婚約破棄されて追放されたチンチクリンな令嬢は錬金術がしたい

新川キナ

第1話 きっと翌朝はニュースのトップ記事!

 同級生が今日も私にしがみつく。


「はぁん。小梅は今日もカワイイねぇ」

「あぁ! 鬱陶しい!」


 そんな同級生を押し退けて、私は大学の講堂の椅子に座る。そして同級生に注意する。


「いい加減、抱きつくの止めてよね! 私。これでも二十歳なんですけど? 知ってる? あなたより数ヶ月は歳上なのよ!」

「うんうん。知ってる。その上、うちの大学理学部の才女だもんねぇ」

「だもんねぇって、本当に分かってるの?」

「はいはい。でも小梅がカワイイのも事実よ?」

「可愛くて悪かったわね! どうせ私は幼児体型な上にチンチクリンですよ!」

「うふふ。怒った顔もかーわーいーいー」


 この人。絶対に私の話を聞いてない!


「いいわよ。どうせ私は科学と共に生きるんだから!」


 カワイイもステータスになるなら甘んじて受けてやろうじゃない!



「お疲れ様でしたぁ」

「はいよ。おつかれぇ。立花ぁ、気をつけて帰れよぉ」

「はぁい」


 二一時三二分かぁ。少し遅くなっちゃった。


 コンビニのバイトを終えた私は一人暮らしをしているアパートへ向かう。繁華街を抜けて住宅地へ。


「この辺の夜道ってば暗くて嫌なんだよなぁ……」


 怖くて独り言を呟く。手にはスマホを持ち、何かあったらすぐに通報できるように警戒もしていた。でも自宅がもうすぐ目の前という所まで来て、少し油断をしていたようだ。鍵を取り出すために視線をバッグに向けた瞬間。そんな私を突然、背後から襲う人物がいた。


 前方へ突き飛ばされて地面に手を付いて倒れた私の背中をさらなる衝撃が襲った。燃えるような痛みが背中に走る。


「なに?」


 身体をよじり見上げた先に居たのは、同じ大学の学部に通っている男の人だった。名前なんだっけ?


 場違いな感想が頭の隅に思い浮かんだ。


 そんな私に構うこと無く、男は荒い呼吸を繰り返しながらニタリと笑ってこう呟いた。


「小梅ちゃんが悪いんだ。ボクのことを無視するから! だから、だから。ボクを無視できなくしてあげる!」


 そう言って彼は両手を振り上げた。その手の先にあるのは一本の包丁だ。


「小梅ちゃんは永遠にボクのものだ!」


 そこで私は両手で頭と顔を庇うと同時に目を閉じた。しかし両手は払いのけられ、そしてその直後にドカッという衝撃と痛み。呼吸ができなくなった。とても、苦しい。


 しかしそれも、そう長くは続かなかった。


 すぐに私の意識は深い闇の底へと沈んでいったのだった。

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