第3話 秋田・天下一の頑固さ
ある日、僕は飼い主さんと一緒にベビーカーに乗って動物病院に行ったんだ。
そう、予防接種を受けにね。でも、その日僕のメインミッションは違った。
僕は「動物病院で一番のアイドルになること」――これが僕の使命だ!
ベビーカーに乗った僕は、道中ずっと元気いっぱいだったんだ。
尻尾をフリフリ、首を傾げたり、片足を挙げてポーズを決めたり。
飼い主がカメラを向けるたびに、僕は八百通りくらいのポーズを披露したよ。
これぞ「イケメン犬・栗」の本気ってやつさ!
病院に着いたら、案の定、僕はみんなの注目の的だった。
「あら可愛い!」「なんてお利口さんなの!」って、看護師さんたちも患者さんたちも、全員僕に夢中だったんだよね。
その瞬間、僕は確信したよ―― 「ここでは僕が一番輝いてる!」ってね。
でも、その日、僕にとって本当の事件が起きたのは動物病院じゃなくて、その後に寄ったペットショップだった。
僕たちはペットショップで運命的な出会いをした。
店内で僕は、僕とそっくりな犬を見かけたんだ!
「え、僕のクローン!?いや、双子?」
興奮した僕は思わず彼女に向かって一生懸命吠えたよ。
飼い主はそんな僕を見て笑いながら言った。
「可愛いねぇ……連れて帰る?」
その一言で、僕の新しい「家族」が決まったんだ。
僕、実は前から「可愛い妹が欲しいなぁ」って夢見てたんだよね。
だから彼女が僕の家に来た日は、もう大はしゃぎだった!
僕の宝物のおもちゃも、お気に入りの食べ物も、全部彼女のために運んであげたんだよ。
でも、数日後に僕は気づいたんだ。 「ん?なんか思ってたのと違うぞ……」
確かに彼女は小さい頃、僕とちょっと似てたかもしれない。
いや、正確に言えば、動かない時の毛色だけが似てたんだ。
だって、彼女は僕とは全然違う犬だった。
秋田犬――そう、日本固有の犬種だ。
僕の認識では、秋田犬は「無理を通して道理を引っ込めるタイプ」「やたら食いしん坊」「歯が尖ってて痛い」犬種だったんだよね。
そして、彼女はその典型そのものだった……。
まず、無理を通して道理を引っ込めるエピソード。
食べ物に関しては、彼女は無敵だった。
僕の食べ物はもちろん、飼い主の手に持っているものまで狙ってたんだ!
しかもね、僕が今まで教えてきた「お手」「おすわり」「待て」なんて、彼女は全然覚えなかったくせに、食べ物が絡むと急に全部できるようになるんだよ。
食べるためなら、どんな努力も惜しまない――それが彼女だった。
次に、彼女のトイレ問題。
僕は家に来て20分でトイレをマスターしたんだけど、彼女は……一週間経ってもできなかった。
リビングのあちこちに「彼女の作品」を作り上げるもんだから、飼い主は毎日泣きながら床を拭いてたんだ。 僕はその光景を見ながら「こんなに手がかかる生き物がいるのか……」と感心したよ。
そして、彼女の鋭い歯。
家に来た翌日、彼女は僕に向かって「ガブッ」と来たんだ!
僕の顔に小さな傷ができたけど、僕は彼女を怒らなかったよ。
「きっと愛情の表現だろう」と思ってね……まぁ、そう思い込むしかないよね?
そんな彼女だけど、僕は結局彼女が大好きなんだよね。
だって彼女が濡れると、鹿みたいに見えるんだ。
あ、いや、鹿の蹄って美味しそうだよね……そういう話じゃなくて!
彼女と一緒に初めて散歩に行った日、彼女が「天下一の頑固さ」を見せつけてくれたんだ。
道路の真ん中で突然ピタッと止まって、一歩も動かなくなったんだよ。
本当に一歩も!
僕、焦って彼女のリードを咥えて、なんとか引っ張ろうとしたんだ。
噛む!
引っ張る!
でも…… 動かない!
そして、次の瞬間――
え、道路のど真ん中で伏せた!?
思わず考えたよ。 「この子、本当に犬なのか?」
飼い主さんも懸命に声をかけて、あの手この手で誘導しようとしたけど、彼女は全く動じなかったんだ。
最後には、うちの旦那さんが彼女を抱えて帰ることに。
道中、旦那さんの肩に乗った彼女の丸い頭がプルプル揺れるのを見て、僕は少しだけ笑っちゃったよ。
まぁ、大抵の時、彼女がご飯を食べたり太っちょの姿で転がったりしてると、僕は「これはもうブタかな?」って思うんだよね。
でも、彼女がまた僕に「ガブッ」と噛み付いてくるたびに思い直すんだ。
「いや、間違いなく犬だ……そして、ものすごく“犬らしい”犬だ!」ってね。
そしてね、旦那さんが言ってたんだ。
「栗、天下の妹ってのはみんなこんなもんだよ。」
本当にそうなの? 旦那さんがそう言いながら、僕におやつをくれるんだ。
彼の言うことなら間違いないよね。 あ、鹿肉……そのこと考えたら、またヨダレが垂れてきたよ……美味しいなぁ。
ああ、昔、飼い主が言ってたことを思い出す。
「ボーダーコリーは世界一賢い犬なんだから!」
その時はあまり信じてなかったけど、秋田が家に来てから、僕は完全に信じるようになったんだ。
だって、僕たちボーダーコリーにとっては当たり前のこと――例えば「お手」とか「お座り」――彼女には全然当たり前じゃないんだよ。
僕が直々に何度もお手本を見せてあげたのに、覚えるまでにどれだけ時間がかかったことか……。
でも、それは別にいいんだ。
何よりもショックだったのは……彼女、「ワン!」と鳴けないんだよ!
僕が隣で大きな声で「ワンワン!」と何度も教えてあげたんだ。
喉が枯れるくらい頑張ったよ。
でも、彼女の口から出てくる声は……なんだろう、すごく不思議な音なんだ。
犬というより、なんだか変な鳥みたいな声。
「こんな声でも、ちゃんと『犬』なんだよね……?」
それでも、彼女は僕の大切な妹なんだ。
どんなに変な声でも、どんなに不器用でも、やっぱり僕には彼女が必要なんだ。
これからもきっと、毎日がドタバタで楽しいんだろうな!
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