第10話 変貌

 夏妃さんの行動を他の参加者は唖然として見守っていた。

 見られているから緊張する。

 だからそれを見え無くしようって単純明快な行為。

 一理ある。あるけど、それで簡単に唯さんの緊張が解けるなら苦労はない。

 そう思った。


 だが、唯さん自身何か思うところがあるのか、一理あると思ったのか、被り物を取ろうとはせずしばし沈黙。

 クマのか被り物をしている唯さんはなんだかシュールでかわいらしくもある。


 というか、それじゃあ事件のファイルも見えないだろう。

 キャラの確認とかもできないんじゃないか。どうするんだろ?


「……さ、先ほど幼馴染の彼が言ったように、マネージャーさんなら誰にも気づかれずに真央さんをあやめることは、可能ということとわたくしは解釈しました」

「そ、そんな、確かにアリバイはあってないようなものかもしれないけど」

「そう慌てずに。このいまわたくしが被っている被り物、これってイベントの余興に使われてたものですわね」

「えっ、ええ……」


 被り物の効果なのか、唯さんは滑らかな口調で話し出す。

 それだけでなく、なんだか演じるキャラを理解したうえで自然と振る舞いも上品さが出たように、背筋がピンと伸びた気がする。

 しずくというキャラの癖なのか、事件の概要を整理するかのように時折指を鳴らし、頭に刻み込んでいるかのようだ。


「パンフレットにはこの着ぐるみを着た従業員さんが旅館の説明していますから、これはいつも置いてあるということでいいのかしら?」

「はい。普段は倉庫に入ってるんですけど、誰かがそこに置いておいたのかもしれません」

「普段と違うということが、重要な事柄というのはよくありますわ。犯人はこの着ぐるみをカッパ代わりにして外に出たのかもしれませんわね? 外側はまだ乾ききってなくて湿っているようですし」

「「っ!」」


 やり取りを重ねるごとに、演じているキャラが憑依していってるんじゃないかと錯覚する。


「すごい……」


 突然変貌した唯さんを見ての唯さんの感嘆の声が漏れ聞こえた。


(今日の方がよりすごいけど、あの時も……)


 盗撮写真の謎を解こうとしてた時もなんだか独特の雰囲気があった。

 あれは唯さんが誰か女探偵をイメージして作り上げたものなのかもしれない。

 先日、マダミスをプレイした時もいつもとは別人で活き活きとしていた気がする。


「さて、聡さん。幼馴染のあなたなら、ここまで出そろえばこの事件の真相をだいぶ掴んだんじゃなくて?」

「えっ、ああ……そ、そうですね。だいたいのことは……」


 唯さんに見惚れてしまっていた俺は、突然演じているキャラの名前をいわれマダミスの物語に引き戻された。


「先ほどまでと同じように、どう解釈しているのかわたくしたちにご説明くださるかしら?」


 唯さんの豹変された姿に他の参加者は置いて行かれないように引っ張られていく。

 緊張を解いただけでこうも変わるのか。

 というか、あんな簡単な方法で緊張解けるんだな。

 唯さんが特別なのかもしれないけど、話に入りやすいように上手く話題を振ってくれる。

 この解き方なら、俺が変に目立ったりすることはない。


 存分に解いてくださいと着ぐるみを頭だけ着ぐるみを被った唯さんが言っている気がした。


(ああ。そっか……)


 解くことで誰かが救われるそんな謎もある、のかもしれない。

 謎をどう解くのかも重要なんだ。人を傷つけないように、巻き込まないように解くやり方がある。

 あの時も、解き方を間違えなければ違った結果になったのかもしれない。


 少なくとも緊張はすぐに解いてあげていれば、最初から唯さんは楽しめただろう。

 

「――では皆さん、ここまででこの事件を解き明かせる材料はそろいましたか?」


 いつの間にか唯さんは被り物をとっても緊張はしていない。

 暑かったのか額には汗が少し滲んでいて、ほほはピンク色に、その瞳はうっすらと輝いているようで表情に充実感が漲っていた。


「「……」」


 目が合うと軽く頭を下げられる。

 先ほどまでとは本当に別人だ。

 緊張を解いただけでこうもいきいきとなれるなんて……。

 誰かが救われると思うなら、俺も……。

 唯さんの大活躍をみて、心の底からそう思った。

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