第7話

「リク、数多いから、慎重にね!」


ピリカが頭上から声をかけてくる。俺は返事代わりに拳を握り締めた。


ロータリーの向こうには、さっきより一回りデカいバグモンが三体、それに加えて、周囲を囲むように小型のバグモンがわらわらと蠢いていた。


「どう考えても数の暴力だろこれ……!」


「でもリクなら行ける! だって拳こそ正義だもん!」


「いや、どんな理屈だよ!」


もうツッコミ入れる元気も半分だったけど、それでも、拳に込めた力だけは満ちていた。


――目の前にいる奴らは、絶対に街に放しちゃいけない。


それだけは、ハッキリしてた。


「まずは小さいのから片付ける!」


そう叫ぶと同時に、俺は一気に地を蹴った。


【超身体能力(魔法少女補正)】発動。


風を切るスピードで小型バグモンに接近し、拳を振り抜く。


「うらあぁぁっ!!」


小型バグモンは、まるでビニール人形みたいに弾け飛んだ。連続で二体目、三体目に飛びかかる。


「てやっ! そいやっ!」


ピリカのサポートで敵の動きを先読みしながら、拳を叩き込み続けた。バグモンたちは次々と宙を舞い、電柱やベンチに激突して霧散していく。


「リク、右からも来るよ!」


「わかってる!」


振り向きざま、右フック。特訓で学んだ通り、腰をしっかり入れたパンチは、バグモンをまとめてなぎ倒した。


「ふぅ……」


一息つく間もなく、残った三体の大型バグモンが、ズシン、ズシンと足音を響かせて迫ってきた。


「おいおい……あれ、本気でやばいんじゃねぇか……?」


三体とも、グラスバグなんかよりはるかにデカい。しかも、体表が硬質化してて、さっきまでのパンチが効くかどうかすら怪しい。


「リク、注意して! あれ、下級バグモンの中でも特にタフな個体だよ!」


「……だったら、もっと強く殴るだけだ!」


「リク、かっこいい!」


ピリカがパタパタと飛びながら応援する中、俺はグローブを見つめた。


――この一発に、全魔力を込める。


両拳に意識を集中させる。魔力がギュウウウっと圧縮されていくのがわかる。


「いくぞおおおおおっ!!」


俺は地面を蹴り、最初の一体に向かって跳び上がった。


大型バグモンが巨腕を振りかざしてくる。


だけど――その動きは、はっきり見えた。


「そんなん、当たるかよぉぉぉっ!!」


すれすれで回避しながら、拳を突き上げる。


「ブレイクリリィ――ファーストブロー!!」


命名したばかりの必殺技を叫びながら、全力で拳を叩き込んだ。


ドガァァァァァン!!!


バグモンの巨体が、爆音とともに浮き上がった。


「うそっ、リクすごいっ!!」


ピリカが目を丸くして叫んだ。俺も自分でびっくりしてた。


「……一発で浮かせられるとか、マジかよ……!」


着地と同時に、すかさず次のバグモンに向かって走る。


「次っ!!」


二体目も突進してきたが、俺はあえて真っ正面からぶつかった。


「拳こそすべてだぁぁぁぁ!!」


右ストレート全開。


バグモンの巨体がズザァァァッと地面を滑りながら後退し、建物の外壁にめり込んだ。


「あと一体っ!」


ピリカの声が、鼓膜を震わせる。


ラストのバグモンは、他の二体より一回り小さい代わりに、やたらとすばしっこい。くねるように動いて、俺の攻撃を避けようとする。


「チョコマカ動きやがってぇっ!」


それでも、俺の拳のスピードは、魔法少女補正で常識外れだった。


【魔力反応探知】で相手の動きを先読みして、カウンターのジャブを叩き込む。


「そらっ!」


ズバァン!


バグモンは空中でバランスを崩し、地面に落ちた。


そこへ、追い打ちのフィニッシュブロー。


「――これで終わりだっ!!」


拳に最後の魔力を込め、叩き込んだ。


バグモンが砕けるように消滅する。


「……ふぅっ!」


全滅確認。


広場には、俺とピリカだけが立っていた。


「リク、すごい! ほんとに一人で全部倒しちゃった!」


「へっ、当然だろ!」


照れ隠しに鼻を鳴らした。でも、胸の奥は誇らしさでいっぱいだった。


この力が、誰かを守るために使えるなら――悪くないかもしれない。


「さ、リク。拠点に戻って、報告しよっか!」


「おう、相棒!」


俺はガッツポーズを決めながら、ピリカと一緒に転送ゲートへ向かった。

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