ジョレイエム
おハロー
第1話 除霊師
福岡県丸々市山河区にて
除霊対象の霊体を確認。
怪異化が進んでおり速やかな除霊が必要と判断。
除霊師『
八重山 莉瑚からの救難信号を確認しました。
「なんで俺がこんな廃墟なんかに…」
山河高校新聞部一年の
老朽化が進み今にも崩れそうな建物と無駄にセンスのある落書きが異様な空気感を漂わせる。
「いくらなんでも一人でこんなとこに行かせるなんてどうかしてるよ」
手には小さい懐中電灯と幽霊を写してこいと持たされたデジカメ。
怖がりながらも柚月は廃墟の中へ中へと進んでいった。
こんな状況だからだろうか常に誰かに見つめられているそういった気分に駆られる。
「早く写真撮って帰ろう」
そう呟くと急ぎ足で廃墟の中を回って行った。
一通り回り終え、このスポットで霊の目撃情報が一番多い大広間を残すのみとなった。
震える足で大広間に入ろうとしたその時何か遠くの方で黒いものが見えた。
まさかまさかと思いつつも何故か怖がる心とは裏腹にその黒いものへ足が進んでしまう。
一歩一歩近づいていきだんだんとその正体がうっすらと分かってきた。
その黒いものは血だらけの女だった。
「で、でたぁぁぁぁー!!」
本当の恐怖を味わった人間とはすぐに逃げるのでなく腰が抜けてその場から動けなくなってしまうものだ。
柚月も例外ではない。
その場から離れたいが立ち上がることすらままならない。
そして柚月の目はじっとその女を見つめている。
そこである疑問が浮かび上がる。
幽霊ってメガネを掛けるの?
血だらけの女は間違いなくメガネをかけている。
あぁでもメガネに未練がある幽霊なら掛けるかもな。
メガネに未練ってなんだよ!?
ぐるぐる一人水掛け論の最中にか細い声が聞こえてくる。
間違いないこの女からだ。
「ギャーギャーギャーギャーうるせえなぁ。最期くらい静かにさせてくれ」
「な、な、な、なんなんだ、あんた。幽霊それともメガネをつけた幽霊?」
「どっちも幽霊じゃねぇかよ!ーーッあんま大声出させるなよ。痛てぇんだから。まだ生きてる、まだな」
「生きてる……生きてんのか!あ、あ、じゃあ救急車!救急車を呼ばないと」
「呼ぶな、呼んだって変わら……」
その時だった。
辺り一面を震わせるようなけたたましい音とともに廃墟の壁を壊して巨大な化け物が姿を現した。
その化け物は全身が白く天井を裕に越す大きさに太く長い大木のような腕をしている。
顔らしき部分には目や鼻はなく唯一ある大きな口は不敵な笑みを浮かべている。
「逃げろっ!!」
「何だよあれ!!」
「いいから逃げろ!」
柚月は震える体を必死に堪え女を抱えようと試みる。
「お前、何してんだよ」
「何って、あんたそれじゃ逃げれないだろ」
「ウチはいいからお前一人で逃げろ!」
「でも、もうあの化け物が追ってきてるんですけどぉぉ!」
おんぶの様なかっこで女を抱えて今持てる全速力で廃墟を走る。
だが、歩幅の差は大きく軽い小走りで化け物は柚月を射程範囲内に捕らえた。
大きく振りかぶり柚月目掛けて振り下ろされたその腕は見事に柚月と女を捕らえた。
……あぁ、死んだ
強い衝撃とともに鈍い音が身体中に響く。
弾丸のような速さで二人は壁へと打ち付けられた。
今自分は生きているのか?
それより女は大丈夫なのか?
痛みが全ての思考を邪魔する。
「おい、お前生きてっか?」
女の声がする。
どうやら女も『まだ』生きているようだ。
「わかんねぇ」
「じゃあ、半幽霊黙ってウチの話を聞け。このままだとお前は本当の幽霊になっちまう」
「まじかよ」
「まぁ、最後まで聞けよ。今ならまだ助かる方法が一つだけある」
「嫌な予感…」
「ウチの代わりにお前があの化け物と戦って祓え」
「どうやって戦うんだよ!俺はこう見えても新聞部!喧嘩もしたことないんだぞ」
「ウチ達はあんな化け物達専用の霊媒師。『除霊師』だ。お前には一時的にそれになってもらう」
「だからどうやって……」
「黙って聞けっての。ウチの霊力を込めた弾丸をてめぇに打ち込む。上手くいけば霊力を持った『除霊師』。失敗すればただ脳天を弾丸が貫通するだけになるなぁ」
「弾丸?!え?俺、銃で打たれんの?脳天を銃で貫通されるの?」
「どうだ面白ぇだろぉ?!」
「面白くねぇよ!!」
ほんの少しの沈黙の後、柚月は長いため息を吐き呟いた。
「でも、それしか方法が無いなら俺の頭をぶち抜いてくれ」
覚悟を決めた柚月を見て女はニヤリと笑みを浮かべた。
「お前…イイ男じゃねぇか。じゃあ死んでも後悔すんなよ。禊祓ーー『
ーー
己の身を清め穢れを祓うことにより個々の霊力を最大限に引き出す行為。
多くの除霊師は柏手を打つことでこの状態へと入り除霊を行う。
女はポケットから御札を取り出すと宙になげ柏手を一つ打った。
ヒラヒラと舞う御札が柏手の音を聞いて二丁の拳銃へと姿を変える。
女は空中で拳銃をキャッチすると柚月の頭に銃口を突きつけた。
「てめぇ、名前なんて言うんだ?」
「天草柚月!あんたは?」
「天草だぁ?!あぁ、ウチは八重山莉瑚!なにか言い残したいことはあるかぁ?!」
「死んだら呪ってやる」
「だったら死ぬんじゃねぇぞ柚月」
バァンと静かな廃墟に激しい銃声が鳴り響いた。
莉瑚が放った弾丸は確実に柚月の脳天を貫いた。
地面に伏せる柚月。
その体はピクリとも動かない。
「え?マジ?ウチ殺っちゃった?」
そんな疑問はすぐに消えることとなる。
蒼い炎に柚月の体が包まれ見えなくなっていく。
そして炎がユラユラと徐々に消えていくと見えてくる男の姿。
除霊師 天草柚月である。
柚月の人差し指と中指の間には莉瑚と似たような御札が挟まれている。
「莉瑚さん、これどうやって使うの?」
「かっこいい登場したのに一言目がダセェな。それは霊符。柏手を打てばそれがお前の霊力にあったものに変わるんだよ」
「なるほど!じゃあ俺も。ーー禊払」
「クカァ!クカァ!天草柚月の天気は晴れ」
霊符が姿を変えたのは白色に輝く綺麗なカラスだった。
カラスは柚月に天気を言い終えるとその姿を日本刀へと変えていく。
「御札からカラスがでて天気を言って刀に変わってなんだこれ」
「柚月後ろっ!!」
柚月の後ろには満面の笑みを浮かべたあいつがいた。
そしてまたもや腕を柚月目掛けて振り下ろす。
その速度は零距離の柚月が躱せるものではない。
激しい音ともに廃墟ごと揺れ動く。
砂煙が舞いその中に柚月と化け物の二つの影が見える。そしてその影には化け物の片腕がない。
「次、そのデカイ図体斬るぜ」
柚月は化け物を見下ろすほど飛び上がった。
身体能力の大幅な向上と霊力の底上げ。
それは全て晴れの天気が齎したもとである。
「
刀身がオレンジ色に輝いている。
空高く舞い上がった姿にオレンジの光。
それはまるで小さな太陽のようにもみえる。
飛び上がりただその刀身を振り下ろすという単純行動の力技。
それゆえこの技は破られない。
それに合わせるように化け物も残った腕で攻撃を仕掛ける。
ーー刀と大木のような腕がぶつかり合う。
二つの凄まじい衝撃に耐えられず廃墟はどんどん倒壊していく。
柚月と化け物、お互いに全身が震えるほど大きな叫びを上げている。
だんだんと柚月と地面の距離が近くなっていく。
その直後、衝撃音が鳴り響き視界を遮るほどの砂煙が舞った。
ゆっくりそしてぼんやりと時間をかけながら晴れていく煙の中にそいつは立っていた。
「終わったぜ」
そう言うと柚月は地面に伏し動かなくなった。
ジョレイエム おハロー @hello-antihero
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