第12話 吾輩は犬である。しかし、海に落ち、ついに猫になった。

 吾輩は犬である。名前はちゃんとある。栗である。

(ミカン:なんだ、その喋り方?

 栗:ママが言ったんだ!「ほら、『吾輩は猫である』の猫はすごく知的で文化的よ!」って。だから吾輩も真似するのだ。ふん!)


 どこで生まれたかは覚えている。少なくとも、猫みたいに「とんと見当がつかぬ」なんてことはない。吾輩は生後三ヶ月の頃、突然この家に連れてこられたのだから。

(パパ:連れてこられた家はお前の生まれた場所じゃないけどな。やっぱり文化レベルが違うな……)


 前回、吾輩が山を登った話をした。ならば今回は、吾輩が海に挑んだ話をしよう。


 吾輩は水が好きだ。風呂も好きだ。湯船に浸かるとついウトウトしてしまうくらい、温かい水に包まれるのは最高の贅沢だと思っている。


 温泉も大好きである。ふわふわのタオルで拭かれ、ドライヤーで乾かされると、吾輩の毛はサラサラの極上モフモフになる。だから、水は怖くない。むしろ、愛している。


 ……そう、吾輩はずっとそう信じていたのだ。


 ある日、ママが言った。「栗くん、今日は海に行くよ!」


 ほう、海か。でっかい風呂みたいなものだろう。きっと楽しいに違いない。

 そう思いながら、吾輩は車に乗り込んだ。

 車の窓から風を感じながら、どんな素敵な温水プールが待っているのかとワクワクしていた。


 そして、ついに海へ到着。


 目の前に広がる、果てしなく続く水。波がざぱーん、ざぱーんと音を立てている。


 ……ん?

 思っていたのと違うぞ。

 湯気が出ていない。あの心地よい温泉の香りもしない。


 それどころか、波がザブン!と来た瞬間、吾輩の足が濡れた。


「冷たっっっっ!」


 まさかの冷水!?

 温泉とは全然違うではないか!


 吾輩は急いで後退した。しかし、後ろにはママの手。

 逃げ道はない。


「栗くん、せっかくだから泳いでみよう!」


 いや、やめておこう。吾輩はこう見えて賢い犬である。無謀なチャレンジはしない主義なのだ。


 しかし、ママはそんな吾輩の気持ちを完全に無視して、ぐいっと抱きかかえ――

 ドボン!!!


 吾輩、海に落ちた。

 全身が瞬時に冷たい海水に包まれた。


「うわああああああああ!」


 足がつかない!!!

 波が来る!!!


 なんだこれは!?!?

 風呂じゃない!!!これは危険な水の塊だ!!!


 吾輩は必死にバタバタした。


 すると――なんとか浮いている。


 え、まさか……吾輩、泳げてる……?


 いやいやいやいや!違う!そうじゃない!

 吾輩はただ、必死に生き残ろうとしているだけだ!

 風呂とは違う!これは完全なる戦場だ!


 岸に戻ろうとした瞬間、またもや波がドーン!


「ぎゃああああああ!」


 吾輩はようやく気づいた。

「吾輩、海が……怖い!!!」


 ママは笑顔で言った。「すごいね、栗くん!泳げたね!」


 違う!!!泳いだんじゃない!!!生存競争だったんだ!!!


 命からがら浜辺に戻ると、砂浜に倒れ込んだ。


 ママは「楽しかったね~!」と嬉しそうにしている。

 いや、ちょっと待て。吾輩、完全に死ぬかと思ったんだが!?

(あんこ:そんな大騒ぎするほどのことじゃないでしょ。

 栗:お前、大型犬だからって調子に乗るな!!吾輩は繊細なのだ!!)


 しかし、その後、吾輩はふわふわのタオルで拭かれ、ドライヤーで乾かされ、毛並みが極上のモフモフになった。


 ……まぁ、それは悪くなかった。


 でも、一つだけ言わせてくれ。

「吾輩、海より風呂派である。」


 家に帰ると、猫たちがいつものように冷たい目で見てきた。

「ほう……生きて帰ってきたか」と言わんばかりの視線である。


 吾輩は悟った。

「この家で生きていくためには、猫たちに認められねばならない」と。


 そこで、吾輩は猫たちに近づき、静かに横に寝転がった。

「どうか、仲間にしてください……」


 猫たちはしばらく吾輩を観察していたが、ある日、ついにカボチャ様が吾輩のそばにゴロンと転がった。

 そして、吾輩の耳をペロリと舐めた。

 その瞬間、


「やった!吾輩、公認された!」

(ミカン:いや、ただ舐められただけでしょ。

 栗:違う!!これは誓約のキスだ!!!吾輩は今日、正式に猫社会に迎え入れられたのだ!!

 ミカン:いや、お前、犬だ!……現実見ろ!)


 こうして、吾輩は犬でありながら、猫の家族の一員となったのである。

 疲れ切った吾輩は、ふわふわの猫たちに囲まれながら、ゆっくりと目を閉じる……


 吾輩の結論:

 吾輩は犬である。名前は栗である。

 この家での生活は、なかなか悪くない。


 海は怖かったが、ママのタオルドライは最高だった。

 波に飲まれたが、帰ってきたらおやつをもらえた。

 全身ベタベタになったが、乾かされたらモフモフになった。


 そして何より――今日はカボチャ様が一緒に寝てくれるらしい。


 ふわふわの猫の隣でぬくぬくと丸くなる。

 温かい毛並みに包まれ、心地よいゴロゴロ音が聞こえる。


 結局、ママの膝の上もいいけれど、猫と一緒に寝るのも悪くない。


 吾輩の犬生、これからも続くのである。


ーーーーーーー

クリとカボチャ、なかよしお昼寝ショットはこちらからどうぞ🐶🐱💤

👉 https://kakuyomu.jp/users/kuripumpkin/news/16818622173352592672

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る