第14話・隠し事はなしなし
「こんなんじゃ駄目だっ!!」
翌日。
今日も今日とて美術室にテルの叫びが上がった。
コンクールの期限まで時間は無い。
そんなことはテルも重々承知している。
だが、キャンパスの中の少女が何処かイメージと違うのだ。
下書き段階の薄い鉛筆で描かれた世界とはいえ、ここで魅力が発生しないようでは完成させてもつまらない絵になる。
(何がダメ? 何がいけないの?)
キャンパス内のココロとモデルのココロを交互に見る。
(自分で言うのもなんだけど、上手く捉えられてる。つまり悪いのは――)
「お前だっ!」
「うぇい!? 何が!?」
突如描き手に指を差され、
「モデルが悪いっ! つまらん! ゴミ!」
「いきなりのディス!? 何でぇ!? あーしの何がダメか説明求む!」
「全部!」
「全否定はギャルのメンタルでも泣くんじゃが……」
「強いて言うなら顔っ!」
「一番重要なところなんじゃが!?」
額面通りに受け取ったギャルがへなへなと机の上に突っ伏す。
まるで真夏に冷たい地面を求めて体を地面にくっ付ける、わんこのようだった。
「なんか違うんだよね。ココロはまだまだ頑張れる気がする」
「そんな3年A組熱血せんせーみたいなこと言われてもー」
(初耳だし、知らんがな)
彼女のぼやく理由は分かる。
要はテルの言っていることが抽象的過ぎるのだ。
これは理論派であるココロと、芸術肌であるテルの違いだろう。
(惜しいんだよなぁ。もうちょっとなんだけど)
勉強するギャル。
おちゃらけたイメージあるギャルが真面目に勉学に勤しむ様子は、題材として中々に面白い。
またココロ自身が勉強するタイプだけあって、違和感も無い
(でも、今のココロは駄目だ。使い物にならない)
何が、とは言い切れないが不足している感がある。
ピースが全て
(ココロ、もしかしてアタシに対して心を開いてない?)
こんなにも自由気ままな様を見せられているというのに、だ。
しかし目の前で横たわる少女の本質が『計算高い』となると、話は変わってくる。
さらけ出しているようで、大切なところを隠している可能性があるのだ。
(普通なら気にしない。誰にだって触れて欲しくないことの一つや二つはある。だけどさ)
絵に人を誘惑させる魔力を宿すには必要なことなのだ。
「ココロさぁ」
やんわりと話を切り出す。
彼女は「んー」と、情けない声を出してこちらを向いた。
「なん?」
「ココロってキャラ作ってる?」
途端、ココロの上半身が大きく後ろに仰け反った。
「んな訳あるかーい! あーしは魂までギャルだし! 舐めんな!」
椅子の背もたれに背中をしならせた姿勢で、思い切り怒られた。
真面目な顔つきなのに見た目は馬鹿っぽい
(これは真面目な叫びっぽい。じゃあ、別のところか)
冷静に分析を続けながら次の策を考える。
限りなく酷いことをしているような気もするが、絵のクオリティには代えられない。
「ごめん、言い方変える」
「愛の告白ならストレートで頼むZE!」
「話す内容までは変えないって」
「ありゃりゃ。
目をつむり、ギャルにバレない様に小さく深呼吸。
そして意を決すると、テルは言葉を紡いだ。
「アタシに壁作ってない?」
ココロの目が見開く。
やはり自分でも感じているところがあるようだった。
「何でそう思うん?」
「何となく」
本当にそうなのだからこう答えるしかない。
が、納得してくれたのか、彼女は椅子ごとテルの近くに寄ってきた。
「やっぱ絵描きのスーパーアイには敵わんかー」
「当たってるってこと?」
「うん、合ってるよ。あーしはテルに隠し事してる」
きっぱりと告げられる。
まさかはっきり言ってくれるとは思わず、おかげでテルの方も目をぱちくりさせてしまった。
「それなら隠してること教えて。じゃないと、絵が面白くならない」
「テルって絵のことになると
(もしかして馬鹿にされてる? まあいっか)
「でーもテルのお願いでもヤダな。ぜってードン引きするし」
「そんなの聞いてみないと分かんないよっ」
強い眼差しで伝える。
無茶なお願いをしているのはテルも理解している。
その上で話してほしかった。
「じゃあさ」
言い辛そうにあらぬ方向を見ながらギャルが切り出す。
「テルっちが美術室にこだわる理由を教えてくれたら良いよ」
「え……」
「テルのことも教えて。それでイーブン」
「アタシのこと……」
それこそ気分の良い話ではない。
(どうしよう。ううん、居場所の為だもん。勇気出せアタシっ!)
「いいよ。でも面白い話じゃないからね」
「うん、それでも聞きたい。テルのこと知りたい!」
曲げた両腕を前面に押し出してくる。
テルはそれを見て、気持ちを整えるためにそっと胸に手を当てた。
心臓の鼓動の大きさは普通。
自分が思っているよりも意識していないことの証明だった。
「アタシの両親さ、アタシが小学生の時離婚してるんだ」
(こんなこと人に話すの初めてだ)
テルは自分の変化に戸惑いながらも、自らの境遇を言葉にし始めた。
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