できる全てを持って、この歌を歌います。この戦い最後の歌。私の全てを尽くします!)


音楽がかかり、真白が歌い始めた時、真白の槍が白く輝きだす。その時、暗闇に包まれていた空に明るく光る月と美しい雪の結晶が降り積もるのだった。


***


隼人は突進してくる影狼の頭を足場に跳び、更にそこに突っ込んでくるもう一匹の影狼の頭をまた足場にして跳び、雪の結晶の一つを手の平に乗せる。


「最後の一曲、出し惜しみはなしか……ほんと、俺の心配はなんだったのか……だがこうなっちまったからには俺も出し惜しみはできねえよな」


真白の行動に呆れる。

紋章から炎が出て左腰に鞘を形成する。


「それにこのままじゃ時間を浪費するだけ、一発賭けるのも戦いか……そうだよな?」


誰に問いたはずでもないのに隼人は誰かがこの問に笑みを浮かべたのを感じた。

2体の影狼に挟まれるところに着地した隼人。出していた刀を鞘にしまう。

2体の影狼は迷わず隼人に向かってくる。


「すぅーーーー、ふぅーーーー」


隼人は目を閉じ左手は柄に、右手は持ち手に手を掛ける。そして姿勢を低くして心を落ち着かせる。

2体の影狼が近づいてくる、足音が耳に響く。

だが隼人はそれすら聞こえないほど集中している。

出来るはずだ。自分を信じろ、この刀を、俺の心を、今戦ってる二人のこと、そして、帰り信じて歌ってくれてるアイツのことを!

2体の影狼が口を開ける。


「居合、瞬火来灯しゅんからいとう


刀を引き抜き一回転。影狼に刀身が届く前に振られたその動作で空を斬ったと思われたその瞬間、2体の影狼の身体が二つにずれ、そのずれた隙間から炎が噴き出した。2体の影狼はそのまま消滅した。


「…あとは頼みましたよ……」


隼人はそっと影が消え入るのは待つ。


***


またなの……?また、あのに持ってかられる?


「うざ………」


力な倒れていた冬華の歯がギシギシと音を立てる。歌が耳に響くたびにイライラが募る。冷たい雪が肌に触れる度に体の温度が上がる。

毎度毎度うざいのよ自分ばかり目立って、褒められて、認められて、何もしてないくせに、ただ歌ってるだけの癖に、アンタは昔からそうよ。私がどれ程努力して両親や親戚に披露しても全てアンタに持ってかれる。アンタと同い年ってだけでなんでもアンタと比べられる。もうウンザリなのよ!

骨も筋肉も限界の中、身体をプルプルと震わせ冬華は立ち上がる。


「いいわよ。アンタがそうするなら。アタシは!それを利用して!この命を使って!例え死んでも、最後ぐらい華々しく散って、アンタを超えてやるわよ!!」


俯いていた顔を上げ、まっすぐと仕留めるべき相手を見つめる。

もう一度刃の鞭を顕現させる。そして脚の震えを無理矢理止め立ち上がる。


「御姉様!もう一度私にチャンスをください!」

「冬華!その身体であれをまたする気なの!?」


意識を保っていることすらありえない重傷なのに立ち上がりもう一度影狼に戦う意思を示す冬華に泉華は驚く。


「はい…!どうか…今度こそ仕留めて見せます!」

「それは隊長として、姉として看過できないわ!これは私が一人でどうにか!」

「御姉様!」

「………!!」


冬華はそっと幼子が可愛らしく頼むよな優しい笑みを泉華に向けた。それを見た泉華は言葉が出なくなった。


「今しかないの…こんな何もできなくて終わりたくないの。だからお願い…お姉ちゃん」


その顔には決意と寂しさ、そして何かを悟るようなものを感じた。

泉華は唇を噛む。

隊長として、何より姉として止めてあげたい。だけど姉だからこそ、妹の想いと決意に敬意を払わなくちゃいけない。泉華は自分にそう言い聞かせる。


「分かったわ。行ってらっしゃい、冬華」

「ええ、行ってきます。お姉ちゃん」


冬華はもう一度影狼の頭上に。そしてもう一度影狼の首を狙って体を回し鞭を振るう。


「今度…こそ…やって…みせる!」


骨が軋む、筋肉が悲鳴をあげる、鞭の刃が肌に触れて血が出る。刃から漏れる火種が花火の様に爆発する。

花火の光で目がチカチカする。爆発音で耳がキーンとなる。意識がくらくらする。


「だけど……ここで日和る訳にはいかないのよ!!」


冬華の紋章が光だす。鞭が手元から縄から焔へと性質が変化していく。それに合わせて花火が大きくなっていく。


「グッ…!グルルルルッッ!?」


影狼は唸り声をあげる。だがその声は余裕など一切感じない焦りを感じさせた。

少しずつ燃え盛る刃が影狼の首に練り込んで斬り裂いて行く。


「はぁぁ!」

「ガルル!」

「はぁぁぁぁぁぁ!!」

「ガルルルルルル!!」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「ガルルルルルルルルルルルル!!!」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


冬華は最後の力を振り絞って両手に持つ鞭を同時に影狼の首に向かって振るう。


「はぁっ!!!」


最後の一撃で燃え盛る刃と共に影狼の首が切断された。そして影狼の首から特大の閃光花火が弾けたのだ。

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