第5話

俺とピリカは、再びマイルームのゲートを通り、現実世界へと戻った。


「――って、ここ俺の家の裏の空き地じゃねーか!」


思わず叫んだ。ちょっと歩いたら俺の家の庭だ。こんな近場に魔法少女の拠点作るって、バレたら即終了じゃねぇか……いや、まぁ、バレたらアウトな正体してるけどさ。


「ここならアクセスもいいし、ばっちりだよ!」


ピリカはまるで何も問題ないみたいに笑って、きらきらと羽を振りまいた。いや、どう見ても大問題なんだが。


「それじゃ、拠点作成、スタート!」


「ちょ、待っ――」


俺の制止を完全に無視して、ピリカが両手――じゃないな、前足をぱっと広げた。


ぱぁぁぁっと光が弾けたと思ったら、空き地の中央に、にょきにょきと小さな建物が生えた。


「……え、マジで?」


「じゃーん! これがリク専用の〈ミニ拠点・第1号〉だよ!」


ミニって言ったって、ぱっと見は普通のプレハブ小屋よりちょっと大きいくらい。でも、近くで見ると壁が不思議な紋様で覆われてて、普通の建物じゃないって一発でバレるやつだった。


「おい、これ、絶対バレるだろ……!」


「平気平気! 魔法で一般人には見えないようにしてあるもん!」


「……マジで?」


「マジだよっ!」


ピリカが胸を張って言うから、まぁ信用するしかない。というか、信用しなきゃやってられない。


「とりあえず、中、入ってみよっか!」


「うー……」


渋々ながら、俺は拠点のドアノブを握った。


カチャリ。


中に入った瞬間、思わず息を呑んだ。


「……おお……」


外見からは想像もできない。中は、完全に別世界だった。


白と金を基調にしたシンプルな内装。ふかふかのソファ、壁際には小さな本棚と、コンパクトなキッチンまである。天井は高く、魔法陣みたいなシンボルが淡く光ってる。


「ここがリクの活動拠点だよー!」


「うわ、マジで拠点っぽい……」


予想をはるかに超えてた。なんだこれ、普通に住めるじゃん。


「でしょでしょ! ここでは体力も魔力も自然回復するし、バグモン探知もできるし、緊急時の脱出ゲートも使えるんだよ!」


「なんでもありかよ……」


呆れながらも、俺はソファにどっかり座り込んだ。……うわ、これ、めっちゃ座り心地いい。


「これ、マジで俺専用なんだな……」


「うんっ! これからリクは、この拠点を拠点にして、バグモン退治頑張っていくんだよ!」


「いや、サラッと言うなよ。普通、もうちょっと心構えとかさ……」


「だいじょうぶ! リクなら、きっとなんとかなるって!」


ピリカは、これっぽっちも疑ってなかった。俺の中身が普通の男子高校生だってこと、ちゃんとわかってんのか……?


でも、俺もだんだん感覚が麻痺してきてた。……というか、さっきから、ちょっと楽しくなってきてる自分が怖い。


「それにねっ」


ピリカがにやりと笑った。


「もうすぐ、最初の"異常反応"が来ると思うんだ」


「……異常反応?」


「うん。バグモンが活発に動き始める予兆みたいなもの! つまり、初出動だよ!」


「えええええっ、早すぎるだろ!!」


たった今、拠点作ったばっかだぞ!? 心の準備もなにもあったもんじゃねぇよ!!


「ふふふ、大丈夫だよ。リクなら、一発ぶん殴ればオールオッケーだから!」


「いや、それ戦略じゃねぇからな!? 力押しだからなそれ!!」


必死でツッコミ入れる俺を無視して、ピリカは嬉しそうに飛び回る。


「じゃあ、装備整えとこうね! リク用の初期装備、ちゃんと登録されてるから!」


「装備……って言っても、拳で殴るだけだろ?」


「そうだよ! だから、この〈強化グローブ〉をつけるんだ!」


ピリカがぽんっと取り出したのは、薄手の手袋みたいなグローブ。淡いピンク色で、手の甲には小さな魔法陣の刺繍が施されてる。


「……可愛いなこれ……」


「リクに似合うようにデザインしたんだよ!」


「いや、そこ似合わすなよ!!」


顔を真っ赤にしながらグローブを受け取る。手に嵌めてみると、ぴったりフィットして、まるで元から俺のものだったみたいだった。


「これで、拳の威力と防御力がちょっとアップするよ!」


「なるほどな……」


拳を握ってみる。グローブ越しに、魔力がふわっと流れ込む感覚がした。


「……これなら、もっと強く殴れそうだな」


思わず、にやりとしてしまった。いや、これ、完全に感覚おかしくなってきてる気がする。


「じゃあリク、異常反応が来たら、すぐに出動だからね!」


「……はいはい、了解だよ」


ため息交じりに答えながら、俺は初めての出動に向けて、ゆっくりと拳を握りしめた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る