ラストの国記 【 記憶喪失男は虚構を被る 】

巡世 式

第1話 記憶喪失

見知らぬ土地で目が覚め、体をおこす。

一面の草原、きれいな花がそこらかしこで蜜をたらしそれをミツバチ?のような虫が吸っている。

空気は深呼吸をしたくなるほど綺麗だし、空に至っては単色の絵の具のように淀み無い青。

「なんでこんなところに?俺はたしか…」

あれ?

「俺って誰だっけ?」


俺は記憶喪失になっていた。


「えーと、えーと。

 だめだ本当に思い出せない。」

――どんなに頭を回してもここはどこか、俺は誰でどんな名前だったのかすら思い出せない。

もしかしてリアルここは何処、私は誰状態なのか!?

うわーやっておけばよかった~!


はぁ、くだらない考えしか浮かばない頭でも男はどうやら行動はすべきだと分かっているようで草原から歩みだす。


草原の少し先に歩いて進むとどうやらここは丘だったようで眼下には広い平原で何やら黒い影達と光を反射する格好をした人達?がなにやら戦っている。

それは普通は約10,20km先の事で起こっていることであり普通の人は大まかにしか分からないはずだが少年は目がいいのか見てしまう。

光を反射する格好は中世風の鎧に身を包んだ騎士であり、黒い影たちは虫を体に這わせているかのようなグロテスクな犬達だった。


「な、何だあれ!?」

それは少年の記憶の忘却という重大な損失を持ってもなお消え失せなかっったという物差しにはあまりにも不適合なものだった。


「え。これってどういうことだよ、まじで?」

男は自分が何者でもあるかわからないというのに、世界そのものも自分に唯一残った常識すら通用しない事をここで気づいたのだ。

常人なら精神がやられるとはいかなくとも、極めてストレスを感じる環境であることは当然だろう。

だが

「うん、とりあえず誰かに保護してもらおうか。あんな危険なモノがいる世界で夜とか絶対危ないし。」

この男は普通の少年よりは図太かった。


すっと踵を返すと反対側に森があり、その森へ木々をかき分け道中、落ちている手頃の棒を県に見立てて振り回しながら進む。

とことん、この少年は図太いのである。


川のせせらぎが聞こえ、そちらに向かうと幅5,6mはある川にたどり着く。

「水だー!」

少年は喜んで川の水を手ですくい口にいれる。

地味に一時間以上棒切を振り回しながら歩いたのだから少し体は疲れ喉は水分を求めていたのだ、

水を飲み一息ついたところで太陽は頭上に昇り、日がいつ沈むかも分からないためそろそろ急がなければいけないが…

「川があるなら下っていけばいいな!」

これは図太いのではなく単なる馬鹿である。


川の横を通り下っていく。

川は蛇行しておりそのまま行けば時間がかかってしまうがここの土地勘が無い少年は時間をかけるしか無かった。

だんだん日が落ちていく、闇は原初の恐怖。

いくら図太い少年とはいえ流石に知らない生物がいる環境で夜は何が何でも過ごしたくない。

そんな気持ちとは裏腹に日は冷酷に時を刻み、あたりは暗くなり川のせせらぎに嫌気をさし始める。

不意のサバイバルにおいてイラつきは必ずあるものだがそれによるいつもより力がこもった行動、それは基本的にエネルギーの無駄に過ぎない。

そしてこの少年がずっとやっている棒切を振り回す行為そのものもそれに値する。

それで精神の安定が取れていればいいが、それが出来ておらずついには力を込めて棒切を思いっきり振り回すようになっていく。


「火が、火がほしいなぁ!」

暗くなる空に焦りが生まれているのか少年はそう言いながら思いっきり棒切を上に向けて振り切る。

一瞬手のひらがあったかくなったと思ったら棒切の先からバケツから水を出すかのように火が立ち上る。

火を出した棒切は内側から炭化するように崩れ去り、火は花火をましたから見たかのように燃えて広がって、あまりに膨大なそれは燃え移れるものがないというのに登るように十秒ほど燃え続けた。


火がなくなったあと男は若干の倦怠感とそれ以上のこの世界の謎に嘆く

「えー!?もうこの世界来てから驚いてばっかだよぉー!!」

これが少年と魔法との初対面ファーストコンタクトだった。


程なくして無数の金属音と羽ばたく音が男に近づいてくる。

おそらく人だろうと少年は少しの期待を心に音がたどり着くのを待つ。


少年の予想通り、さっき草原の丘の下に居た騎士と同じ格好した馬に乗った人達と何匹の鷹から人に変わっているローブを着た人達が男を囲うように現れる。

「やっと人に出会えた!すみません助け」

少年が歓喜の意図を表す前に一人の騎士がズイッと前に出ると

「お前を王室所有地潜入の現行犯で逮捕する。ここでの言い訳は一切受け付けない!連れて行け」

そう威圧的にいうと部下であろう騎士が両側につき男を持ち上げ先ほど声を上げたリーダーであろう騎士の馬にくくりつけられた荷台に物のように紐でぐるぐる巻きにする。


先程のおそらくリーダーの騎士が部下が馬に乗ったことを確認すると

「魔導隊は結界の不備を確認せよ!デュワール隊は王城まで帰還する!」

「「「はっ!」」」

そう言って道なき道を疾走し始めるのであった。


かくして少年は逮捕という形ではあれど、なんとか知らない世界で人と合うことが出来たのだった。


俺これからどうなるんだろ―








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る