第一曲目 第四楽章〜前半〜



僕がこの学校に来てから、めっきり音楽に気持ちや情熱が向かわなくなった。


1番は原井という教師にあたったことだ。

2番はプライベートなのだが、それでも原井に出会わなければ、と幾度となくこの2年間で心に思った。


原井先生は、僕より二個階級が上の中間管理職。でも授業もやるし、担任だって持っている。

仕事量はこの学校で随一なのは確かだ。

だから、僕だって赴任当初は原井先生の役に立つことが学校の、ゆくゆくは生徒のためになると思って、半ば御用聞きというくらい原井先生の仕事を担った。

委員会もそう。行事の準備もそう。

ペアになった仕事は一手に引き受けた。


しかし、だ。

僕もまだ未熟なせいもあり、少しずつミスが増えた。

委員会の仕事や行事の準備で抜けが多くなってきた。

そうするとどうなるか。まず「失敗してしまった」と落ち込む。

普通だが、原井とこの学校の職員室には、更に、がある。

失敗は全て未羽のせい。になるのだ。

『なぜ君の仕事なのに失敗しているんだ』

『しくじるくらいなら周りに聞いてから始めて、それでしくじらないようにしろ』

僕だけに言ってくる。原井の責任など誰も問わない。未羽のしくじりだ。となる。

それで、更に、『未羽は気が利かない』だの『あいつがしくじるから仕事が進まない』だの、あることないこと言われ始める。


そして何より、原井は何も言ってこない。

仕事をやってくれたな、すらない。

気遣いも思いやりもあったものですらない。


この、更に、がとてもやっかいだ。

他の教師に会いたくなくなっていた。

だから、音楽室こそ僕の安全地帯なのだ。


ややあってウォルフガングが口を開く。

「なるほどなぁ。まあ、ある程度感じていたが、人間なぞあまり変化しないものだ。私にも思い当たる節は多分にある」


気代の天才に気を遣われている。


「しかし、君も音楽家なのであれば、それ相応の数の人間と関わってきただろう。原井という男のような奴もいたのではないか?どうして今になり、原井が心に残っているだい?」

「…やっぱり、聞いてきたかぁ…」


さすがは、感性の鋭い音楽家だ。

いっぱつで僕の抱えている気持ちに辿り着く。

ウォルフガングの言う通り、原井のことをここまで嫌悪するにはもう一つ理由があった。


「原井は、実は僕の教え子たちを傷つけているんだ」


原井の悪行、マジで消え失せろ。

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