白雪姫を助けたらいつの間にか逃げられなくなっていた件

ronboruto

第一章-プロローグ

第1話【ちょっと素っ気ない出会い】

「…………はぁ」

音花新は溜息をつきながら学校からの帰路を歩く。

 高校二年生の四月。高校受験からもう丸一年経ったということに絶望している。

高校卒業の後、つまり進路のことを何一つ考えていないのだ。

早いかもしれないが、遅いかもしれない。卒業という曖昧な期限の付いた宿題は、新の肩に重くのしかかっている。

「…………」

ふと空を見上げると、きれいな夕暮れが見えていた。

部活終わりの帰り道はだいたいこんな感じだが、それでも綺麗だと思う。

明日も変わらない景色、変わりそうで不変の毎日。

「……辛いな」

ポロッと口に出た言葉は、誰にも届かない。

新は一人で帰っている(友達はいるが同じ方向ではないため)。

それは、夕陽に気を取られていた時だった。

とん、と。新に人がぶつかった。

「あ、すいません…………」

謝りながらその人の顔を見ると、

「い、いえ、こちらこそすみません」

青みがかった黒髪、そして雪のような色をした瞳の少女。身長は百五〇程度。

「…………」

思わず見とれる程美しい、というか可愛い。その少女の名前は、もちろん知っている。

「…………?」

「‥‥初めまして」

「…………初めまして」

白雪六花、新の高校で【白雪姫】と呼ばれている女子生徒だ。

(俺とは違う、一軍女子ってやつか…………)

その手には買い物袋(マイバック)が握られている。買い物に行くところなのだろう。

「…………じゃあ」

 新は特に会話する気もなく立ち去る。

「それでは」

白雪も同様だ。互いに反対の方向へ進んで行く。

「…………ただいま」

 誰も答えない。

マンションに一人暮らしの状態だ。自分で言うのもなんだが家事スキルは高い方である。

親に頼んでここを貸してもらっている。2LLDKの部屋。

ここは昔親父が買っていた部屋だ。一括払いだったらしいが。

今日は部活で疲れたので簡単な食事にしよう。

卵をボールに割って鰹節、出汁と入れたら三十分寝かして。

味噌からお味噌汁つくって。

炊いておいた米を注いで。

寝かした卵をスクランブルエッグにして完成。

この程度の料理なら毎日だ。


食べ終わったら食器を洗って、洗濯物を取り込んで畳んで。一通り終わったら授業の課題と復習をして。それも終わったら少しベッドでゴロゴロと。

風呂を沸かして、入ったら歯磨きして、ベッドで暇をつぶす。

今は夜九時三十分。まだ寝るには早いな。

…………可愛かったな。

白雪さん、学校で何度か見たことがあったけど……近くで見るのはやっぱり違った。

(…………【白雪姫】、ねぇ…………)

誰でも知ってる、グリム童話。

魔女の毒林檎で死んでしまった姫が、王子様の接吻で目覚めるって話。

まあ、所詮童話なのだが。

…………だけど、それを現実の女の子につけるのはどうなのだろうか。

(天才だからこその孤独とかありそうだな)

 あの人にも、王子様とか現れてやればいいのに。

もしくはもう王子様いるのかも。

それはそれでいいかもな。そしたらあの人のファンも距離を取るだろう。ただ秘密にしてたら意味ないけど。


そんなことを考えているうちに、新は眠りに落ちた。

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