第12話 見学2
カイバルは俺たちに部屋を用意してくれた。二人相部屋だったがかなり豪華なものだった。中世チック(異世界的とも)な装飾だが、照明なんかは電気を使っていたし、クーラーもついている。そしてもちろん盗聴器も。
この「ハコニハ」の科学レベルはどうも俺のいた世界に匹敵しているようだ。中世はもう懐古的なものになったんだろう。
「やはり戦況はカイバル優勢みたいだな」俺がつぶやく。
するとマオが反応した。
「カイバルが私たちに見せたのはあっちに都合がいい情報だけだろう。私たちを仲間に引き寄せようとしているんだ。カイバル側が劣勢!みたいな情報は渡さないだろう。それを証拠に連邦相手の報告は長く詳細だったが、レジスタンスの報告は短かった。私たちの奪還のために奇襲があったことも触れられていなかったしな。多分手を焼いているんじゃないか?」
マオの分析は冷静である。こいつ脳筋で喧嘩っぱやい奴だと思っていたが頭が切れる。
「確かに、不利になる情報を渡すわけないか。こっちを味方にさせようってんだから。」
俺はベットに座ってそう言う。マオは横たわっている。フカフカだ。
「しかし、戦争をしているんだろ。なんだあの会議は。戦いは命がけだ。お互いがその生命とその属する共同体の存亡をかけているんだろう。なのにあの部屋にいた奴らはそんな危機感を感じない。淡々としてる。なぜあんなに落ち着いていられるんだ?」
「戦争の規模が大きくなりすぎてるんじゃないか。奴らの隣じゃ銃弾は飛び交わない。きっと現実感が薄れていってるのさ」
「ふん。現実感ね」マオは言う。
「私は寝る。迎えが来たら起こせ」マオはそういうと一瞬で寝てしまった。肝っ玉もすごいんだな。俺はお茶が飲みたくなり湯を沸かす。
現実感か。俺にだってそんなものはない。この世界、「ハコニハ」に来てからもう三日だ。最初の戦闘がウソみたいに今は平和。だがこの世界では戦争をやっている。そんな気配は感じられなかった。
しかし俺も人を殺してしまった。それは現実に起こったことだ。ならべく考えないようにしたいが・・・。
どうにもならない。身を守るためだったとはいえ殺しは殺しだ。これらかも戦うのなら殺すしかなくなる。背負うしかないのかも。
そんなことを考えつつ茶を飲んでいると迎えが来た。マオを起こす。
城の外に出るとジープに乗せられた。城壁の外に出てしばらく進むと何度もでかいトレーラーやトラックとすれ違う。トレーラーには戦車や装甲車なんかが乗っていた。
「あのトレーラ―に乗っている戦車も今から見学する工場で作られた物です。あそこでは大多数のラインで戦争物資を作っています。銃弾や兵器をね。今は戦時ですから軍需優先なんですよ」ハンドルを握るブラルが言う。
森を抜けると不自然に広い平原に出た。おそらく木を切り倒して開発したんだろう。・・・なんかすごい規模だ。いきなり大砂漠に出たように視線を遮るものがなくなった。いやよく見ると無造作に切り倒された木が積み上げられ、放置されていた。向こうの方では作業員の一団が伐採をしている。環境に配慮した開発はしてないみたいだ。
「こんなやり方じゃ、いつかしっぺ返しを食らうぞ」マオが言う。
「誰に返されるんでしょうか?自然に意識など有りません。連邦軍にも共和国軍にもそんな実力はないですしね。もちろんレジスタンスにも」
マオは何も返さなかった。呆れたのか、それとも他の事を思ったのか、俺には分からなかった。
つづく
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