顔の良すぎる幼馴染と、気づいたら朝チュンしてた件
星光音音
第1話 え、なんだって?
「――あたし、伊織のこと好きだから」
「……は?」
それは、いつも通りの夜だった。
僕、
学校から帰り、着替えて、漫画を読んでうだうだして。
やがて隣に住む幼馴染が夕食を作りに来て、一緒に食べる。
そんな何年も繰り返しているルーティン。
変わり映えがなさすぎて、僕の青春これでいいのか? とさえ思っていた。
なのに。
「……なんて?」
今耳にした言葉が信じられず、問い返す。
テーブルを挟んで目の前に座る幼馴染の少女は、いつも通り感情の読めないポーカーフェイス。
「だから、伊織のこと好きって言ったの」
パチン、と綺麗に箸を並べて、こちらを真っ直ぐに見つめてくる。
長いまつ毛、大きな瞳。
艶のある黒髪ロングに、驚くほど小さな顔。
……相変わらず、見た目だけは無駄にいい女だ。
それをこいつも十分承知していて、ことあるごとに見せびらかしてくるのがうっとうしい。
……いやそんなことはいい。
「……ふむ」
僕は腕を組んだ。少し落ち着こう。
彼女は僕を好きと言った。では、”好き”とはなんだ? likeなのかloveなのか。あるいはgap(隙)ということもありうる。
いやむしろ、ここでいう”すき”は何かの隠語かもしれない。
彼女は僕に何かを要求していて、しかしそれを直接伝えることはできず、婉曲的な言い回しをした可能性がある。
昔から何考えてんのか分からん女ではあるが、これでも僕は十年来の幼馴染。
死ぬ気で頭を絞れば、きっと答えに辿り着けるはずだ。
彼女の目を見ろ。呼吸を探れ。視線の動きから重心の移動まで、何一つ見落とすな。
考えろ。彼女は僕に何を求めている……!
加速する思考。かつてない集中力。今僕は、間違いなく”ゾーン”に入っていた。
そして、ついに導き出した答えは――
「――なるほど。分からん」
それに尽きた。いやだって何よ好きって。
今までそんな素ぶり全くなかったじゃん。いきなり言われてもわけ分かんないよそんなの。
説明プリーズ。と目の前の幼馴染の顔を見つめると、彼女ははぁ……と深いため息をついて。
「あたしは伊織を愛してる。英語で言うと"I love you"。おーけー?」
「……お、おーけー……」
聞き間違えではなかった……聞き間違えであって欲しかった。
なにこの急展開。予想してない。だってさっきまでいつも通りだったじゃん。
幼馴染と食べる夕食。相変わらず美味しい手料理。
中学の頃から、ずっと繰り返してきたのに。
なぜにいきなり。
「……えっと……どうしたの? なんかあった?」
とりあえず事情を聞こう。話せば分かる。なにせ僕らは霊長類の頂点。言葉があるのだから。
聞くと、彼女はうん、と小さく頷く。
「今日、告白されてたでしょ? クラスの女子に」
「……え」
告白。そう言われて思い出す。
確かに今日、僕は学校で告白された。
クラスでも結構仲の良かった女子。顔もそれなりに可愛くて、何より……
「おっぱい、大きい子」
そう、実に柔らかそうでハリのある……って違う!
「いや待て。なぜ知ってる」
「なんでって、うちのクラスの大半は知ってるんじゃない?」
「……うそぉ」
恐るべし。高校生の情報網。
ネットやSNSの普及により、個人のプライバシーは稲妻より早く駆け巡る。
一度流出したらもう戻れない。一寸先は闇。これぞ情報社会の怖さである。
「で、一応断ったのも知ってる」
「あ、はい」
うん、確かに断った。断腸の思いで。
あれだけ可愛くておっぱ……スタイルのいい女の子からの告白。
男子高校生がそれを断るのに、どれだけの精神力を要したことか。
今からでも戻れるなら戻りたい。ああ、僕はなんてもったいないことを……
「だから、そろそろやばいなって」
「……なるほど……なるほど?」
やばい?
首を傾げる僕に、もう一度ため息をつく彼女。
「取られるでしょ。早くしないと」
「ああ……」
そういうことか。女っ気のない僕が告られたのを知って、焦ったと。
いやそんなこと言ったら、そっちは何人に告られてるんだよ。
既に学年の男子の八割くらいに告られてんじゃねーか。アイドルかお前は。
「まあ、話は分かった」
「うん」
「それで……えっと?」
……どうしよう。こういう時、どうしたらいいんだ?
だって僕らは幼馴染。兄妹……姉弟? みたいに育ってきた。
それをいきなり。もうちょっとこう、順序とか。あるじゃん。
「返事」
「……は?」
「あたし、告白した。だから返事」
「ああ……」
うん……そうだな。それはそうだ。
告白されたなら、返事はしないと。義務である。
致し方なし。と僕は居住まいを正して。
「えっと……僕も好きです。よろしく」
「ん」
頷かれる。……え? 終わり?
僕は唖然とした。嘘やろ。
これ、付き合うことになったの? 告白ってこんなだっけ。
もっとこう、『愛してるわロミオ!』 『僕もさジュリエット!』みたいな……なんていうか、熱量、とか。勢い、とか。
そういうの、大事じゃない? こんなぬるっと始まるの? マジで?
「……これ、付き合うことになったの?」
「うん」
「……これから僕達、彼氏と彼女?」
「そう」
そう。そう、かぁ……
うん、よく分からんけど、彼女か。
目の前にある、親より見てきた顔を見る。
多分見た回数は食べた米粒より多い……嘘、ちょっと盛った。
だが何度見ても、まるで飽きない美しさ。
大きな宝石のような瞳。すっと通った鼻筋。小さく艶やかな唇。
……見慣れないんだよ全然。なんでこんな無駄に美人なんだよクソが。
女優にでもなってろ。ラブシーンとか絶対認めないけど。
「じゃあまあ……今後ともよろしく」
「うん」
頷くと、彼女はなぜか席を立った。
……ん? もうお開き?
いやいいんだけど。せっかく付き合うことになったなら、もうちょっとこう……
そんなことを考えていると。
「……」
「え……え?」
なぜか彼女は、ぐるっとテーブルを回って僕の目の前に立った。
上から見下ろしてくる絶世の美女。アホ面で座ったままの僕。
すっと手が伸びてくる。叩かれる!? と思ったが、そんなことはなかった。
頬を撫でられ、顎を指で持ち上げられる。
……いわゆる、顎クイ。
そして。
「……ん」
「……っ!?」
ふにっと、唇に柔らかい感触。
次いで、ちゅっ、ちゅっ、と水音が聞こえる。
……え、ナニコレ。
意味分かんない。唇めっちゃ柔らかい。
知能指数の低下を感じる。何も考えられない。
そのまま十数秒ほど唇を食まれ続け、そして。
(……っ!?)
ようやく我に返った。キスじゃんこれ。
慌てて離れようとする。だが。
「んぅ……」
両頬を手で捕まれた。離れられない。
しかも、こいつ。
「ん……」
「ん……んん!?」
舌入れてきやがった。ありえない。そのままぺろぺろと口内を舐められる。
初めての感触。なんかヌルッとしてて、甘い。
これが僕のファーストキス。多分彼女もファーストキス。
それがこんなえっちなのはいけないと思います……!
「……ん-! ……んんぅ! (訳:おい、一旦離せ!)」
「……んー(訳:やだ)」
やだ。じゃねえよ。人の口元唾液まみれにしやがって。気持ちいいなくそう。
そのまま体感で三十分ほど。ひたすら唇を貪られ続け、やがて。
「……ぷは」
満足。とばかりに唇を離された。
「……ぜー、ぜー……」
息継ぎも上手くできず、僕は息絶え絶えだった。
彼女は、そんな僕を見て。
「……これから、毎日するから」
「……毎日、するのか」
次までに、鼻呼吸を極めておこう。
僕はそう心に誓った。
でもとりあえずは満足してくれたらしい。
よかった。そう思ったのも束の間。
「……あ……」
小さく、つい漏れたような声。
彼女を見ると、なぜか一点を見つめて顔を赤くしている。
え、なんだ? と視線の先を辿ると……
「……あ」
……そこには、こんもりとしたお山が。
そこで僕は、自身の失態を悟った。
——しまった。今僕スウェットじゃん。
ジーパンなら留められた可能性はあった。しかし、スウェットではもっこりを抑えられない……!
存在を主張するお山を、無表情でじっと見る幼馴染。
……やめて、そんな見ないで。大体悪いのはそっちじゃないか。
「……」
「……」
俯く幼馴染。俯く僕。
そして、未だこんもりとしているお山。
「……興奮、したの?」
「……まあ」
そりゃだって、するでしょ。初めてであんなエロいキスされたら。
ましてそれが、見た目だけは無駄に良すぎる幼馴染で、好きな子なら。
「そっか……じゃあ、しょうがないね」
「うん、まあ……」
何が”しょうがない”のか。何が”まあ”なのか。
分からないが、とりあえず早く一人になりたい。
僕、お部屋帰る。とばかりに席を立とうとすると。
「……」
「え……?」
すっと手を握られた。
幼い頃から、何度も握っていた手。
けれど中学に上がる頃から、それもなくなった。
滑らかで、少し冷たい感触。
最後に握ったのは、いつだったか。
「……いこっか」
「え……」
どこに? そう聞く間もなく、手を引かれる。
向かった先は、僕の部屋。
入って、ベッドに向かって。そして……
……チュン、チュン。
「……」
気づいたら、いつの間にか朝になっていた。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
あとがき
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