第34話デートではありません

 


 独身貴族の財力をフル活用してお一人様してた私は、一人で過ごすことに長けていると思うのよね。


「ちゃんと休みを満喫するから安心して、私のことは気にせず、恋人を優先してね」


「恋人?」


「いないの? そんなにイケメンなのに」


「イケメンの意味をそろそろ教えて頂きたいところですね」


 その顔があれば、恋人の一人や二人――いや、五人に六人は出来るかも! いや、何股もする男なんて最低だけど。


「フィオナ様は、こんな激務な職場でどうやったら恋人が出来ると思います?」


「……ごめんなさい」


 そうよね、私と同じ仕事量ということは、毎日、朝から深夜まで働いているものね。しかも住み込みで。社畜時代よりマシとは言え、恋人を作れるかと聞かれれば、無理って答えるわ。


「ですから、今日はフィオナ様が俺に付き合って下さい。デートが嫌なら、監視役と思って頂いて構いませんよ」


 そう言われると、断れないんだけど……貴重な休日まで上司と過ごすなんて、苦痛じゃないのかしら? 

 別に、お一人様じゃなきゃ嫌! ってわけじゃない。ただ、同年代の友達は気付いたら結婚してるし、子供はいるし、誰も相手にしてくれなくなったから一人で過ごしていただけで、誰かと過ごす休日も、嫌いじゃない。


「分かったわ」


 昔、職場の若い女の子から、『えー、彼氏がいても男友達と二人っきりで出掛けたりもしますよー。私、先輩と違ってモテるんでー』とか聞いたことあるし、私が深く考えているだけで、男の人と二人で出掛けるなんて、きっとたいしたことじゃないのね。考えてみれば、アルヴィンとはいつも仕事で一緒だし。

 一人でデートの単語に浮かれちゃって……恥ずかしい。


「どこか行きたい場所はありますか?」


「私がアルヴィンに付き合うのに、私の行きたい場所でいいの?」


「ええ」


 あれね、アルヴィンは私と違って、おひとり様が満喫出来ないタイプなのね! だから、私との休日を渋々選んだんだわ、納得。


「じゃあ、買い物に行ってもいいかしら? 色々とお店を見て回りたいの」


「分かりました」


 思いがけない休暇だけど、皆の好意に甘えて、思う存分、満喫させてもらいましょう。


 町の視察は何回もしているけど、こうして自由に町に並ぶ店の中に入って買い物をするのは初めて。仕事では、こうやってゆっくり商品を見るなんて出来ないものね。

 お店を回り、普段お世話になっているお礼も兼ねて、カロン、イリアーナ、使用人達へのお土産を探す。


「ジェームズはこれにしましょう」


 手に取った万年筆は黒を基調とした落ち着いたもので、ジェームズの雰囲気に合う気がした。既に沢山入ったカゴの中に、万年筆も追加する。


「アルヴィンは何か欲しい物はない? いつものお礼に、何かプレゼントするわよ」


「フィオナ様は変わっていますね、普通、男性が女性に贈り物をするのでは?」


「そうなの?」


 男の人からプレゼントを貰ったことがない私には、未知な常識だわ。


「俺は今日のデートで充分なので、お気になさらず」


「デートではないんだけど」


「ああ、そう言えばそうでしたね」


 そう言ってさりげなく私の荷物を持ってくれるアルヴィン。おお、これが本物の男前! こういう事をサラリとするから、アルヴィンはモテるんでしょうね。激務で恋人が出来ないと言うけど、仕事の合間にも、何度も女性から声を掛けられているのを目撃してる。


「他人の買い物ばかりですが、フィオナ様は何か欲しい物はないんですか? 服やアクセサリーは?」


「私? そうね…………」


 前世では限られた睡眠を大切にするべく、寝具に良い物を揃えたけど、今世は既に良い物を使っているし……服? スーツの出勤を良いことに私服を全く買わなかった私が、欲しいわけがないわ。アクセサリーも服同様、興味がない。私、何にお金を使ってたのかしら? そうだわ、老後のために、貯金してた! 一人で生きていく覚悟を早い段階から決めてたから、大部分を貯金に回してた! あんな中途半端に死んじゃうんなら、もっと使っとけば良かったーー! ああ、でも忙し過ぎて使う暇なかったわ!


「フィオナ様? どうしました?」


「大丈夫、ちょっと思考が脱線してただけよ。えっと、欲しい物よね、欲しい物、欲しい物……」


 急に言われても思い付かないけど、折角だから、私も何か買いたい。思案すること数分、私は遂に欲しいものを思い付いた、というか、すっかり忘れていたわ。これを買わずして、町に来た意味は無い!


 それは時間があれば必ず立ち寄ってしまう、小麦の美味しい匂いが溢れるお店――



「あ、フィオナ様じゃないですか! いらっしゃいませ! 丁度、ついさっき出来上がったパンがありますよ!」


「本当? 嬉しいわ! アルヴィンも食べる?」


「……頂きます」


 思案のすえ思い付いたのは、お気に入りのパン屋で、私は早速、出来たてのパンを二つ注文した。すっかり顔見知りで、私が訪れると、こうして出来立てのパンをオススメしてくれる。


「あれ、アルヴィン様と二人って……まさか、デートですか!?」


「正確に言うとデートでは無いわ。私はまだ不本意だけど既婚者ですし、アルヴィンの休日に付き合っただけよ」


「それをデートって言うんじゃ……いえ、何も無いです」

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