大聖女様に神聖力を全て奪われた平民聖女は、隣国の騎士団長様に拾われる
温故知新
第1話 追放された平民聖女
「神聖力が無くなったあんたなんていらない。さっさと神殿から……いや、この国から出て行って! このゴミが!」
真っ白な大理石で作られた大神殿の奥にある一際煌びやか部屋。
その部屋の中で、古びたローブに身を包んだ私メリアは、部屋のソファーで真っ赤なドレスに大振りで真っ赤なルビーのネックレスを身につけた大聖女様カルミア様に追放を命じられた。
――あぁ、これでようやく自由になれる。
私がいる国『アガリテ神聖国』は、別名『癒しと豊穣の女神アガリテに愛された国』と呼ばれる国で、魔法を使う時に消費する『魔力』とは違った、女神に選ばれた者しか使えない力『神聖力』を扱える女性『聖女』が毎年生まれる国として有名である。
その『神聖力』というのは、魔法と違い詠唱を必要とせず、願っただけで傷ついた者達を癒したり、魔を祓う結界を張ったり、土地に豊穣を与えたりなど出来る。
そんな人知を超えた力を女神から与えられた聖女は、決まって貴族の中から生まれる。
そして、聖女達の中でも稀に桁外れた神聖力を持つ者は『大聖女様』と呼ばれ、その桁外れな神聖力で誰も傷つくこともなく、国が更に豊かにすることが出来るとされている。
そのため、大聖女様は聖女達や神殿のみならず、国全体から愛されているのだ。
そんな国の小さな村で平民として生まれた私は、なぜか神聖力が……それも桁外れの力を持っていた。
それを知った両親は、とある男爵貴族に私を売りつけて大金を得た。
そうして、無理矢理貴族の養子にされた私は、大金と引き換えに神殿に入れされられたのだ。
その後、聖女として神殿に預けられた私は、私以外の聖女が全員貴族出身だったことと、どこからか私が元平民であることが漏れてしまったことで、聖女達から虐げられながら聖女の仕事をすることになった。
「ほら、さっさと出て行って!」
「そうよ! あんたみたいな卑しい平民が、貴族しか入ることが許されない神聖な場所にいることが間違っているのよ!」
「……分かりました」
大聖女様から追放を言い渡された私は、冷たい目を向ける聖女達から容赦の無い罵詈雑言を浴びせられながら、深々と頭を下げて部屋を後にすると、そのまま自室として宛がわれた殿の外にある古びた小屋に戻った。
「はぁ……聖女達から罵りや暴力を受けるわ、毎日の食事は抜かれるわ、神殿の掃除は押し付けられるわ、他の聖女達のお眼鏡に適わなかった人達の治療を全て引き受けないといけないわ……もう散々だったわ」
私が元平民だから何でも許されると思った他の聖女達は、嬉々として私に面倒な仕事を全て押し付けた。
そのお陰で、私は朝から夜遅くまで馬車馬のように働いたのだけど、神官達はただ嘲笑って見て見ぬふりをした。
他の聖女と同じく貴族出身である彼らもまた、元平民の私が気に入らなかったのだろう。
ちなみに、私が忙しく働いている間、他の聖女達は神殿に訪れた見目麗しい殿方を見つけては『治療』という名目で大層ご立派な自室に連れて行き、肌と肌を重ねていた。
特に、大聖女様は大の面食いで、毎日のように乱交パーティーを開いていた。
「でも、一番大変だったのは毎日からカルミア様から神聖力を奪われることよね。だって、私の神聖力が尽きるまで奪うんだから」
――そのお陰で、神聖力が失われて、茶髪から白髪になっちゃったんだけど。
金髪碧眼で誰もが目を惹く華やかな容姿のカルミア様は宰相家の娘で、私より少し前に聖女として認められて神殿に入られた。
けれど、自分よりも遥かに多く神聖力を持っている元平民の私がとにかく気に食わなく、カルミア様は毎晩、人気のいない深夜に私を部屋に呼び出し、ネックレス型の魔道具を使って私の中にある神聖力を無理矢理奪った。
もちろん、このことは他の聖女達も神官達、大司教様もご存じなのだけど、『宰相家の娘』という肩書きを持つ彼女に意見出来るはずがなかった。
そうして私から毎晩、大量の神聖力を奪った彼女はいつしか『大聖女様』と呼ばれ、先日。めでたく王太子殿下の婚約者になられた。
「でもまぁ、神聖力が失われたことで、虐げられる生活からおさらば出来て、外出が許されなかった神殿から出られるのね」
少ない荷物を纏めて小屋を出た私は、夜闇に瞬く星空に目を細めると、見慣れた神殿に背を向け、誰もいない裏門を通ると清々しい気持ちで神殿を後にした。
その頃、大聖女様を含めた神殿関係者は、平民聖女を神殿から追い出せたことを祝して、乱交パーティーを開いていた。
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