第4話
【気泡がある程度出す】
あの一夜から数日。私は康太の勃起不全の治療として、体を貸し出した。週に2、3回、ホテルで。康太の言い分だと、だんだんと彼女とセックスレスが解消され、営みができる回数が増えていったが、まだ折れてしまいがちらしい。私はセックスよりも、幼馴染と一緒に過ごしていることに幸せを感じていた。これは不倫だとわかっていつつも、康太の彼女さんも喜ぶなら、一石二鳥だ。
治療を済ませ、ホテルを出た。何となく話したい、と思い立い、思いついたことを語った。
「最近さ、近所の高校が制服をリニューアルしてて、スカートとズボン両方選べるようになったんだけど。私思うことがあって。あれって学校側が、多様性を尊重するためとか、ジェンダーのためとかだ、と思うけど、それってズボン履いている女子が、LGBTだと思われるのが嫌で、敬遠されるような気がして、何も変わらない気がするんだよね。なんか、特定の属性の人だけが対象になってて、逆にラベル化しちゃって、多様性の意味は? ってなっちゃうんだけど。配慮する段階で萎縮しちゅって言うか。逆に配慮しないのが、本当の配慮っていうか」
「唐突すぎない。なんか、リンリンのママに似てきたんじゃない」
「そう?」
「うん。話すないよ––」
「康太!」
新宿2丁目のビル群に鳴り響く、幼馴染と同じ名前。音のがする方へ視線を移すと、そこには1人の女性がいた。
「康太。最近変だと思ったら、こんな奴と会ってたの」
康太は、彼女さんの方へ駆け寄る。
「たまたま幼馴染と会ってて、それで––」
「言い訳しないで、何回もあの人とホテルに入って行くところ見てるんだから。ほら、これ写真」
「別れない。あなたが不倫するような人間だなんて、信じたくなかったけど、仕方がないよね」
「待って。これには理由があって」
「理由?」
「最近、営みする回数増えてきただろ。それは、あの人のおかげで、そもそもあの人は、女性じゃ無くて、男性だから」
「はあ、何それ。私じゃあ、EDは治らないってこと。男とヤる方がいいってこと。だったら尚更別れよ。前々からあなたには、嫌気がさしてたの。毎晩その萎えチンのために裸になって、気持ちよくないセックスして。最近セックスする回数増えてきたと思ったら、男と寝てる。ふざけんなよ! 私がどんな想いで……。今まで、あなたと」
言い合いをしているのを、遠目で見ている私。ボルテージが上がっているのが、離れた場所にいてもわかる。
「私がこれまで……どんな気持ちで過ごしてたか。返してよ、私の人生!」
包丁は康太の腹部に刺さり、悶えていた。彼女さんは涙を流しながら、無表情で腹部から包丁を抜いた。
「きゃああああ〜」無意識に肺に空気を吸い込み、腹の底から声が出た。周りの野次馬たちが彼女さんを取り押さえる。
「離して! あなたのためにAV女優になったのに、意味ないじゃん。もう1人のクソも殺す」
「おい、言ってるんだ。暴れるな」数人がかりで、彼女さんを地面に伏せさせる。
「しっかりして」私は康太の手を握る。
「め……い……」康太は掠れた声で、私の名前を呼ぶ。
「あゝ、そっか。私のことより、あの阿婆擦れ女のことが好きなんだ。––さよなら」
彼女さんは口を開けたと思いきや、舌を出し、思いっきり噛んだ。
「おい。この女舌を噛んだぞ。誰かタオル」
彼女さんの口からは、止め処ない量の血が垂れ落ちる。
「ははは」舌を噛み切ろうと顔の筋肉を強張らせる恵み。
周りは騒然としており、私は意識消えゆく康太の名前を、呼び続けるしかできなかった。
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